狐降る夕、君を想ふ

作者 夢見里 龍

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★★★ Excellent!!!

そうです。そうでした。
わたしにもこんな思い出があったのでした。

でも、大事で、とても大切で。

かけがえのない記憶でしたから、厳重に仕舞い込み、きっちりと封をして、片隅の暗い、暗いところへと押し込んでしまったのです。

そうしたらーー忘れてしまったのですよ。

決して忘れてはいけなかったのに。ずっと、ずっと覚えていたかったのに。あれだけ涙を流したのに。

人間って不思議、ですよね。

胸が苦しくなるほどに懐かしくて、どこか妖しくて、溜息が漏れ出るほど美しい感情と風景の描写に震えます。

切ないあの日の恋心を貴方に。もう一度。

★★★ Excellent!!!

この作品に込められた筆者のアイデアとしてのセンスの美しさは素晴らしいです

筆者は物語の中で曼珠沙華をひとつのテーマとして根幹に取り上げられています。……物語には曼珠沙華に纏わる重要な伏線が美しいアイデアとして作品に美しくもりこまれています。

筆者はまず、曼珠沙華の果てしなく数多くある呼び名の中で、曼珠沙華ではなく、狐花(きつねばな)という呼び名をあえて選んでいます。

線香花火が、華やかに飛び散る様を曼珠沙華(狐花)に見立てて比喩し、きつねはなび(狐花)と、重ねるノスタルジーな思い出。そのワンシーンが映し出されるセンスも美しいものですが……何よりも美しく心がうたれたのは、少女の切ない想いそのものが、曼珠沙華の花言葉に由来していく美しさ、曼珠沙華の花言葉そのものが少女と主人公の関係を比喩しているところにあると感じました。

曼珠沙華の花言葉は、「再会、思うのはあなた一人、転生、悲しい思い出、また会う日まで……」

その隠れた秘めやかな少女の想いが、気持ちを後押しし、少女自身が本当に曼珠沙華(狐花)そのものの化身のように思えてきました。

物語のラストでは少女がまさに狐花(曼珠沙華)の化身であるかのように、華々しく昇華されていきます

筆者の秘めた美しい意図を紡ぐ、曼珠沙華の花言葉を比喩したかのような存在の少女。少女の切ない想いを紡ぐ美しいノスタルジー作品……。

曼珠沙華(狐花)の化身の少女、

忙しい現実の中で、すでに存在しない初恋の少女の記憶を、初恋そのものを忘れていた主人公自身と少女の再会

そこよりおりなす物語は曼珠沙華の花言葉通り、少女の想いそのものが語られてゆくようでした

幻想的なとても素敵な作品です(^_^)

★★★ Excellent!!!

「今晩あたり、狐が降るかとおもって」

 不思議な女性に誘われるまま、「狐が降る」のを待つことになった主人公。

 圧巻なのはラストに描き出される彼女の姿。
 文章を読み解くうちに、脳内に色鮮やかな映像が再生されていきます。その美しさは感嘆の声しかでません。

 文字が持つ無限の可能性を感じることができます。

 お盆の時期に読み返したくなる物語、この夏、あなたも狐が降るのを一緒に見届けませんか?

★★★ Excellent!!!

作者は非日常を流麗に描写することを得意とする人。本作は一般青年の一人語りという形式を取るため文の装飾は抑えめですが、作中にはきちんと非日常が待ち受けています。

想い出は丸きり忘れてしまうと意識に昇ってこなくなります。昔のことだから。生活が忙しいから。いろいろ理由はつきます。でも、それだけ? 見えなかったのではなくて…… 答えは作中に探してください。

夏の夕べは郷愁を呼びます。作中にあるように去年と今年の夏は今までできたことができない寂しい夏ですが、過去に想いを馳せることは昔と変わらずできるのではないでしょうか。

★★★ Excellent!!!

とある夏の日のこと。
日常と連続する非日常。
かつてあったあの夏の、あの夜のこと。そこにたしかにいた、自分とあの子。

不意に越えてはいけない境界線が二人の間に引かれたとしても、それでも、あの夏は、あの夜はたしかにあった。
きつねはなびのように、咲いて、香って。落ちて消えた。


「わすれてもいいよ、わたしのこと。でも、また、想いだして」

振り返るのではなく、いつでもともにありたい。そういう願いを抱ける相手というのは、多分、探しても見つかるようなものではないのでしょう。
もしかして、だからこそ、この物語の主人公は、まだ知らない夏が来るたび、そこに鈴はいやしないかと探してゆくのかもしれません。

美しい文章が夏の夜にしかしないあの香りをも描き出す、エモさ満点の物語でした。ありがとうございます。