『ぼく』と『あのひと』の交流が流麗な文章で彩られる

この小説の白眉は『ぼく』が短歌を詠む場面だと思いました。『ぼく』の心情を慮るとなんとも切ない気持ちになります。

『ぼく』は『あのひと』の正体が薄々分かっているから、未来でどのような結末が待っているのか、おそらく切ない関係となってしまうだろうことを察しているし、また『あのひと』も当然自分の正体を知っている(明言はされていませんが)わけで、しかも『ぼく』の想いをなんとなくわかっているっぽい、けれど答えられない。でも二人が一緒にいられる時間は限られている。

そんなもどかしさとか切なさとか甘美さが一緒くたになって収まっているのがこの場面です。

この小説は要所要所で切なさを何度も積み重ねているため、どんどん『ぼく』に感情移入させられていき、やがてラストで、自然界のタイムリミットがやってきたとき、「ああ来てしまった」と寂しくなるけれど、季節は巡るため、少しだけ希望がある。寂しさと暖かさが同居したような読後感になります。

当然そう思わせてくれるのはシチュエーションの力だけではなく、切なさを感じさせる冬という季節を言葉巧みに彩る文章力があってこそだと思います。

冬の季節に読むことでよりいっそうこの小説を楽しめると思います。おすすめです!

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