逆転移を起こさせるほどAIが進化した世界で、人間はいかに生きるか

本作の主人公は、荒廃した未来で、AIを相手とするカウンセラーです。

カウンセラーの専門用語として「逆転移」があります。カウンセラーはカウンセリングの最中に、クライアントに対して様々な感情を抱きます。時には悪感情も。その感情は、半ば、カウンセラー自身の心が映し出されたものです。自分が何を抱えているのか。それを意識しないとカウンセラーはクライアントとのカウンセリングを善い方向に導けません。

主人公が新たに担当するクライアントは、極めて優秀で、人間的なAIです。カウンセラーに逆転移を起こさせるほどに。

こうして、カウンセリングが、カウンセラー自身の心を解剖する旅となります。

重いテーマを描写する、文体は極めて堅実。端正さと読みやすさのバランスが高い位置でとれていて、破綻することがありません。

例えて言うなら、堅牢に建築されたジェットコースター。乗客は「死んじゃうー」と叫びますが、車体とシートベルトは確実に乗客をホールドし終点へと運びます。

後はシートに身を委ねればいい。さあ、発車ベルが鳴ります。

その他のおすすめレビュー

村乃枯草さんの他のおすすめレビュー260