第18話 生産職らしいことを始めたアマノジャク
ホラーソーンに到着した翌日、私たちはさっそく昨日の取引の話をしに、エルゴ第二工房に訪れた。
ハスパエールちゃんが「これで夜逃げでもされてたら逆に清々しいにぃ」とか言ってたけれど、特にそんなことはなく工房はホラーソーンの町外れにひっそりと佇んでいた。
そんな工房のドアベルを鳴らせば、すぐさま飛ぶように現れたロラロちゃんが、ご自慢のくるくるヘアを揺らして出迎えてくれる。何とも可愛らしい少女だこと。
お持ち帰りしたいところだけれど、残念なことに帰れる家がないので断念。くぅ……放浪の身はつらいぜぇ……!!
さて、ロラロちゃんに出迎えられて工房に案内された私たちは、とりあえず素材を使って何を作るのかについての予定を聞いた。
「はい、とりあえず盾にしようかと思いまして」
「盾かー」
ロラロちゃんが私たちが提供する素材で作ろうとしているのは盾とのこと。
「えと、やはりレア度の高い素材ですので、この形を可能な限り保ったまま装備にした方がいいと判断しました。その際、武器の場合はハンマーなどの大型武器が制作できそうでしたが……シュガーお姉さんは生産職とのことで、身を守れる装備の方がいいかな、と」
基盤となるのは、やはりシウコアトルの頭骨。しかし、私の上半身を丸呑みできるような大きさの頭骨の形を保ったまま装備にするとなると、作れるものが限られてしまう。
作るのならば、大きさを強みとした重量級武器か――となるところを、使用者になるであろう私が生産職であることを加味して、彼女は身を守るための盾を作ろうと言ってくれた。
確かに、シウコアトルとの戦いでは、装備的に受けに回っては不利だったので攻撃するしかなかった私たちだ。身を守れる手段が増えることは歓迎すべきことだろう。
「にー……」
不満気な顔を隠そうともしないハスパエールちゃんを除けば、だけれども。
どうやら、ロラロちゃんの腕に不満があるらしい彼女は、昨日からずっと、ロラロちゃんと取引することに納得がいっていない。ただ、私の判断を覆すつもりはないらしく、さっきからずっと黙っているばかりだ。
への字に口を結んでむすーっと私の後ろに立っているハスパエールちゃん。そんな彼女をちらちらと見るロラロちゃんは、昨日のこともあってか、ちょっとだけ怯えているように見えた。
うむ。今日も今日とて二人とも可愛いな。
「へいへいハスパエールちゃ~ん、ちょっと固くな~い?」
「なにが固いにぃ、ご主人」
「いやー仏頂面してるから人生楽しんでるかなって思って」
「余計なお世話にー」
どうしようかなこの空気。別に私は空気が読めるタイプじゃないし、空気を作れる気質でもないのでどうしようもないけれども。
実際、粋なこと言ってみようとして失敗した。うーん、本当にどうしよ……
「あ、ロラロちゃん」
「はい、なんですか」
私の声かけにぴしっと緊張した背筋で応対するロラロちゃん。背伸びをする子供のような姿にほっこりしつつも、この空気をリセットする思惑を含みつつ、私はとある提案をした。
「ちょっとお願いがあるんだけど――」
「――おーすごい! 結構色々揃ってる!」
「第二工房とはいえ、移転する際に道具は全部持ってきましたから。それなりのものは作れると思います」
「感謝! まじ大感謝だよロラロちゃん!」
私がした提案は、工房の使用許可だ。信用もない状態で素材をあげてるから、代わりに工房貸してと頼んでみれば、ロラロちゃんは快諾してくれた。
なんだか違和感を感じないでもないけれど、ここは彼女の純真無垢なやさしさに救われたと思っておこう。
「つっても、冶金関係は全然わからないんだけどねー」
工房入り口から奥へと移動したところにある作業場。
そこには魔導炉から金床といろんなものが置いていて何なら旋盤みたいな明らかに現代技術に匹敵する道具すらも揃っていた。
この光景を見れば、リリオンの世界観がただの中世時代ではないのがわかるだろうか。なんならこの世界には飛行船だってあるし、魔道具技術の粋を集めた強化外骨格だってあるのだ。作ろうと思えば、現代技術の産物すらも再現できるだろう。
まあ、そんなものが使えるのはティファー大陸が誇る二大大国のうちの片方だけだけども。
ここら辺の地区は確か、グランデグラン王国の領土だったはず。こちらは魔道具技術よりも魔法などを中心とした自然多き土地。なので、別にロボットとかは居ない。代わりに多種多様な動植物に恵まれており、特殊な魔法が技術が多かったはず。
話がそれたので閑話休題。
