懐かしい、ではなく、新しい過去

本作は、一部に現代物も含みますが、主要を占めるのは過去の日本を舞台にした掌編です。ホラー、という言葉より、怪奇譚、が似合う作品群です。

過去の日本ならば懐かしいのでしょうか。いいえ。描かれるのは読者のほとんどが生まれていない時代の日本。それは皆の記憶に無く、読み進めるほどに、こんな世界があったのかと感嘆します。

若者の間では異世界を舞台にした小説が大流行り。ここではないどこか、を求めているのでしょう。

しかし、世界を跨がず、時を遡れば、私達の先祖が暮らした、今とは違う世の中がきちんと在ったのです。

文体を含めて、この作品群は私達の先祖が残した遺産の上に成り立っています。それは今の私達に新鮮な風をもたらしています。

怪奇譚ですから、少々冷や汗を呼ぶ風ですが。それがいいんですよ。

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