学祭では静粛に!

三奈木真沙緒

序 ――学祭最終日に起きた事件――

00 なぜ、それは起こったか ※全80話前後の見込

「ぬッ」


 江平えびら弓弦ゆづるが受け身をとったのは、とっさの判断として上出来だっただろう。突き飛ばされたことに驚きつつも、あらがわず、つんのめる勢いそのままに、190センチ近くもある体を回転させ、立て直す方を選んだ。回転する途中で、ばんっ、とドアが閉まる音を聞いた気がする。上体を起こしたとき……鼻先に、冷たくつきつけられたものがあった。黒く、硬質の光をはじき、真っ暗な小さい深淵が、江平を飲み込もうとしていた。反射的に、体細胞のすべてが活動を自粛する。


 これは……拳銃、というものでは、ないのか。


 江平は目を離すことができないまま、座り込んだ姿勢で、ゆっくりと、体を引いた。引いたぶんだけ、それは距離を詰めてきた。


 拳銃の知識はまったくない。もしかするとおもちゃかもしれない、モデルガンかもしれない。だが……本物、だったら?


 江平が事態を理解したことを悟ったのだろう、その人物は、唇を歪めた。


 これは――どういうことだ。


 学祭最終日の朝。

 自分がなぜ、こんな事態に巻き込まれたのか。冷たい恐怖に心臓を握られながらも江平は、銃口と、覚えのない顔とを見比べていた。

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