04 はじめての検問
秋の夜空は、一等星が少なく、もの寂しい。大柄な高校生の
おや、と江平は不審な光景に気づいた。
いつの間にか、大通りに車がずっと並んで渋滞している。こんな時刻にここまで混んでいるのを見た覚えはない。江平は首をひねりながらもすたすたと歩き続け、止まってしまった車を追い抜きながら歩道を進んでいく。ほどなく、理由がわかった。路側帯が広くなったところにパトカーが停めてあり、赤い回転灯が夜の空気を音もなくかき混ぜている。どうやらこれが渋滞の原因らしい。止まっている車の先頭が、ゆっくりと加速に入った。その次の車両のそばで、警察官が何かの動作をしている。暗くてよくは見えないが。歩いて行くうち、ついに江平自身もその地点に差しかかり、横合いから別の警察官に声をかけられ、パトカーのそばへ連れて行かれた。自分にやましいことはないし、先ほどの車の動きを見ていたので、これが検問というやつかと思ったら、果たしてその通りだった。
「きみ、明洋高校の生徒だね。この時間まで学校なの?」
この警察官は、眉間にしわを寄せた
「学祭が近いので、準備で遅くなっています。その上、友人と軽食もとってからの帰りですので。今ごろまだ、同じような生徒がうろついていると思います」
「ああー、学祭か。そんな時期だね」
ごくわずかに、警察官の表情がゆるんだ。
「家はどのあたり?」
と聞かれたので、江平は地区名を答え、
「あ、きみ、江平さんとこの子か」
警察官の表情がさらにゆるんだ。
「実は、ある事件があって、人を捜しているんだ。腕に特徴があってね。左腕を見せてもらえないかな」
やはり検問だった。江平の身元が判明したとはいえ、調べないわけにはいかないのだろう。素直にシャツ袖口のボタンを外すと、ニットカーディガンもろとも左袖を大きく押し上げ、腕をあらわにした。
「はい結構。ありがとう。気をつけて帰るんだよ」
「おつかれさまです」
一礼して、歩きながら袖を下ろす。何があったのか、左腕にどんな特徴があるのかは、教えてもらえなさそうだった。まあ、何があったのかくらいは、明日の朝にはわかるかもしれない。腕の特徴は……公表されないだろう。今どき、そんな情報をうっかり漏らしたら、あっという間にネットに載せられてしまう。個人の情報網も発達した現代、犯人に情報が知られたら面倒なことになるのだろう。
歩道に戻った江平のそばを、別の車が追い越し、通り過ぎ、遠ざかって行った。警察官が「すみませーん」と運転者に呼びかける声が、後ろから聞こえた。検問の箇所を越えてしまうと交通は、嘘のように滑らかに流れていた。
◯
大通りから脇道に入ると、交通量はぐっと下がる。住宅と、小さな自動車の整備工場のシャッターと、暗闇に沈む木々とが入り乱れる道は、歩道も狭くなる。不意に、自身の革靴の音が、より大きく響くようになった。行き来する車がほとんどなくなったせいだ。靴は歩きにくいなと江平は思っている。やはり足元は下駄か
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