結局、これだけの設備が揃っているけれども、リアルに冶金知識があるわけでもない私ができるのはせいぜいが裁縫ぐらいだ。
スキルの効果があればやれなくもないが……やはり、誰かに師事してもらった方が、効率がいい。
ので、とにかく今は、できることから。
「あ、こっちの作業台借りるね。あと、この紐売ってくれる?」
「わかりました。じゃあ、これぐらいで……」
「え、相場の半分じゃん。もうちょっとあげるよ」
「いえいえいえ、こちらとしても素材を提供してもらった手前、そんな恥知らずなことはできず、できることなら無料で提供したいぐらいでして……」
「お金に困ってるにゃら受け取ればいいのににー」
なんてやり取りをしてから、私は工房の作業台の上に四つの武器を取り出した。
武器、というのはウスハ山道のゴブリンたちからかっぱらった武器たちのことである。
棍棒と槍と弓。それと、迷ってる間に何回か遭遇した群れの中から剣も一本貰って、計四種類の武器が一本ずつ作業台に並んでいる。その中から棍棒を一本取って、私はハスパエールちゃんに向き直った。
「ハスパエールちゃん、これに全力で殴れる?」
「……にゃんでそんなことする必要があるにー?」
「いやさ、武器転生したいんだよね」
「ああ、にゃるほど……」
武器転生、と聞いて彼女は私の突然の提案に納得した。というか、武器転生はシステム関係の言葉かと思ったけれど、NPCたちにも周知された言葉であるらしい。
いや、それ以前にこの世界のNPCはステータスやジョブ、スキルなんてシステムもきっちりと理解している。これがどういう意味を持ってるかはわかんないけど、こちらとしては考えて話さなくてもいいので助かるばかりだ。
「んじゃ、いくよー」
「にゃん」
棍棒を持つ私は、ハスパエールちゃんに向かって思いっきり振った。それに対して、ハスパエールちゃんは拳を向ける。
さて、今から何をするのかといえば――
「〈猫パンチ〉!」
武器を破壊する。
ハスパエールちゃん渾身の一撃によって見事ゴブリン産粗悪武器は粉砕され、手元にはその残骸――『ゴブリン棍棒の残骸』だけが残った。見た目はただの、持ち手だけの棒切れだ。
耐久力を失い、完全に破壊されてしまった武器。それをただ修復することもできる。けれど、このゲームにはもう一つの使い道がある――それこそが、武器転生。
残骸に新たなる素材を加え造り直すことで、特性を引き継ぎつつ全く別の武器へと変化させる、リィンカーネーションシリーズの根幹にかかわる“転生”の設定を反映したリリオンオリジナルシステムだ。
まあ、こんな方法で武器を破壊してしまっては、引き継げる特性もほとんどないんだけどね。先行組の話によれば、その武器を使った闘いの記録そのものが追加効果として転生武器には引き継がれるそうだ。
俺の屍を越えてゆけ的な? ま、そんな感じ。
何はともあれこれは確認。なので、今回は素材にこだわらず、耐久力の低い粗悪武器を基礎に武器を転生させる。
「お、なんか出てきた」
武器転生にとりかかろうとしたその時、目の前にステータス表記のようなウィンドウが出現する。それには、ただ一つだけこう書かれていた――
『この武器の魂は死んでいない』
壊したのは私だけどね。
「とりあえず、私はここで武器転生してるから自由にしてていいよハスパエールちゃん」
「別にやることもにゃいから、好きにさせてもらうにー」
そうハスパエールちゃんに告げてから、私は破壊されたゴブリン棍棒の残骸を見る。
「ここで発動できるようになるかぁ……」
そこで、先ほど読んだ一文が表示されたウィンドウともう一つ。視界の端に映る字幕アナウンスが、とある事実を教えてくえれた。
『ジョブスキル〈転化〉を発動しますか?』
謎多き【輪廻士】が誇る三つのチートスキルの内、最も謎に満ちたスキル〈転化〉が発動可能である、と。もちろん〈天格〉もかなりの意味不明スキルであるけれど、発動タイミングから効果まで謎に包まれたこのスキルの説明文は、以下のとおりである。
ジョブスキル〈転化〉
効果:存在を保ったまま能力を転化する。
ワァオ、実にシンプルな説明だ。転化ってなんですかー!!
リィン様!?
「さぁ?」
こういう時ははぐらかすのもマジ、リィン様!!!
まあいいや。
ウスハ山道の一件で効果のあたりは付いてるし、何か変なことが起こるわけでもないだろう。
そもそも。
「〈転化〉発動……!!」
結局、好奇心旺盛な私は発動するのだから。
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