第25話 我が名は八面無尽ガシャドクロウ
ごつごつとした結晶と鉱石に囲まれた崖下の地底にて、クエストアナウンスが伝えてきた『がしゃどくろ』の名を聞いた私は身構えた。
モンスターの名前は『ガシャドクロウ』だけれど、ゲームデザイン的なメタ推理をすれば、出てくる魔物が大型の骨であることは一目瞭然なのだから。
「……え?」
だからそ、私は目の前に現れた一匹の水晶スケルトンを見て、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「え、えと……これだけ?」
私と六華ちゃんが戦った広い空洞に、あそこまでの大仰な演出と共に現れたのは水晶スケルトン一匹だけなのだ。
右を見ても左を見ても、この空間に散って不気味なほどに揺れていた水晶スケルトンの骨たちは、今となっては静寂を伝えてくるばかり。
だから改めて現れた水晶スケルトンに向き直ってみても、やはり奇妙。
身長170センチ程度の骨格標本に、ところどころ結晶や鉱石が引っ付いた敵。それが水晶スケルトン。
そんなものが一匹、ぽつんと現れただけ。
正直、拍子抜けだ。
「……どうします?」
そう言ったのはロラロちゃん。
「どうするもこうするも、ユニーククエストの通知が出た以上は警戒するしかにゃいにぃ。ここまでやって、見えにゃい敵って可能性だってあるにぃ」
もっともなことを言うハスパエールちゃんは、格闘家らしく(彼女のジョブについては知らないけど)フットワークをしている。〈キャットファイト〉もすでに発動済みらしい。
「では、私が行きましょう。ユニーククエスト。PKの身ではありますが、一プレイヤーとしては相対して損はない相手かと」
現れた水晶スケルトンの対応に迷っていると、ありがたいことに六華ちゃんがずずいと前に出て名乗りを上げてくれた。
「……ご主人。やっぱりあいつ誰にぃ?」
「ん? 彼女はね~暗殺者の六華ちゃん! 私を殺しに来てたみたい」
「えぇ……?」
前に出た彼女に聞こえないよに、ハスパエールちゃんが耳打ちしてきたので返答すれば、マジもんのヤバい奴を見るような目つきが返ってきてしまった。いやでも、それ以上に何て説明すればいいのさ。
「自分の命を狙ってきた相手に背中を任せるとか……や、やっぱりわちしには理解できないにぃ……」
「いいよいいよ、別に理解しなくても。私だって、ハスパエールちゃんのことあんまり知らないし」
「一緒にしてほしくないにぃ……」
なんだかげっそりとしたハスパエールちゃんは、んべぇと舌ベロを出して辟易としたような態度である。うーん……これは……セーフかな。まだお腹は触らないであげよう。
「後学として一つ聞きたいのですが」
「……あ、え、えと、わ、私ですか?」
「ええ、小さなあなたに」
「な、なんでしょう!」
「水晶スケルトンの弱点は頭、で相違ないでしょうか?」
「は、はい! た、ただ……頭を切っても動く場合があるので、出来るなら打撃系の武器で骨を粉々にするのが有効かと……」
はてさて、そうしてハスパエールちゃんと戯れていると、前の方では人見知りを発動しながらも健気に六華ちゃんの質問に答えるロラロちゃんがいた。
なんと尊い姿だろう。
これを額縁に収めたら宗教画を作れるのではないだろうか?
おお、神よ……。
「では一つ――〈ブレードスラッシュ〉」
そして発動される斬撃を延長するスキル〈ブレードスラッシュ〉
それはまるで蛇のような軌道を描き――水晶スケルトンの頭上数メートルの虚空を薙いだ。
「外したに?」
「外したね」
「え、えと……つ、次当てればいいですよ!」
確かに水晶スケルトンまで結構距離があるから外すのも仕方ないけれど、あれだけ自信ありげに出てきて攻撃を外すとか――
「節穴、と申しましょう。特に貴方。私をはったりとプレイヤースキルで私を追い詰めた腕前を持ちながら、なぜ気づかないのですか? 甚だ、疑問です」
はて、私ら三人が一斉に外したと思った斬撃だけれど、その言葉に対して小言のような調子で六華ちゃんが反論してきた。
私の目をまっすぐ見てから節穴か、と。呆れるような眼を合わせて私のドストライクなクールさですありがとうございまぁすッ!!!
