12 美男も美女も大忙し
「あ、浪原ちょっといい?」
麗人はスマホを取り出しながら立ち上がった。
「写真撮らせてよ。今週のナンバーワンって触れ込みで、このへんに貼るから」
「ナンバーワンって」
浪原はおかしそうに顔をゆがめた。
「なんか、それっぽい服に着替えろってこと?」
「いんや、服とかメイクはいいよ。普通に写真撮って、アプリでごりごりに盛るから」
「ああ、そういう方式ね。……顔くらい洗ってくっかな」
ちょっと失礼、と浪原は、洗面所へのそのそ歩いて行った。
「お待たせ」
「あらら、顔拭いた?」
「拭いたよ。当たり前だろう、写真撮るんだから」
「もったいないなあ。水もしたたるいい男じゃなくてよかったのぉ?」
「意味がワカラン」
困惑気味の浪原を、背景が入らないよう壁際に立たせてスマホで撮影する。
「オッケー、ありがと。アプリでゴツ盛りしたら、確認してくれる?」
「怖いような気がするけどな。まあいいや、頼むぜ」
浪原は苦笑しながら、教室企画のほかの生徒たちに合流して、しゃべりながら手順の確認を始めた。「これどうしよう?」「げー」などのやりとりを聞き流しながら、麗人は鼻歌まじりにアプリで写真の加工に着手する。指先でスマホの画面をいじること数分。
「こんなん、どーお?」
2日目店長は会心の笑みで、浪原にスマホを見せた。
「…………盛りすぎじゃね?」
「いーのいーのぉ、ナミちゃんは看板なんだから」
「ナミちゃん……」
「ナミちゃん」の顔写真は、アプリの効果でごっりごりのごりに加工されている。突き出された方はいろいろと気になる様子だ。
「ちなみに、
麗人はスマホの画面をスライドさせた。ノリノリのポーズと表情を決めたクラスの「ナンバーワンホステス」
「滝山……」
硬派の浪原が呆然としているところへ、1組の男子生徒がひょいと顔をつっこんできた。顔が四角い。1組のステージの小道具なのか、台本と一緒にボールのようなものを抱えている。
「4組そろそろ、ステージリハの準備してください……おう!」
教室にいた
「4組ホストクラブやるって、まじか」
「ホストキャバクラだよ。空き時間に来てくれよ、ぼったくってやっから」
罪があるのかないのかわからない冗談が応酬する横で、
「クラスステージ班、体育館に移動!」
「うえーい」
「ダラけてんじゃねえ!」
「はい!」
一部のだらだらした男子が、亮子の一喝を受けて、急にしゃきっと背すじを伸ばした。
ほとんど同じタイミングで、2年生の体育祭赤チーム連絡係をしている2組の男子が、4組の教室をのぞきこんだ。
「赤チーム伝令。赤チーム全員、グラウンド東側に集合」
「……はいっ」
教室に残っていた10人ほどが、「げ」という表情から一瞬おいて返答した。3年生からの指示とあれば、赤チームは何をおいても参集しなければならない。何をおいてもだ。文化祭の準備に追われていようと、ステージリハであろうと。
「っちッ!」
赤チームの連絡係が5組へ行ってしまうと、赤チームの亮子は、品のない舌打ちを盛大に床にたたきつけた。
「
「わかった」
「了解」
蓮華も中西も演劇部員だ。クラスステージでは、蓮華が出演者を、中西が裏方を、それぞれまとめている。
「あー、クッソ、ステージリハが時間通りに回ってりゃこんなことには!」
どすどす、と音がしそうな歩き方で、亮子はジャージに着替えるべく、教室を出て行った。クラスステージ班の生徒たちにはどことなく、ほっとしたような空気が漂う。
「じゃ、ステージ班、体育館に移動しようか」
普段は亮子に圧されて目立たない男子の中西
「ゴメン、オレも行かなきゃ。
同じく赤チームの麗人は、麻衣を拝むような動作をした。
「うん、いいよ。あたしも、いつまでいられるかわからないけど」
白チームの麻衣は軽く手を振った。お互い様だし、3年生のお達しだから、誰も文句は言えないのである。
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