美しや。待つではなく俟つ。俟つなのです。

美しい。実に美しい。

『百舌鳥たちて 茅の繁みに わすれぶみ』
(発句。脇句はぜひ、本作『彼女は春を俟っている』の中でお楽しみください)

この和歌の作者は一体誰でしょう?
小野小町でも紀貫之でも北原白秋でもありません。

寂れた無人駅でいつも一人電車を待ち、その電車に一人乗り込む男子高校生、僕。僕が作者です。僕の名前は……。

僕はいつしかあの人に。僕はいつしかあの人を。
根雪を踏みしめなら歩く僕の姿、冒頭のそれと『あの人』と出会った以降のそれと、全く違って想像されます。ふんわりほっこり、温かい気持ちに包まれます、『読者が』です。


これぞ純文学。
日本語、韻。その美しき余韻に浸り味わうことのできる言語を我々は扱うことができている。これこそが幸せ。
そこに気づかせてくださる優しく柔らかく高貴に溢れた文章を楽しむことができました。
素敵な作品との出会いに感謝、感謝です。

至極のひとときを味わわせていただきました。

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