子どもの頃には確かに持っていたはずのもの。
でも、大人になったら忘れてしまうもの。
忘れていることさえ気付かないもの。
もしかしたら、「そういうもの」はたくさんあるのかも。
作品の序盤を読んで、そんなことを考えた。
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主人公は小学二年生の少年だ。
彼は時間を止めようと試みる。
目覚まし時計を冷凍庫に入れて時間を凍らせようとしたり、
壁の方へ向けて時間を見えなくしたり、
針を戻して時間を戻そうとしたり、
電池を抜いて時間を止めようとしたり。
いかにも子どもらしい発想だ。
もう大人になってしまった私には、この少年のようなことは思いつけない。
大人になるにつれ、気付かないうちにいろいろ失っているんだろうなあ……と、つい遠い目をしてしまう。
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ところが、お母さんの説明もまた独特である。
「時間は凍らないのよ」
「時間は見ていない間にも進み続ける頑張り屋さんなのよ」
「時間は巻き戻すことは出来ないのよ」
「時間は知らない間に追いついて来るのよ」
不思議な説明をする人だ。
もしかしたら、子どもの目線に合わせてくれているのかもしれない。
素敵なお母さんだなあ、と思った。
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だが、その真相は【後編】で明らかになる。
『時間の理(ことわり)』について知ったとき、涙で視界がにじんだ。
お母さんが伝えたのは、息子が前を向いて生きるための言葉だった。
そして、そこに在る深い愛を感じた。
時間は前へと進む。
正しく未来を迎えるために。
そして少年は、大人になってもそれを忘れることはなかった。
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私はいつも時間に追われがちで、ときどき「時間が無限にあればいいのに!」なんて思ったりもする。あるいは、容赦なく流れてゆく時間を恨めしく思ったりもする。
けれど、そんな「時間」についての見方が少し変わる素敵な作品だと感じた。