まるで叶わなかった恋のように淡く切ない思いはどこにも消えないのにちょっと胸が熱くなった。
売れないバンドマンである主人公は、乗り間違えた電車で、過去に肌を重ねたファンを名乗る女性の姿を発見する。未だにくすぶる主人公と、新たなバンドを追いかける女性との対比や、雪になぞらえた心情の描き方が、切なく心に迫りました。
売れないバンドマン。出会い、別れ。文章うまいです。恋と雪の例えがいいです。
作中で、あるものは触れ、あるものは届かない。でも、ふと気づきます。触れていたのは幻か。東京に降る雪は、雪として形があるようでいて、すぐに溶けて消えてしまいます。形がすぐになくなるものへの託し方が素晴らしい一作です。そして心の底にずしりと残ります。
雪は降っているときや積もった直後は純白であるが、すぐに踏み固められてどんよりとした色になる。瞬間の雪のイメージと、日常の雪のイメージは違う。しかし、汚れた雪の中には汚れていない雪がきっと入っているはずで、この物語は、日常の雪に覆われた初雪がふと顔を覗かせるような、そんな話だと思う。
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