77 【完】決算
「あ、そうだ
「へーえ?」
そうしているうち、クラスステージ総監督の
麗人と黒川は聞きそびれていたが、文化祭のクラスステージ大賞2年生の部は、1組の「アルパカ村」だったらしい。4組の演劇はいろいろと詰めこみすぎのきらいがあったので、まあ仕方ないかと、クラスの大半が納得していた。総監督をつとめた津島亮子さえ、
体育祭のアイアンレースについて、特に黒川に失格の宣告はなかった。
それでも――麗人は、満足していた。学祭を楽しめたことに。体育祭を壊さずにすんだことに。たとえ自分がろくに参加できなかったとしても。いろいろな事件をひっくるめて、これが今年の学祭だったのだ。二度と来ない、今年だけの学祭……。
「で、どうだったの、売り上げ」
2日目店長のにこにこした先から、1日目店長の麻衣と、2年4組財務管理の加藤が、同時にきっとにらみつけてきた。
「赤字!」
「ええっ、なんで? お客さんもけっこう入ってて……」
困惑する麗人の頬に、麻衣が、明細表でぴたぴたと触れた。加藤もあきれ顔だ。
「木坂くん、シャンパンタワー、サービスしすぎ」
「2日間で7回はやりすぎでしょ」
「これ省いて計算すれば、健全な黒字だったのにねえ」
「だいたい、客の注文じゃなくて、店のサービスでやったのが響いたのよね」
「……がーん…………お客さんみんな喜んでくれたから、つい、さぁ……」
がっくりしながらも麗人は、目の端にとらえてしまった。これまで麗人に対して当たりのキツイばかりだった加藤の、目元と唇の一部がほころんでいるのを。
「……いやいや、オレもまだまだ女の子修業が足りないねえ」
「その前に、経済とか会計について修行なさったら?」
「……………………ハイ」
麻衣にやりこめられ、麗人は一言もなく
黒川が向こうで、知らん顔をしながらも、けッ、とつぶやく。
タキシードをまとったマジシャンの卵は、もう何の変哲もなくなった天井を見上げた。……今日は、文化祭に招待できなかった女の子たちに、埋め合わせの連絡をたくさんしなくてはならない。黒川と一馬と江平と、定食屋で開く「慰労会」の日程調整も必要だ。黒川が、焼肉定食のある店でないといやだと言い張ったためである。……そういえば、黒川に文化祭のステージにつき合ってもらった報酬は、焼き肉屋を要求されていた。お楽しみがたくさんだ。今のうちにしっかり労働しておくか。麗人はひとつのびをして、教室の隅のロッカーからホウキを取り出した。
開け放たれたガラス窓から、晩秋の朝の清涼な風が流れ込む。大騒ぎの後の、静かというより気の抜けた独特な空気が、校舎を漂っている。明日になればここはまた、大勢の生徒たちの喧騒に満たされるのだろう。だが、祭りを終えた
(了)
学祭では静粛に! 三奈木真沙緒 @mtblue
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