限りなく透明な薄ら氷が張られたよう。芸術美が極まる。春と冬と僕の物語。

白絹の振袖をまとったひとは「春」を俟っていました。

駅のホームで「僕」と「美しいひと」が会話します。
その会話の内容も、人物と風景を描写される文章も、端麗な折箱に行儀良く並べられた上等な和菓子のように煌めいています。美し過ぎて食べてしまうのが勿体無いと感じられる工芸品の風情。一字一句を味わいたくなります。

劇中で「僕」が詠む短歌の解釈が、麗らかな天に届いて巡ります。
「春」を俟っていたひとのもとへ、
「春」が訪れたとき、
六花の如き結晶が舞い、美しいひとも舞う。

さいご、美しいひとの正体が分かったあと、「僕」の唇にのせられる思いに、おごそかに共感できるはず。この読後感を是非、多くの方に味わっていただきたく思います。

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