概要
鶴のような真白の振袖をまとったそのひとは無人駅の端にたたずんで、いつも誰かの訪れを待っていた。誰を待っているんですかと訊ねた僕に、彼女は寒椿のような唇を綻ばせて「――春を」といった。
その冬、僕はたぶん、ゆきおんなに恋をした。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!『ぼく』と『あのひと』の交流が流麗な文章で彩られる
この小説の白眉は『ぼく』が短歌を詠む場面だと思いました。『ぼく』の心情を慮るとなんとも切ない気持ちになります。
『ぼく』は『あのひと』の正体が薄々分かっているから、未来でどのような結末が待っているのか、おそらく切ない関係となってしまうだろうことを察しているし、また『あのひと』も当然自分の正体を知っている(明言はされていませんが)わけで、しかも『ぼく』の想いをなんとなくわかっているっぽい、けれど答えられない。でも二人が一緒にいられる時間は限られている。
そんなもどかしさとか切なさとか甘美さが一緒くたになって収まっているのがこの場面です。
この小説は要所要所で切なさを何度も積み重ねているた…続きを読む - ★★★ Excellent!!!美しや。待つではなく俟つ。俟つなのです。
美しい。実に美しい。
『百舌鳥たちて 茅の繁みに わすれぶみ』
(発句。脇句はぜひ、本作『彼女は春を俟っている』の中でお楽しみください)
この和歌の作者は一体誰でしょう?
小野小町でも紀貫之でも北原白秋でもありません。
寂れた無人駅でいつも一人電車を待ち、その電車に一人乗り込む男子高校生、僕。僕が作者です。僕の名前は……。
僕はいつしかあの人に。僕はいつしかあの人を。
根雪を踏みしめなら歩く僕の姿、冒頭のそれと『あの人』と出会った以降のそれと、全く違って想像されます。ふんわりほっこり、温かい気持ちに包まれます、『読者が』です。
これぞ純文学。
日本語、韻。その美しき余韻に浸り味わ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!限りなく透明な薄ら氷が張られたよう。芸術美が極まる。春と冬と僕の物語。
白絹の振袖をまとったひとは「春」を俟っていました。
駅のホームで「僕」と「美しいひと」が会話します。
その会話の内容も、人物と風景を描写される文章も、端麗な折箱に行儀良く並べられた上等な和菓子のように煌めいています。美し過ぎて食べてしまうのが勿体無いと感じられる工芸品の風情。一字一句を味わいたくなります。
劇中で「僕」が詠む短歌の解釈が、麗らかな天に届いて巡ります。
「春」を俟っていたひとのもとへ、
「春」が訪れたとき、
六花の如き結晶が舞い、美しいひとも舞う。
さいご、美しいひとの正体が分かったあと、「僕」の唇にのせられる思いに、おごそかに共感できるはず。この読後感を是非、多くの方に…続きを読む