第54話 なんだかんだ選んでる時が一番楽しかったりするアレ


 先に言っておこう。


 私は年上のお姉さんにも弱いぞぉおおおおおおおお!!!!!


 ……よしっ!


 さて、見渡す限りの荒野に居る私たちであるけれど。ハスパエールちゃんとロラロちゃんの二人を連れた私が、どうしてこんなところに居るのかの経緯から話しておこう。


 色々とありながら特に核心的な理由もなくホラーソーンを旅立った私たちであるが、ホラーソーンを出るに差し当たってまず一つの選択が私の前に立ちはだかった。


 すなわち、ホラーソーン出て次はどこに行くのかという話だ。


 ロラロちゃん曰く、ファストリクスを除いてホラーソーンから行ける町は三つあるのだという。そう、三つだ。ファストリクスから出る時はホラーソーン一つだけだったのに、二つ目の町からいきなり三つの選択肢が出現したことで私は大いに困惑した。主に、どこが一番楽しそうか、でだけれど。


「楽しそうという話でしたら、やはり王都街道に続く大洞窟のルートじゃないですかね」


 とロラロちゃん。


 シャレコンベに移動する際にもお世話になった大洞窟は、元はと言えばグランドグラン王国の街道へ直通するための道として掘られた人工洞窟だ。


 そんなわけだから、グランドグラン王国の王都を目指す最短の道を行くのならば、目指すべきはそちらの方。しかし――


「んやー……アマノジャク的にはちょっとね」


 王都街道はここグランデグラン王国の王都に繋がる街道で、当たり前だが利用者が多く必要以上に整備された道だ。道中にはいくつかの村や町があって、路銀を稼ぐことも一晩を過ごすことのできる宿を見つけることも簡単だろう。けれど、アマノジャク的にはその選択はノーだった。


 特に、ホラーソーンから我先にと次なるステージに向かったプレイヤー諸君は、一番進みやすい大洞窟ルートを利用してるみたいだしね。


「人が居るところがだめにゃら、シクラ街道を抜けるに?」


 次に意見をしたのはハスパエールちゃん。シクラ街道とは、大洞窟が繋がるまで、ホラーソーンから王都に行くために使われていた旧道だ。


 200年も前に街道の座を大洞窟に奪われたシクラ街道であるけれど、まったく使われていないというわけではない。それもそのはず、大洞窟はあくまでもホラーソーンと直結しただけで、ホラーソーン近辺の町はホラーソーンを経由しなければ大洞窟を利用できない。なので、大洞窟から王都街道を目指す旅人たちのために、シクラ街道は今もなお利用され続けているのだ。


 ゲーム的にも、王都直行の大洞窟から外れはするけれど、終着点は同じ王都。急ぐ理由もないのならば、道草を楽しむ程度にそちらを選ぶのだって有りよりの有りだ。


 けれども。


「そっちはなー……」


 ここでも不満を示すアマノジャク。王道から外れる道草はお前の大好物じゃなかったのかと説教したくなるけれど、もちろんこれにも理由はある。


 というのも、ホラーソーン滞在二週間目。即ちゲームを始めて二週間目のことなのだけれど、ドカ食いをしたい気分だった私が安い多い不味いで有名なハイムハイス大衆食堂に立ち寄った時、偶然にも六華ちゃんたちを見つけてしまったことが原因だ。


 その場に居たのは六華ちゃんと灰汁ちゃんとあと二人。長身の貴公子風の男性と、性別不詳のフードを被った人が、顔を付き合わせて昼食を取っていた。


 六華ちゃんたちには声をかけに行きたいけれど、知らない人もいるためかけづらい。それに私は空気の読める女である。声をかけたい欲望をぐっとこらえた私は、とりあえず近くの席で彼女たちの会話を盗み聞きすることにした。陰キャって怖いね。


 話を盗み聞いていて分かったのは、この四人は同じクラン――すなわち、以前私が勧誘された六華ちゃんのクランのメンバーということ。それと、灰汁ちゃんはあれからこっ酷いお仕置きを受けてへにゃへにゃになっていること。


 それと――


「さて、そういうわけで私たちはシクラ街道を通ります。今更とは思いますが、異論があるのならばご自由にどうぞ」

「趣味が悪いね六華さんは。それ、聞きはするけど意見を反映させるつもりはないって言ってるように聞こえるけど?」

「言うだけならばタダですから」


 六華ちゃんたちのクランは、これからシクラ街道を目指すらしいのだ。


 別に私は、刃紅葉の谷での一件を気にしているわけではないけれど。面と向かっていつかは殺す宣言をされてしまった手前、六華ちゃんと戦うのなら、彼女がそれなりに強くなってからの方が望ましい。


 そもそも、前に六華ちゃんが見せてくれたガシャドクロウのようなジョブについても、その真価を全くもって見せて貰えていないのだ。なので、どうせなら十全に扱えるようになってから、全力で戦いたい所存である。


 そんな理由から、遭遇率の高いシクラ街道は遠慮したかった。


「となると、師匠」

「残るは一つにねぇ……」


 大洞窟とシクラ街道が使えないとなると、残る次の町へのルートは一つだけ。しかもそれは、多くの人が選ばないであろうルートだった。


 まさに、アマノジャクが好みそうな。


「刃紅葉の谷ならば私は問題ないですけど……」

「わちしも、この仮面があるにゃら自由に動けるにぃ」


 そのルートとは、刃紅葉の谷を抜けるルートだ。もちろん、このルートが好まれない理由には、刃紅葉の谷という苛烈極まりない土地を、一日二日懸けて通り抜けなければならないというリスクが含まれるのだが。


