68 友だちじゃない(力強い主張)
――後夜祭という、学祭最後の大騒ぎを控え、体育館は大きなざわめきで飽和状態になっていた。放課後という扱いのため、日中の学祭の時程と違って、各自の参加は自由だ。開始時刻は夕方5時。体育祭が終了し、ホームルームを終え、預けていた貴重品が返却された後で、生徒たちは再び仮装を身に着けたり、思い思いに記念撮影をしたり、片付けを行っていると、あっという間に時は過ぎて、後夜祭に参加するならそろそろ体育館に行かなくちゃ、という頃合いになる。そうして体育館に集まったのは、全校生徒の8割くらいだろう。さらにその9割ほどが、文化祭と似たような仮装をしている。制服の生徒も、ごく少数いた。帰ってしまった生徒、学校にはいるが後夜祭には参加しない生徒も、存在するのである。
アリーナでものを食べるのは禁止だ。壁際には、個性さまざまな水筒、マグボトル、ペットボトルなどが並んでいる。
無人のステージには、バンド演奏の用意と音響設備がすでに鎮座し、出番を待ち受けていた。
「大丈夫かねえ」
国民的ファンタジーRPGシリーズの主人公の仮装で、
「あいつら、あんな急にバンド演奏なんかやることになっちゃって。記念撮影とかすっぽかして練習ったって、2時間もないだろ?」
「まあなあ」
「2年があんまりブザマなことやると、3年にニラまれるからなあ。最後の学祭にドロ塗りやがってって」
「そりゃ、3年の一部だけだろ」
「一部だけど、声がデカイ一部なんだよ」
「まあ確かにね」
ちょっと笑った
「しかし、忙しいやつらだな。教室企画の店長やったり、ステージ出たり、なんだかの事件に巻き込まれたり、泥棒の疑いかけられたり、後夜祭の穴埋め引き受けたり」
シーツをかぶって「ゴーストの仮装だ」と言い張る
「泥棒の疑いは、忙しいの関係ないよ。てか、財布盗むような連中には思えんのよ、あいつら」
シンリンこと
「けど、この後の演奏でさあ、木坂のやつが、歌いながら女子くどき始めたらどーするよ」
「……やりそうで怖ぇな」
「
「止めるかな? あいつ、めんどくせえって放置しそうな気がする。楽器できるのはちょっとびっくりしたけどな」
冷静な分析を挟んできた
「ああ、昨日のステージだろ。けっこうやるなって思った」
「けど、あいつもいるんだろ? 1組の
「…………あいつなんか、和楽器ってイメージあんだけど」
「俺、あいつの歌、聞いたことある。すげえ音痴。ドン引きした。何の歌だったのか全然わからんのに、音ハズしまくってることだけはわかった」
「えええー…………」
「けど、楽器は普通にできるらしいって、1組のやつから聞いたことある」
「尺八とか?」
「……まさか」
「でも、あいつは? なんか、他校生いたじゃん。あいつも参加すんのかね」
「まあ……放課後扱いだし?」
「仲良さそうだったな」
「つまり……」
3人の
「……類は友を呼ぶ、ってやつだな……」
「他校生」はこうして、本人のあずかり知らないところで、変人の仲間入りをさせられてしまった。おそらく直接耳にしていたら、猛抗議をしたに違いなかったが、生憎その機会はなかった。
不意に、周囲の生徒たちが、わっと声を上げた。ステージの照明が落ちていき、スモークが音もなく立ち込めてきたのだ。
……いよいよ始まるのか。
しかし、ステージの下半分を覆ったあたりで、スモークの噴射は止み、ゆるゆると薄れていった。まだ視界をぼんやりとさせてはいるが、ステージは暗いままで――。
なんだよ、と生徒たちが文句をのぼせるのに覆いかぶせるように、ステージ両サイドのスピーカーから、大音響が飛び出した。舞台に赤い照明が満ちる。いつの間に張られていたのか、ステージ前面の薄い幕がばさりと落ちたとき、すでに彼らは演奏を始めていた。「スリラー」のイントロだったのだ。
アリーナの生徒たちが一斉に、叫び声を上げた。
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