彼女は春を俟っている

作者 夢見里 龍

156

54人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

私程度の読解力では一度読んだだけで全てを把握するのは不可能です。それだけ濃密で、それだけ文章が硬い。

だから幾度も読み直しましょう。

一度読めばストーリーが分かり、
二度読めば描写の内容が分かるようになり、
三度読めば話のでディティールが分かって

この小説の凄みを理解できます。


それくらいのことをする価値はある作品です。

★★★ Excellent!!!

 2月のある日。電車に乗るわけでもなく、駅近くで佇む美しい女性。主人公は、幾度となく見かける彼女に声をかけます。

 冬の白く凍てつく情景と女性の表現が何とも美しく、儚く浮かびます。

 そして、彼女がまつという春がやって来ると……。この先は、是非読んで確かめてください。

★★★ Excellent!!!

この小説の白眉は『ぼく』が短歌を詠む場面だと思いました。『ぼく』の心情を慮るとなんとも切ない気持ちになります。

『ぼく』は『あのひと』の正体が薄々分かっているから、未来でどのような結末が待っているのか、おそらく切ない関係となってしまうだろうことを察しているし、また『あのひと』も当然自分の正体を知っている(明言はされていませんが)わけで、しかも『ぼく』の想いをなんとなくわかっているっぽい、けれど答えられない。でも二人が一緒にいられる時間は限られている。

そんなもどかしさとか切なさとか甘美さが一緒くたになって収まっているのがこの場面です。

この小説は要所要所で切なさを何度も積み重ねているため、どんどん『ぼく』に感情移入させられていき、やがてラストで、自然界のタイムリミットがやってきたとき、「ああ来てしまった」と寂しくなるけれど、季節は巡るため、少しだけ希望がある。寂しさと暖かさが同居したような読後感になります。

当然そう思わせてくれるのはシチュエーションの力だけではなく、切なさを感じさせる冬という季節を言葉巧みに彩る文章力があってこそだと思います。

冬の季節に読むことでよりいっそうこの小説を楽しめると思います。おすすめです!

★★★ Excellent!!!

美しい。実に美しい。

『百舌鳥たちて 茅の繁みに わすれぶみ』
(発句。脇句はぜひ、本作『彼女は春を俟っている』の中でお楽しみください)

この和歌の作者は一体誰でしょう?
小野小町でも紀貫之でも北原白秋でもありません。

寂れた無人駅でいつも一人電車を待ち、その電車に一人乗り込む男子高校生、僕。僕が作者です。僕の名前は……。

僕はいつしかあの人に。僕はいつしかあの人を。
根雪を踏みしめなら歩く僕の姿、冒頭のそれと『あの人』と出会った以降のそれと、全く違って想像されます。ふんわりほっこり、温かい気持ちに包まれます、『読者が』です。


これぞ純文学。
日本語、韻。その美しき余韻に浸り味わうことのできる言語を我々は扱うことができている。これこそが幸せ。
そこに気づかせてくださる優しく柔らかく高貴に溢れた文章を楽しむことができました。
素敵な作品との出会いに感謝、感謝です。

至極のひとときを味わわせていただきました。

★★★ Excellent!!!

白絹の振袖をまとったひとは「春」を俟っていました。

駅のホームで「僕」と「美しいひと」が会話します。
その会話の内容も、人物と風景を描写される文章も、端麗な折箱に行儀良く並べられた上等な和菓子のように煌めいています。美し過ぎて食べてしまうのが勿体無いと感じられる工芸品の風情。一字一句を味わいたくなります。

劇中で「僕」が詠む短歌の解釈が、麗らかな天に届いて巡ります。
「春」を俟っていたひとのもとへ、
「春」が訪れたとき、
六花の如き結晶が舞い、美しいひとも舞う。

さいご、美しいひとの正体が分かったあと、「僕」の唇にのせられる思いに、おごそかに共感できるはず。この読後感を是非、多くの方に味わっていただきたく思います。

★★★ Excellent!!!

季節が移り変わっていく時、人は何かしらを感じ、心を揺らします。
多くは、時が巡れば忘れてしまうような些細なこと。
冬が厳しいほど、春が待ち遠しい。毎年のことです。

「春を俟つ」不思議な女性との邂逅は、凍える雪景色に光が射した時の燦きのようでした。
華やかな、みんなが待ち望む春には、見られないものでした。

例えその時感じたことを忘れてしまっても、また時が巡れば必ず思い出す。
過ぎゆく季節の淋しさと愛おしさを感じる、素晴らしい掌編でした。

★★★ Excellent!!!

美しいと言う言葉に尽きる。

洗練された筆致により描き——いや、削り出した描写の数々。
そのどれもが艶やかで、粋。
冬の持つ寒さや厳しさだけではなく、美しさや細やかさが表現されており、その一つ一つが、雪が溶けいるように肌に染み入ります。そうしていくうち、まるで自分が本当にそこにいるかのような錯覚に陥ります。VRなどなくとも、人は作品世界に入ることが出来るのだと、この小説が証明しました。
ぜひ、文章表現の可能性をご堪能下さいませ。

寒い世界は、嫌?
大丈夫です。目に映る景色はとても冷たいのに、読後には温かな気持ちが残りますので。

★★★ Excellent!!!

寒い冬。
高校生の少年が使う駅に現れた不思議な女性。
彼女は「春」を俟っているのだという。
少年は彼女に恋をするようになるけれど……。

詳細を描くのは差し控えますが、結末が、真実が、美しいです。

「春がきた。あのひとの俟っていた春だ。」
そのことばが、その先を思わせて悲しく、嬉しく、ともかく背筋がぞくぞくするほど、すてきだったのです。
一文で、春の訪れを感じることができて。

冬と春の狭間のような文章の温度感も素敵でした。

皆様に読んでいただきたいです……!

★★★ Excellent!!!

その人はある人を待っていると言います。では、その人は待たれているのか。

待たれる存在とは、どういう存在でしょう。

本作は、何かを待つということを、色鮮やかでありながら抑制が効いた日本語で織り上げます。全てが明らかになったとき、それを描くに十二分だと分かる美しい文です。

あなたは誰かを待っていますか、待たれていますか。

★★★ Excellent!!!

雪降る寒い朝。吹きっさらしの無人駅に佇む美しい女性。
通学のために駅に通う僕は、毎朝のようにその女性を見かける。
彼女は電車には乗らない。聞けば「春を俟っている」という。

白い着物。黒い髪。寒椿のような赤い唇。
彼女は季節が春に向かう様を短歌に詠む。知性と気品を感じさせる女性だ。
僕は彼女に恋心を抱くが……冬が終わり、やがて春がやってくる。

溜息のでるような美しい文章だ。五感の全てで堪能できる。
自然の移ろい。心の揺らぎ。僕の詠んだ歌が、切ない。

春を俟つ人は多くいても、冬を俟つ人は少ないのだろう。
けれども、冬を越してこその春なのだ。
冬の存在があるからこそ、春は待ち焦がれる。

この美しさ、静謐さに触れてほしい。
文句なしにお勧めの作品だ。(星みっつなんて、足りません)