46 援軍到来!
……開会式がようやく終わった。最初の競技は1年生全員参加の徒競走で、その次の全学年選抜競技の障害物リレーにも、出場選手の招集アナウンスが流れた。
「よーう」
聞きなれた声で呼び止められた気がして、黒川は足を止め、見回した。フェンスの向こうの歩道から、
「お前、何やってんだ」
「昨日のレンタル仮装の服、返しに行くところなんだ。ついでにちょっと様子見に来たんだよ。調子はどうだ」
黒川は、フェンスに近寄った。一馬は自転車のカゴに、大きな布バッグとスケボーをつっこんでいた。レンタル衣装の店が開くには早い時刻である。行き帰りに遊びに行くつもりなのだろう。
「……ちょっと来い。手ェ貸せ」
呼びかけて、黒川は片手を招くように振った。相手は、困惑に押されたように、軽く頭をのけぞらせた。
「なんだよ」
「いいから来い。その先からこっちに入れるから」
黒川はさっさと歩きだした。戸惑いながら一馬が自転車を
「なんだよ、いったい」
停めた自転車に施錠しながら、一馬は再度たずねた。
「
ほかに
「は?」
一馬の反応はしごく当然のものだろう。
「なんの」
「それがわかれば苦労はねえ。今日休むと電話してきやがった。
「……そりゃ確かに妙だな」
「電話に出たのは麗人だけど、あいつ即座に、江平が危ねえと気づきやがった。江平に脅しをかけている奴がいる。そいつが、カプセルを欲しがっているんだ」
「カプセル?」
「つっても、バレーボールくらいあるらしいけどな。江平が何日か前に、ステージで使う木魚と間違って学校に持ってきたらしいんだが、ほかの道具に紛れて行方不明なんだ。そのカプセルを、何者かが捜している。江平を脅してまで」
「……そんな大げさな話か?」
「江平はわざわざ、おれたちにすぐバレる嘘をついてきた。意味を考えてみろ」
おれたちにはすぐバレる嘘。――ほかの人には、すぐにはバレない嘘。
なぜ。何のために。
「ただの……推論だろう。
「なら、ほかに合理的な説明、てめえでつけてみろ」
黒川の乱暴きわまる言い方に、一馬もやっと慣れてきていた。つまり「ほかの可能性があるか?」と聞いているだけなのだ。一馬は5秒間、思考した。
「……思い浮かばない」
「じゃ、最悪の可能性を考慮しろ。お前の得意技だろう」
「俺は別に悲観主義者じゃないぞ。お前らが無茶苦茶すぎるからだ」
とは言ったものの、どうにも嫌な気分がわだかまるのを、一馬は否定できなかった。あの江平がわざわざ、わかりやすい嘘をつく。――嘘だと気づいてほしいから。自分の様子を、何か変だと思ってもらいたいから。それは、はっきりと言葉にできないSOSではないのか。身に迫る危険が大きいからこその……。
「昨日の江平の部屋の泥棒被害って、もしかして……!」
「ここまでくると無関係とは思えねえやな」
そのくらいは想像つくだろうからほめてやらねえぞ、と黒川は陰気につぶやいた。
「わかった、俺も行こう。で、今どの段階なんだ?」
決断した。木坂麗人はともかく、江平を見捨てるわけにはいかない。
「そのカプセルを捜す。そいつがないと何の交渉も始められん。手掛かりは少ないが、ないわけじゃない」
「どこから始めるんだ?」
「とりあえず、うちの体操服に着替えろ。昨日学校でも泥棒騒ぎがあったんだ、あからさまに他校生が校内うろついていたらまずい」
「なるほど」
一馬は、自転車のカゴからレンタル衣装を入れたバッグだけをつかみだした。万一でも、これが盗まれたら面倒だ。スケボーも盗まれたくはないが、校内にうかつに持ち込めないだろう。
黒川は、生徒昇降口に入り込むと、まず靴箱から江平の上履きを取り出して、一馬に履かせた。サイズが合わずぶかぶかだが、仕方がない。ついで、ロッカーが並ぶ教室棟の廊下に歩を進め、江平のロッカーを見つけて開けた。中には落武者の仮装グッズがぎちぎちに入っていたが、ジャージ一式はちゃんと取り出しやすいよう、手前に置かれていた。今日が体育祭だとはとっくにわかっているから、前もって体操服を学校に保管していた生徒は多い。体操服を取り出すと、かわりに一馬の持ち込んだバッグをどうにか押し込む。トイレで一馬が着替えている間に、教師が廊下を歩いてくるのが見えたので、黒川もトイレでそれをやりすごした。やはり泥棒対策に、見回りを兼ねてのことだろう。ワンサイズ大きな体操服に、長袖のジャージを腕にかけて、一馬が着心地悪そうにして出て来た。脱いだ服を再び江平のロッカーに突っ込む。ひとまず体育館だ。明洋高校の体操服を着た不審な男子2名(1名はれっきとした在校生のはずなのだが)は、無人になった廊下を走った。
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