56 力技は無効なのかどうかという疑念
「けど、その、よそのクラスのやつが持っていたカプセルが、なんでミラーボールなんかに……」
どうもぴんとこない。
「
というか、それ以上複雑な流れを想像しても仕方がない。
「ああ、シンリンてのが、さっき電話してた、ミラーボールの製作者ってわけか……なるほど」
ようやく得心する。
この場にいた誰もが、すべてを把握したわけではなかったが、実際はほぼその通りだった。
「……なかなか見つからなかったけど、シンリンがこうしてくれたおかげで、どこにも紛れ込まなかった、とも言える、かねえ」
麗人がひとりごちると、ふん、と
「それで、コレは、何なんだろう。コレを渡せば、
「そーゆーことになるけどね」
「開けて――みるか」
「開けられそう?」
「どうかな」
よく見ると、長い方の外周に沿って、ごく細い溝がかろうじて視認できる。江平は開けられないだろうと言っていたらしいが、開けるとしたらやはりここから――。一馬はカプセルを持ち直し、溝のすぐ下に指先でぐっと力をこめてみた。……上側が浮き上がる様子はない。ありふれたプラスチック製に見えるのだが。やむを得ず、溝に直接爪をかけた。見た目より細い溝だ。爪さえうまく割り込ませることができない。力をかけてみてもびくともしない。そのうち、溝ではなく爪の方に嫌な圧を感じたので、あきらめて手を引いた。爪と指の間がじんじんする。一馬は再度、カプセルを観察した。細い細い溝は切れ目なく、カプセルの外周をめぐってつながっている。ここが開くんじゃないのか。だが、開閉に関わりそうな部位はやはりここだけで、つるつるした表面にはほかに継ぎ目ひとつない。本当に、専用の器具か道具がないと開けられないのだろうか。
「だめだ、わからん」
敗北宣言とともに一馬は、カプセルを再度黒川に渡した。受け取った黒川も、一馬の悪戦苦闘を横で眺めていたためか、溝をこじ開けようとはせず、自身の目で再度カプセルの表面を確かめただけである。そして表情からするに、新発見は望めそうもなかった。
そうしている間に麗人は、教室の後ろの壁にまだ残っていた装飾から、モールを一部切り取った。黒川の手からカプセルを取って、机の上に置く。カプセルのそばに、切り取ったモールを無造作に放り出した。さらに自分の衣服のどこからか、シルクのような光沢の、大判のハンカチを取り出して、それも雑な手つきでカプセルの横へ押しやる。その上にどういうわけか、カードを3枚ばかりぽいぽいと載せた。さらにその近くに、さっき天井から切り取った針金を添える。それからスマホでカプセルを何度か撮影した。黒川や一馬が写り込まないよう注意して。
「何やってんだよ」
「ちょっとね」
一馬の問いかけに、麗人は回答を濁しながら、カードを元のどこかへしまい、モールの切れ端と針金は未整理の道具箱にぽいっと投げた。
「しかし、さっぱりわからんな」
ため息とともに一馬は吐き出した。
「これが手に入って、中身がわかれば、江平の状況が少しは予想つくかなと思ったのに」
「中身見てみればいーじゃん」
こともなげに麗人は言ってくれる。開けられれば苦労はないというのに。
「無理無理、どうやって――?」
はっと一馬は言葉を切った。――こいつはマジシャンだ。もしかして……まさか、開け方を知っているのか? それとも、カプセルを開けなくても中身を確認できる術があるとでも、いうのか……?
麗人は、撮影し終えたカプセルを拾った。とてもいきいきとした、いい笑顔をしていた。おもしろいいたずらを思いついた、とでもいうような。
数秒後。
「おい、おいおい……!」
「ちょっ、ちょい待て、やめろ!」
2種類のわめき声を、窓から聞いたという生徒も、いたかもしれない。
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