小さい頃、漢字ドリルにあった「光」という字が、全然光っていないことに驚きました。当時のことはあまり覚えていませんが「そういうものだ」と頭に叩き込んだ記憶があります。しかし今になり小説を読むと、文章が目が痛いほどに発光する時があります。文字の奥には鮮明な景色が見えるし、ときには人の感情までもが露わになる。私はその発光する瞬間が好きで日々小説の世界に潜り込むのであります。
そして今回カクヨム甲子園2020にて大賞を受賞した、この『たんぽぽ娘』という小説。これがどうも奇妙かつ魅力的な光り方をするのです。「二分の一成人式」で埋めたタイムカプセルを20歳になった主人公たちが掘り起こす物語の中に、組み込まれた回想(10年前)と今日。一見すると普通に流れる過去と現在だが。それが主人公たちの会話に出てきた花、ショパンの『別れの曲』、「飛び立てない鳥」に似た白木蓮、風にのる綿毛、などの全てが繋がったときに、はじめて悲しくも同時に優しい情景として立ち上がってくる。全てのシーンやギミックが最後に繋がって眩い光を作りだす。まさに文の連鎖反応とも言うべき現象が目の前で展開されていくのである。
私の心は気づいたらその光の虜となっていました。ふとした時に読み返してしまう。そして面白いことに何回読んでも、その度に新しい発見があり、違った色で光りだす。私が今まで習った言葉たちが集まって、まさかこんな見せ方ができるなんて。圧巻と言うほかありません。優しい光に包まれることができてとても幸せでした。そして私自身、同じ年のカクヨム甲子園に参加できたことをとても光栄に感じています。
素晴らしい作品をありがとうございました。
タイムカプセル掘り起こし。経験されたかた、おられるかな?
本作『たんぽぽ娘』はそのエピソード話。
色鮮やかに蘇る想い出が主人公の回想で語られるのですが、その切り替わりが鮮やか。もう、冒頭で既に筆者朔さんの筆力に悶絶です。
主要登場人物は二名。
一人は「かばきみえ」さん。あだ名、かばちゃん。
可愛いあだ名。おデブでのっそり動くその姿を揶揄したものではなさそうなんです。彼女の容姿が語られることはないのですが、お友だちととても仲良くやっている様子から、いじられキャラ的なものは感じない。だから安心してそのあだ名を読者はすんなり受け入れることができる。
ただね、彼女は自身の姿にコンプレックスがあるみたい。だって――。
もう一人は「しらきれん」くん。なんて流れるような美しい名前。みんなは「れん」と呼んでいたらしい。
「その子を花で例えるなら」
いつしか生まれたそんな話題。”飛べない鳥の羽ばたきに見える白い花”。これ、めっちゃもやっとしました。水仙やスズランという花名はさくっと登場していたのに、この木の花の名だけが出てこない。
「なんの花?」
気になってしかたありませんでした。
だけど、そういえば――。
本作『たんぽぽ娘』は何度も読みたくなる……いえ、何度も読んだほうがぐっとずっと味わいが深くなる。何巡もすることをおススメいたします。
そうそう、朔さん、リアルをとことん追求される作家さまのようです。
舞台の真田町、上田市と合併は史実。
また作中に登場する月間誌名も実在。
フィクションであることを忘れさせてしまう作品。
それは。「真実の物語」としてスムーズにスマートに想像していけるからではないでしょうか。れんの生きたその時代を、その世界を。
『創作家を目指すものの姿勢』を勉強させてくれる 3,652 字。
上っ面ではない本物の物語を味わわせてくれる 3,652 字。
至極の一篇と出会えたことに感謝。