フィクションであることを忘れ、この小説の中に真実の物語を見る。

タイムカプセル掘り起こし。経験されたかた、おられるかな?
本作『たんぽぽ娘』はそのエピソード話。

色鮮やかに蘇る想い出が主人公の回想で語られるのですが、その切り替わりが鮮やか。もう、冒頭で既に筆者朔さんの筆力に悶絶です。

主要登場人物は二名。

一人は「かばきみえ」さん。あだ名、かばちゃん。
可愛いあだ名。おデブでのっそり動くその姿を揶揄したものではなさそうなんです。彼女の容姿が語られることはないのですが、お友だちととても仲良くやっている様子から、いじられキャラ的なものは感じない。だから安心してそのあだ名を読者はすんなり受け入れることができる。
ただね、彼女は自身の姿にコンプレックスがあるみたい。だって――。

もう一人は「しらきれん」くん。なんて流れるような美しい名前。みんなは「れん」と呼んでいたらしい。

「その子を花で例えるなら」
いつしか生まれたそんな話題。”飛べない鳥の羽ばたきに見える白い花”。これ、めっちゃもやっとしました。水仙やスズランという花名はさくっと登場していたのに、この木の花の名だけが出てこない。
「なんの花?」
気になってしかたありませんでした。
だけど、そういえば――。

本作『たんぽぽ娘』は何度も読みたくなる……いえ、何度も読んだほうがぐっとずっと味わいが深くなる。何巡もすることをおススメいたします。

そうそう、朔さん、リアルをとことん追求される作家さまのようです。
舞台の真田町、上田市と合併は史実。
また作中に登場する月間誌名も実在。

フィクションであることを忘れさせてしまう作品。
それは。「真実の物語」としてスムーズにスマートに想像していけるからではないでしょうか。れんの生きたその時代を、その世界を。

『創作家を目指すものの姿勢』を勉強させてくれる 3,652 字。
上っ面ではない本物の物語を味わわせてくれる 3,652 字。

至極の一篇と出会えたことに感謝。

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