感情を手にしたAI――その心のケアを行うために設立されたAI対策機構AICO。そこに所属するディアナは、新たなパートナーとして恋愛型AIエレジーを迎える。けれど彼は、愛を忘れたAIであった…。
荒廃した世界を避けるように創られた世界は、まさにSFの世界そのもの。けれど、そこを舞台に展開される物語は愛に満ちています。
親愛、恋愛、誰かを信じる愛、信じたいと願う愛。愛の形は様々あって、そこからは時に苦しみや悲しみさえ生まれます。このような多面性は、どこか様々な波長を内包する『光』と似ているのではないかな、と本作を読んでいて感じました(最後にはそっと胸を暖かくしてくれる…という部分も含めて、です)。
読み終えた時に、ほんのり心が暖かくなる。本作は、そんな優しさを持った物語です。是非、ご一読くださいませ。
本作の主人公は、荒廃した未来で、AIを相手とするカウンセラーです。
カウンセラーの専門用語として「逆転移」があります。カウンセラーはカウンセリングの最中に、クライアントに対して様々な感情を抱きます。時には悪感情も。その感情は、半ば、カウンセラー自身の心が映し出されたものです。自分が何を抱えているのか。それを意識しないとカウンセラーはクライアントとのカウンセリングを善い方向に導けません。
主人公が新たに担当するクライアントは、極めて優秀で、人間的なAIです。カウンセラーに逆転移を起こさせるほどに。
こうして、カウンセリングが、カウンセラー自身の心を解剖する旅となります。
重いテーマを描写する、文体は極めて堅実。端正さと読みやすさのバランスが高い位置でとれていて、破綻することがありません。
例えて言うなら、堅牢に建築されたジェットコースター。乗客は「死んじゃうー」と叫びますが、車体とシートベルトは確実に乗客をホールドし終点へと運びます。
後はシートに身を委ねればいい。さあ、発車ベルが鳴ります。