「全身を複雑骨折させる打撃が有効的――ならば、この野太刀でするべきことは一つです」
そういう彼女は、手に持った野太刀を鞘に納めながら言う。
「直接切るべきは敵ではなく地形、ですよ」
キンッと、甲高い音が空洞に鳴り響くと同時に、ズズと奇妙な音が聞こえたかと思えば――水晶スケルトンの頭上に煌々と輝いていた水晶の一つが、音を上げながら崩れ落ちた。
「え、あ、あー!! そういうこと!」
そこで私はやっと理解した。斬撃が有効じゃないと聞いた彼女は、斬る対象を水晶スケルトンからその頭上の水晶に切り替えたのだ。
そして、それをスケルトンの頭上に落とすことで攻撃とする。確かにこれなら、複雑骨折間違いなし。完璧な対応である。
「ともあれ、これで私の一人手柄ですね。どうぞ、素材を全部お渡しください」
「ちょちょちょ、それズルいって六華ちゃん!!」
「当然の権利だと思いますが?」
それから、さも当然のように素材をすべて要求してくる厚かましさは、私のよく知るPK連中のそれだった。
とにもかくにも戦闘は終了――
「ユニーククエストが終わってにゃいにー」
とも行かないようで。
シウコアトルの時の経験では、ボスを倒せばアナウンスが流れた。それがない。ということは――
「あ」
まだ戦いは終わっていないということ。
それに私たちが気づいたのは、六華ちゃんが斬り落とした水晶が十字に切り裂かれるのとまったく同じタイミング。
おかげで、四人に対して同時に向けられた攻撃に対応することができた。
「あっぶな!」
「にゃん!?」
「うわわわっ!!」
「不意打ちとは卑怯な……」
私の鉈が向かってきた攻撃を弾き、ハスパエールちゃんの軽い身のこなしが紙一重で攻撃を避け、受けに回ったロラロちゃんが握る短槍が強かにたわみ、辛うじて身を守ることができた六華ちゃんが悪態をつく。
それから私たちは、四人への同時攻撃を為しえた下手人の顔を見た。
――karakarakarakara
カタカタコツコツ。カラカラカラ。
骨を震わせて音を立てるだけのその魔物には、顔が二つあった。
「八面ってそういうこと」
二つある顔の片方は、まるで上から押しつぶされてしまったかのように内側から爆ぜていて、とてもじゃないが見れたようなものではない。そんな顔に代わるようにこちらを睨むのが、もう一つのスケルトン。
それと、先ほどの水晶スケルトンよりも少し大きくなった二メートルの巨躯と共に、無造作に四つ手を振り回して、ソイツは復活していた。
顔を替えて復活とか〇ンパンマンかよ。
「倒したら面が増えた……?」
「つまり、そういう仕組みなのでしょう小さな貴方」
「あ、えと、ろ、ロラロ、と言います」
「そうですか、ロラロさん。名乗りもしない他二人と違って立派ですね。どうでしょう、私の方に来ませんか?」
なんか聞き捨てならないことが聞こえてきた気もするが、今は措いて――
「ハスパエールちゃんは上で」
「んにゃ。足元は頼んだにぃ、ご主人」
攻撃を加えるために接近してきていた二面スケルトンに対して、まずは私が吶喊する。もちろん、肉薄したこともあってか四つ手が一斉に私の方へと向かうけれど――
「遅い!」
チートなユニークジョブのステータス恩恵を一身に受けた私にはとって、AGIで圧倒的に劣る相手の四つの剣線を掻い潜るなど朝飯前。剣撃の包囲網を抜けた先で、腕とは違って二本しかない足の片方へと、私は鉈の一撃を加え断ち切った。
それによってスケルトンの態勢が大きく崩れる。二メートルの巨躯が傾き、顔が地面に近くなる――
「〈猫パンチ〉にー!」
その瞬間を狙いすましたハスパエールちゃんの〈猫パンチ〉が、スケルトンの二つ目の顔面ごと上半身を粉砕した。
おお、凄まじい威力だな〈猫パンチ〉。あれかな。シウコアトルとか、ここに来るまでの水晶スケルトンとかで結構経験値が入ってレベルが上がったのかな。
なんて考えている間にも、もう一度スケルトンは起き上がる。今度は三つの顔を伴って――
「〈ブレードスラッシュ〉」
無論、倒したら顔を替えて起き上がるなんて種がわかってしまったものだから、半ばリスポーンキル染みた方法で追撃されてしまうのだけれども。
せっかく初お披露目かに思われた第三形態。しかし、それが完全に屹立するよりも早く、二度目となる六華ちゃんの〈ブレードスラッシュ〉が見事三つ目の顔を横に切り裂いた。
「ちょ、危ないよ六華ちゃん!!」
「……偶然ですよ。偶然偶然」
「絶対私のことも狙ってたよね今!!」
「偶然です」
ついでに、横薙ぎの斬撃で私の命を狙っていた彼女である。未だ私の持つレアな装備品を狙っているだなんて、なんて強欲な女の子なのだろうか――
――katakatakatakata
っとと、まだ戦いは終わってない。
第四形態となるご尊顔は果たしていかような姿なのか。今度こそ仁王立ちにて立ち上がった姿を見て、私は思った。
「〇UEENかな!?」
起き上がった巨体は第二形態の時よりもさらに巨大化した三メートルを誇り、しかしその頂点に頭はなく、人間でいえば胸部に当たる部位に四つの顔がひし形を描くように並んでいた。
おいおい、アン〇ンマンの次はQ〇EENって……ネタ古くない? ない?
ジャンル……せめてジャンルを決めてくれ……!!!
「巻きで行きますよ。なにせあと四つも形態が残ってるんですから。武器の耐久値にも限界はあります」
「それは全くその通り!」
ふふふ……私はと四回変身を残していますってセリフも別作品だし触れずらいよこの敵ィ!!
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