「でも……行先はあの砂国ですよ?」


 それ以上に大きな問題。プレイヤーどころか、NPCたちですらこのルートを使わない大きな理由は、この道を辿った先にたどり着く場所にある。


 その名も砂国テラー。


 荒野に佇む都市国家だ。


「行くには構わにゃいけど……生憎とテラーの人間は他国の人間に対して閉鎖的に。それもそのはず、あの都市国家は捨てられた国に。そのことは、前に調べたにね、ご主人」

「一通りはねー」


 砂国テラー。アッカー山よりも北に広がる荒野ヴェールマンの中心にあるオアシスに、ひっそりと佇むその都市国家は、周囲の国からは『捨てられた国』と呼ばれている。


 というのも、あの国はなのだ。友好に接しても報いはなく、征服しても実りはない。なので、歴史上あらゆる戦争や外交で無いもとして扱われてきた無為なる土地。


 砂国だから鎖国ってか。いや、自分たちから能動的にしてるわけじゃないから、可愛そうなだけなんだけど。


 ともあれ、故にテラーは目的地として設定するには余りにも魅力の欠ける土地であり、ホラーソーンから旅立つ上でまず初めに選択肢から排除されるだけの存在なのだ。


 それなのに大災害の際はしっかりと被害を受けている。そんな憐れな土地。


 名産品はなく、大災害の破壊のせいで歴史的価値も薄すれてしまった今、わざわざ赴く必要のない場所だと、人々は口をそろえて言うだろう。


 だからこそ、アマノジャクは行くのだけれど。




――――――――――――――――




「――とまあ、そんなところかな!」

「随分と奇特な経緯じゃないかい。面白い人もいたもんだねぇ」


 そんな風に私は、ここに来た経緯をカインさんへと説明した。


 一通りの話を聞いたカインさんは、ケタケタと楽しそうに笑いながらそう言う。ふふん、お姉さんキャラにそう言われてしまうと、なんだか鼻が高くなってしまいますなぁ。


「そりゃまあ、ノリとテンションで生きてますからね!」

「それに付き合わされるこっちの身にもにゃってほしいにけどにぃ……」

「師匠、私は楽しいですよ!」


 えへんと胸を張る私に対して、じとーっとした瞳を向けるハスパエールちゃん。対して、ロラロちゃんはフォローするようにふんすと嬉しいことを言ってくれる。


 ただ、こう見ると可愛らしい彼女であるが、刃紅葉の谷でいせた獅子奮迅の活躍を思い出せば、本当に楽しかったんだろうなぁ、と。


 何があったのかを語るとすれば、魔導甲冑を着ると人格が変わったように豹変するロラロちゃんが、刃紅葉の谷の魔物たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げと無双しただけなのだけれど。


 私がロンログペシミアの素材を取りに行く前に、どうやってロンログペシミアの素材を用意していたのだろうかと思ったけれど、いやはや、まさかあの魔導甲冑が赫モミジの鋭すぎる切れ味をほぼ無効化できるとは……。


 なんならロンログペシミアを素手で絞め殺していたし、本当に楽しかったんだろうなと。


 そんな、見かけによらないロラロちゃんであった。


「いやー、あたし以外にも奇特な奴がいてくれて嬉しいよまったく。とりあえず、目的地のテラーまでは同行しようかね」

「ほんと!? こっちからしたら願ったりかなったりだよ!」


 まさかまさかのカインさんから合同を願い出てくれたことに舞い上がる私だ。これはもう小躍りするしかない。いぇーい!


「ご主人。はしゃぐのはいいにけど……しばらくは足止めによ」

「ん? なんかあったのハスパエールちゃん?」


 はて、足止めとは何のことだろうか。とりあえず、私はハスパエールちゃんが見ている方向へと視線を動かした。


 そして。


「うわぁ……」


 思わずそんな声を漏らしてしまった。


 私たちが目を向けた方向は、旅の目的地である砂国テラーがある方向なのだが、なんとそこには巨大な砂嵐が鎮座していたのだ。


 距離があって正確な大きさは測れないけれど、あの感じ東京の何十階建てって高層ビル数棟分はあるんじゃないか? なんというか、この荒野に居を構える砂国テラーは本当についてないんだなと思わされてしまう。


「確かに、あんな砂嵐があっては前進できませんね」

「幸い動いてにゃいにから、数日ここら辺で野宿するにぃ」


 ロラロちゃんが言う通り、砂嵐は危険だ。吹き飛ばされて何十メートルと上空に打ち上げられれば一巻の終わりだし、視界が悪すぎてまともに前に進めない。


 なので、大人しくここは待機しているしか――


「悪いけどお三方。我らが目的地はあの砂嵐の中にあるんだよね」

「「「……え?」」」


 ここで野宿をする方針に舵を切る私たちであったが、カインさんより齎された思いもよらない情報に、三人揃って言葉を失った。


「何を言ってるかわからないと思うけど、もう一回言おう。砂国テラーは、あの砂嵐の中にあるんだ」


 嘘でしょ……?


【千古不易の没落貴族】が始まりました』


 ……嘘でしょ。

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