38 楽しい楽しい男子会
「さすがのオレも、ちょっとばかりカチンときたのよね」
「よほどヒネた野郎だな、その渡辺っての」
スティック菓子をかじって、
内心で一馬は、そんな言いがかりをつけてくる渡辺ってやつこそが犯人じゃないのか、とまで勘ぐっていた。しかし、自分はそもそも渡辺に会ったこともないし、どんな人間なのかも知っているとはいえない。証拠だってないのだから、それこそ渡辺と同レベルになってしまう。さすがに決めつけ発言は差し控えた。
――待てよ。なんで俺は、木坂麗人のことで、こんなに腹立ててんだ?
「そもそも、なんでその渡辺ってのは、お前を根拠もなく泥棒呼ばわりしたんだよ」
「知らないよぉ。とゆーよりオレ、どーも以前から渡辺に嫌われてんのよね」
「まあ、お前を嫌う気持ちはわからんでもないけど」
「なんでぇ? オレがセクシーで男前すぎるから?」
「そういうとこだと思うぞ」
「ええぇ、どーしよう。いや、ずっと前から思ってはいたのよ、オレって年の割には、ちょっとセクシーが過ぎるんじゃないかって。世界中の女性から、恋人になってって言われちゃったらどーしたらいいだろうって……」
「お前、わざとで、俺の答え、曲解してるだろう」
もはや怒鳴る気力もなくなった一馬は、スポーツドリンクのボトルをあおって、喉を
「で、そやつに抗議したというわけか」
男子高校生が4人もちゃぶ台を囲むと、さすがに狭い。
「オレよりも黒川の反応が早くてね……んん?
麗人が呼びかけ、一馬と江平はようやく、黒川の様子に気づいた。サングラスをちゃぶ台の片すみに置き、表情はいつもと同じで、つまり不機嫌そうに見えるのだが、どことなく困惑の粒子が漂っている。
「いかがした」
「変なモノでも食ったか」
「……そういえば、夕方、あの子に呼び出されてなかった?
黒川遥は、なんだかなあ、という方角に口を曲げた。
「……告られた」
「…………はっ?」
ひとりと3人は、それぞれに沈黙し、黒川の言葉の意味が空気に浸透していくのをぼんやりと眺めていた。そして爆発は急激に起こった。
「こ……お前が?」
「まことか?」
「うそ~ん? 道理で昨日の帰り、オレが雪乃ちゃんに話しかけても反応鈍いなって……遥ちゃんの方でしたか……」
黒川はウーロン茶をすすり、茶が渋かったかのような表情になった。
「誰だ」
「ほら、2組の、けっこうカワイイ……」
「ああ、あのなかなか胸が……」
「エビらん、女の子をバストサイズで覚えてるの?」
「お前、他人のこと言えた義理か?」
麗人と江平のひそひそと不毛なやりとりに、一応ツッコミを入れてから、一馬は心もち体の向きを変えて、膝をすすめた。
「それで……どう答えたんだよ」
「どうも何も、断った」
すぱん、と黒川は回答した。回答そのものは明瞭だったが、表情にはまだ困惑が貼り付いている。
「なんとお?」
「うわ、もったいな~!」
「黙れ木坂麗人、お前が言うと低俗だ」
「それはヘンケンでしょ、カズちゃん。じゃなくて、な~んでフっちゃったのよぉ、遥ちゃん」
「おれ今彼女いらねえし。そもそも、そんな効果狙って渡辺ボコしたんじゃねえよ」
だんだん苦みを増してきた声と表情で黒川は、それはもう外野がどうこう言える問題ではないという心境を吐き出した。実際には、渡辺の腕を捻り上げただけなのだが、いつの間にか「ボコした」ことになってしまっている。
そこから話題はどんどん脱線していった。
「遥ちゃんって、とりあえずつき合ってみるってことをやらないのよねぇ。恋愛観がわかんないわぁ」
「俺にはお前の方がわからんぞ木坂麗人」
「そういえば黒川の好みの女子とはどういう雰囲気なのだ」
「たぶん、気の強い女の子だと思うけどね」
「なんだよ木坂麗人、具体的に知ってんのか」
「いやー、知ってるってワケじゃないけど、そんな気しなぁい? てか、カズちゃん、なんでいちいちオレのことフルネームで呼ぶワケぇ?」
「お前酔ってんのか? 口調がアヤシいぞ」
いつの間にか
気の強い女の子、か。そういえば
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