『綾貸師』という設定が独特の発想で、言葉遊びも面白い。
現代ファンタジーのバトルものに必要不可欠な、つい叫んでみたくなるカッコイイ技の数々。驪玖と晶の可愛らしいキャラクター。
色んな要素が際立っていてそれだけで面白いのに、それらはすべてドラマによって集約されています。
身体を貸したからこそ浮き彫りになる自分のアイデンティティの揺らぎ、伝えたくても伝えられないもどかしさや恐怖。
驪玖はどんな答えを出すのか、とても楽しみながら読みました。
この世界を長編でも読んでみたい。そう思わせてくれるエンターテイメントです!
和風ファンタジーという新鮮な設定が盛沢山の短編です。
呪文を唱えて火が出るタイプに慣れてきた世の中ですが、そこで少し味を変えてくれるのがこの作品。「ファンタジーと言っても色々あるよな……」と思い出させてくれました。世界観も現代ベースなので読みやすいです。
前編、中編、後編とテンポ良くまとまっているのは「まるで当然」と言わんばかりのクオリティ。そこにしっかりと書き手「 綺嬋(ちー・ちゃん)」味が表現されています。殊に、登場人物の関係性および心理描写の味わいが濃厚。物語の中で素材を用意し、感動へと調理していく……と言うべきでしょうか。
娯楽には飢えているけど味変してみたい。
そんな小説グルメな貴方にオススメな一作です。
かわいさ、カッコよさ、わかりやすさ、尊さ(百合)……エンタメに求められるすべてを完璧にクリアした作品でした。
この短さで、エンタメに求められる表層的な面白さと、物語に求められる深みのあるヒューマンドラマが両立されており、そのバランス感覚に脱帽しました。
また、主人公の弱点・悩み・欠陥の陳列とその解決が見事にされていて、読んでいてとても清々しい気持ちになりました。
読者としては「面白い!」の一言に尽きるのですが、同じ創作家としてはどれだけ言葉を尽くしても足りないほどに興奮しました。
とにかく面白いものを読みたいと言う人も、面白いエンタメ短編を書いてみたいと言う人も、この作品を読めば満足できることでしょう。
これぞエンターテインメント。そう言う一作でした。