時間にまつわる概念がユニーク。そして、子どもを思う親の愛に涙する。

子どもの頃には確かに持っていたはずのもの。
でも、大人になったら忘れてしまうもの。
忘れていることさえ気付かないもの。

もしかしたら、「そういうもの」はたくさんあるのかも。
作品の序盤を読んで、そんなことを考えた。

   ***

主人公は小学二年生の少年だ。
彼は時間を止めようと試みる。

目覚まし時計を冷凍庫に入れて時間を凍らせようとしたり、
壁の方へ向けて時間を見えなくしたり、
針を戻して時間を戻そうとしたり、
電池を抜いて時間を止めようとしたり。

いかにも子どもらしい発想だ。
もう大人になってしまった私には、この少年のようなことは思いつけない。
大人になるにつれ、気付かないうちにいろいろ失っているんだろうなあ……と、つい遠い目をしてしまう。

   ***

ところが、お母さんの説明もまた独特である。

「時間は凍らないのよ」
「時間は見ていない間にも進み続ける頑張り屋さんなのよ」
「時間は巻き戻すことは出来ないのよ」
「時間は知らない間に追いついて来るのよ」

不思議な説明をする人だ。
もしかしたら、子どもの目線に合わせてくれているのかもしれない。
素敵なお母さんだなあ、と思った。

   ***

だが、その真相は【後編】で明らかになる。

『時間の理(ことわり)』について知ったとき、涙で視界がにじんだ。
お母さんが伝えたのは、息子が前を向いて生きるための言葉だった。
そして、そこに在る深い愛を感じた。

時間は前へと進む。
正しく未来を迎えるために。

そして少年は、大人になってもそれを忘れることはなかった。

   ***

私はいつも時間に追われがちで、ときどき「時間が無限にあればいいのに!」なんて思ったりもする。あるいは、容赦なく流れてゆく時間を恨めしく思ったりもする。

けれど、そんな「時間」についての見方が少し変わる素敵な作品だと感じた。

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