62 最後のピースがはまるとき
「さて、コイツをどうしてやりましょーかね」
スーツの警察官に取り囲まれ、ようやく観念したかのように暴れるのをやめた男――ダーさん改め
「綱引きの綱のかわりに、こいつの体使うってどうだ? 両手両足引っぱれば、4チーム同時に対戦できるぞ。高校生の腕力ナメんな」
男の背中を踏みつけながら、
「おいおい、無茶苦茶なこと言うなよ――」
「――両手両足縛り上げて、騎馬戦か追いかけ玉入れの、ど真ん中に放り出してやる、くらいで勘弁してやれ」
もちろん彼も本気で制止するつもりはない。過激な発案で、友人の命を危機に陥れたことへの、ささやかな復讐をしてやる。
「で、最後に後夜祭で火あぶりの刑ね」
にこやかに麗人が締めくくった。
「きみたち、悪ふざけはやめなさい」
「ああ、すみませーん。仲間をエライ目に遭わせてくれたと思うと、つい」
たしなめる警察官に、麗人はしれっと応じた。
宝石強盗犯は、警察官たちに引き渡された。引き受けたがわは、真っ先に奥菜の身体検査を行い、――ふところから拳銃らしき物を取り上げる。黒川はさっと奥菜から顔をそらして深呼吸していた。やはり悪臭が相当つらかったらしい。
「しかし、よくぞあの電話で、私より詳しい情報を得られたものだ」
軽く肩を回しながら、
「ああっ!」
奥菜が大声を上げた。反射的に麗人へ駆け寄ろうとするのを、警察官にぐいっと引っ張られ、顔を歪めて悪態をつく。
「てめえ、割りやがったな! 開かねえからって!」
「とーんでもない。ついうっかり、落としちゃっただけよぉ」
弁明する顔はえらく楽しそうだ。黒川と一馬とは、2年4組の教室で「そぉーれっ!」と力いっぱい床にカプセルをうっかり落とす麗人の様子を思い起こしていた。それも複数回。ひびが入ってしまえば、はさみやカッターでこじ開けてしまうのは簡単なことである。が、ここで明かす必要もないことだった。まあ、警察がカプセルを調べれば、無理やり人為的に開けたことはあっさり見破られてしまうに違いない。
「そしたらぁ、中に宝石がぎっしり詰まってるのぉ。たぶん、宝石同士がぶつかって傷つくのを防いだり、振ってもガチャガチャしないように、
「確かにこれでは、職務質問を受けても、宝石とはわからぬな」
江平はうなった。一馬はあえて流すことにした――麗人の説明にはいろいろツッコみたいところがあるのだが。
奥菜は引き立てられて行った。いつの間にか、1台のパトカーともう1台の乗用車が到着していて、奥菜はパトカーの後部座席に押し込められる。あんな臭いのと一緒の車に乗るのもたまらんだろうな、と一馬は同情した。つくづく警察官というのは大変そうな職業である。
別の警察官に要求され、麗人は素直に宝石のカプセルを渡した。一馬は近くにいたもうひとりの警察官を呼び止め、室内の机に奥菜のナイフが残されていることを説明しておいた。
江平の両親が、
「いやー、それにしても偉いぞー、フク」
麗人はしゃがみこむと、白毛に茶色いぶちの猫に呼びかけた。彼は猫が苦手なので近づこうとはしないが、それでもにこにこしてフクを称えた。黒川はいつもの不愛想のまま、フクを撫でてやった。フクは、なーん、と鳴くと、黒川の手の下でごろんと体勢を変え、気持ちよさそうな表情をしている。
「エビらん、フクにちゃんとお礼しときなよ。ドアの隙間から入って、アイツに一撃くらわせてくれたMVPだからね」
「おお、もちろんだ」
麗人に言われ、手首をまださすりながら、江平は応じた。
「さて、きみたちにも事情を聞きたい。協力してもらえるな?」
こちらが一段落したと見たか、警察官が声をかけてきた。
「はいはーい。あ、……そうそう、あの男の余罪、調べてもらえません?」
えらく軽い口調で応じた高校生は、わずかに表情を改めた。
「うち、今学祭の最中なんですけどね。実は、昨日うちの学校で、生徒の財布がいくつも盗まれるって事件が起こったんです。さっきの男、昨日どうも、この家に泥棒に入ったときに学祭のチケットを手に入れていて、学校に堂々と来ていた可能性があるんです。たぶん、自分自身で、なくした宝石を捜し出したかったんでしょうね。で、ついでに、生徒の財布いくつか、くすねたんじゃないかなあ。オレ学校で、泥棒の疑い、かけられてましてね。これでも名誉がかかってるもんで、お願いします」
高校生たちが、ああ! と、
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