僕は趣味で小説を書きつつも、生業はサラリーマンで、勤め先でベテランと呼ばれるようになりました。そんな僕は、さっと本作を読んで、諸手を挙げて賛同することはできませんでした。利益は会社のエンジン。無かったら会社は止まる。そして、レビューで賛同者が多くいるの見て気づくのです。僕は老いているのだと。僕は鏡を逆さまに見ていたのです。本作がピンと来なくなったら、危ないです。本作に応えるだけの情熱を失っています。本作はリトマス試験紙のような小説です。
セカイ系とは真逆。むしろその世界を作り、支える、維持する側の人々の物語。しかし、その仕事の原点はセカイ系のような、向こう見ずな情熱であることも多い。立場、責任、リスク……。人々が葛藤し、磨耗し、世界は廻る。そうして世界が続く中で、情熱の火はリレーされていくのだと信じたい。
葛藤の話です。大人になると自分の中の情熱に対して素直ではいられなくなります。特に、家庭を持てば安定を優先することになるので。それでもいつまでも情熱というのは燃えているもので、だからこそ、部下の熱い気持ちを受け止めることは、諦めようとする自分自身と向き合うことでもあり、不都合だったわけです。しかし、人を動かすのは情熱、情熱はエンジンです。人生は、生きるということは、情熱を乗りこなすことかもしれませんね。