14 異世界で魔王を倒して元の世界に戻るつもりが、銀河帝国のコロニーへ来てしまった。えっ、俺が殺人犯?転生してきた女性との恋は…ていうかこのタイトルがパンフに載らないってなんで?
ステージリハは、どうにか昼前に、2年4組に順番が回って来た。ただし、体育祭のためにチームの3年生から招集がかけられたので不在、という顔ぶれもいて、全員そろった万全の体勢とはいかなかった。クラスステージ総監督も抜けていたのは、少々痛かったかもしれない。それでもここまでの段階で、ステージに向けて、演劇部員の
2年4組の劇の内容を、要約して紹介するのは非常に難しい。総監督が「演劇部ではできないものを、ぱぁーっとやりたいよね」と欲張って、さまざまな要素をこれでもかと盛り込んだからである。それでもあえて要約するなら「異世界へ迷い込み、魔王を倒して世界を救った勇者となった主人公が、元の世界へ戻るつもりで、遠い未来の、銀河帝国統治下のコロニーへ来てしまい、殺人事件の犯人という容疑をかけられ、帝国のロボット刑事に追われながら、潔白を証明するため自ら事件の謎に挑み、日本の戦国時代から転生してきた女性と恋に落ち、追及をかわすために高校生として学校生活を送ることになるが、おぞましい亡霊の祟りと戦ううちにロボット刑事との友情が芽生え、魔法の力によってコロニーに平和をもたらす」という、なんといおうか、いろいろと詰めこんだなとしか言いようのないあらすじである。リハだけ見ていても何の話やらさっぱりわからない生徒が多かったのは、メンバーが全員そろっていなかったことと、衣装ではなく制服でのリハだったせいもあるかもしれない。もっとも、メンバーと衣装の事情は、どこのクラスもほぼ同じだが。
この劇のタイトルは「勇者伝」。本来、ストーリーの流れを説明するようなタイトルを付けていたが、いわゆるラノベのタイトルのように長くなり、実行委員会から「長すぎてパンフレットに入りません」と突き返されて、総監督の
2年4組は、どのクラスよりも稽古が進んでいたのはよいが、弊害もあって、総監督が新しく思いついた要素を途中からでもどんどん台本に入れてしまう、という事態もよく起こった。たたき台となった脚本を担当した中西は、SFサスペンスを書いたつもりだったのに、亮子に渡してからみるみるうちにいろいろな要素がぶちこまれていき「なんかもうオレの脚本じゃない気がする」とこぼしていたが、亮子には逆らえないので直訴することはなかった。結果、セリフや立ち居ぶるまいは頻繁に変更になった。必要な小道具、BGM、衣装も増えてしまった。中でも割を食ったと思っているのが大道具係の男子である。彼らは当初「出演しなくていい」という話で、劇中の場面転換に際して背景を取り換えたり大道具を再配置するなどの役目を担っていた。しかし、総監督の悪ノリがすぎた結果、出演者が足りなくなるという事態におちいり、教室企画の担当生徒数人に応援を求めたあげく、大道具係までもが「話が違うんだけど」とボヤきつつも、エキストラとしてかり出されることになったのである。
この舞台の主演をつとめるのは、演劇部所属の女子、和久田蓮華。25歳男性という役どころだが、男役を演じれば男以上にイケメンと評判で、校内には女子ばかりのファンクラブもあるらしい。劇の内容が詰め込みすぎのため、セリフも多く複雑で、慣れている演劇部員がよかろうということになった。大道具などの力仕事のために男手が足りなくなったという事情もあった。それでも入り組んだ長いセリフが多く、総監督としょっちゅうぶつかり合って「あぁ!?」「おぉ!?」などとにらみ合う稽古の場は、女子同士とは思えない修羅場であったと言い伝えられる。黒川などは殺気を感じて、無意識に息を殺して姿勢を落とし、静かに撤退をはかったほどである(ほかの男子も黒川に続こうとしていた)。もっとも、見慣れているらしい中西が肩をすくめながら言うには、亮子も蓮華も、劇が成功した瞬間に、すべてを忘れて抱き合って大喜びするのが常らしいが。
幸いにして2年4組のリハは、出演者の演技という面ではかなりスムーズに進んだ。むしろ、背景や大道具の配置、照明や音響の効果の確認と、総監督不在のためのそれらの調整に手こずったのだが、そのあたりは今回のリハが最初で最後の確認機会となるため、仕方がないところもある。大道具係は「砂浜の背景もうちょっと右に寄せて」「ミミックの箱はもっと手前に出して」と指示に従いながら配置を調整し、決定した位置でステージ上に目印となるカラーテープを貼りつけて、配置の指示をテープに直接書き込んでいく。ステージの上はカラーテープだらけだ。クラスごとにテープの色が決められ、それぞれに配置場所を決めてべたべた貼り付けていくからである。
割り当ての時刻より大幅に遅れつつも、2年4組のステージリハは、なんとか無事に終了した。リハの進行を監督する立花が、疲れた表情ながらにっと笑って、親指を立てて見せたので、男子の何人かが応じていた。
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