第19話 土下座から始まる師弟ライフ
「〈転化〉発動……!!」
光り輝き始めるゴブリン棍棒の残骸――なんてことになると思ったけど、見た目の変化は何も起こらない。
ただ、何にも変わらなかったわけじゃない。
『魂が呼応している』
ウィンドウに表示されていた一文が変化した。
やはり、【輪廻士】は魂、或いは転生に関わるユニークジョブらしい。
次に私は、幽世小袋から〈開花〉によって手に入れたブルーゴブリンの素材を取り出した。
「何を作るつもりにぃ?」
「とりあえず鉈にでもしようかなって。STR補正値高そうだし」
ハスパエールちゃんの質問に応えつつ、綺麗に鞣された(〈開花〉の効果)ブルーゴブリンの皮を持ち手となる残骸に縫い付ける。
それから、大きめの骨を選択する。
「ロラロちゃん。砥石ある?」
「あ、こっちです」
作業の様子を見てたロラロちゃんが、サッと取り出してくれたのは回転砥石。言ってみれば出てくるもんなんだなと感心しつつ、お礼を言いながら私は骨を研いだ。
残骸が持ち手で、この骨が鉈の刀身になる設計だ。もちろん、ハスパエールちゃんからは石の方が強くにゃい?と言われたけれど、これにはブルーゴブリンの素材を使うことに意味がある。
この残骸はゴブリンが使っていた武器だ。ならば、ゴブリンの素材と親和性が高いはず……きっと!
そうして骨を削り刀身を作って、それにそれっぽい紋様を彫り込みつつ、それなりに武器として見た目を整え、柄と接合すれば完成だ。
〇青小鬼の鬼人鉈
品質B レア度B
―青小鬼の魂が刻まれた鉈。持ち主に只ならぬ怪力を与える。
STR+124
追加効果
・スキル〈鬼人化〉を追加する。
効果:SPを消費して攻撃力を上昇させる。
・戦闘スキル〈唐竹割り〉を追加する。
効果:SPを消費して強力な上段斬りを放つ。
・鬼系のモンスターに対する攻撃力を上昇させる。
「おぉ……」
これまたすごい効果のものができたなぁ、と呆れる私。まさかまさかの追加効果×3という破格の性能。それに加え、まさかまさかの攻撃スキルである。
追加ステータスが驚きのSTR+124であることも踏まえれば、これ一本でただの生産職が、現環境最前線の戦闘職並みの戦いができるようになる、と。
その事実に私は思う。
凄惨だな、と。
ゲームバランスをぶっ壊しかねない破格の性能。転生武器とはいえ、ただの粗悪武器からの転生でこの性能なのだ。これがもし、もっとしっかりとした武器を転生させたとしたら――それこそ、とんでもない武器になることだろう。
好奇心が、そそられる。
ただ――
「うーん、もっと作れる範囲増えればいろんなことができそうなんだよなぁ」
ただ、今のままの自分には限界を感じているのもまた事実。皮を縫い合わせて骨を加工し、それを適当に接合するだけというのもいいかもしれない。
けれど、このゲームは奇行を重ねる私に対して、常に毅然とした態度で果てしなく広がる自由度を見せ続けている。だから、生産職として作れるものを増やせば、自然と更なるトンデモ武器を作れるはず――
「ハスパエールちゃん」
「……い、嫌な予感がするにぃ」
「ダンジョン行こう!」
「やっぱりにぃ……」
ダンジョン。それは、リリオン内に点在する(ってリィン様から聞いた)迷宮のことだ。ウスハ山道とは違い、様々な罠やギミックが張り巡らされており、またその最深部には強力なモンスターが控えている――とのこと。
そしてこれは、この町の冒険者ギルドで聞いた話だけど、ホラーソーンはとあるダンジョンから取れる鉱石を求めて集まった人々が作った町とのこと。
つまり、この町にはあるのだ。
鉱石素材がザックザックと取れるダンジョンが。
鉱山街ホラーソーンが擁するダンジョンが。
その名も、『鉱晶窟シャレコンベ』
そこに行けば、更なる素材を手に入れることができるはず――!!
「あの!」
そんなことを画策していたその時、私たちのやり取りを見ていたロラロちゃんが声をかけてきた。なんだろう。そう思いつつ、私は彼女に向き直る。
「どうしたのロラロちゃん。あ、もしかして付いてきたくなっちゃった?」
冗談交じりにそう言う私に、ロラロちゃんは言った。
「は、はい! よければ、私も同行したいのですが……構わないでしょうか?」
「……マジ?」
可愛い女の子が増えるなら大歓迎である。
『プレイヤーレベルが4上がりました』
『ジョブレベルが3上がりました』
『〈下級近接武器制作〉のレベルが2上がりました』
『〈下級鬼素材制作〉のレベルが3上がりました』
『〈研磨〉のレベルが3上がりました』
『〈武器転生〉のレベルが2上がりました』
鉱晶窟シャレコンベは、ホラーソーン郊外に位置する巨大洞窟から侵入することができると、冒険者ギルドで説明された私たちは、さっそく回復ポーションとピッケルを購入して、冒険の準備をしていた。
「あ、ご主人」
「どしたのハスパエールちゃん」
「ダンジョンは泊まり込みににゃるかもしれないから、最低限の野宿グッズと食料は用意した方がいいにぃ。特にご主人は、そのチート気味なポーチあるし」
ついでに、ハスパエールちゃんの忠言を聞き入れて、コンロみたいな魔道具と小さな鍋、それと数日分の水と食料を買いこんで、幽世小袋に突っ込んだ。
握りこぶし二つ分しかないポーチに明らかに収まらない量の食料が入っていく様は、現実ではありえない光景だ。それは流石のリリオン世界でも同じようで、店主は目を真ん丸にして驚いていた。
「シュガーお姉さん……それってもしかして異次元収納アクセサリーだったりします?」
「ん? ああ、そうだよ」
異次元収納アクセサリーとは、装備品のカテゴリーでアクセサリーに分類される収納アイテムの最上位に君臨する品物のことを指す。異世界風に言えばアイテムボックスなのだが、やはりこの手の能力はどんな世界でもチート扱いらしい。
余談だけど、装備には武器、防具、アクセサリーの三種類があって、それぞれには装備できる上限が決まっている。ただ、話しによればジョブでその上限が解放されたりするとのこと。なおアクセサリーの装備上限は8個だ。
「は、初めて見ました! これ、誰が作った作品なんですか?」
「手作りだよ~。ちょうどいい感じのレアアイテムが落ちたから、テンションでそのままね」
「て、手作りというと……シュガーお姉さんの手作り……と?」
ロラロちゃんが息を呑む。はて、おかしなことでも言ったのだろうか? いや、言ったんだろうな。言っちゃったんだろうな。なんたって私のジョブ、凄惨だし。
目玉が飛び出るほど驚く彼女は、わたわたと後ずさりした後に――
「……弟子にしてください」
彼女は白昼の往来で土下座し始めた。
「ちょちょちょ、ロラロちゃん!? 私そういう趣味無いんだけど!」
流石の私もそれには困惑。しかも彼女は女児と言って差し支えない見た目をしたガガンド族の女の子である。自然と、周囲からはマイナス方向の視線が私の方へと寄せられる。
「あー、もう! 弟子でも何でもいいから立ち上がってロラロちゃん!」
「いいんですか!?」
「私の風評が悪くなる一方だからね!」
なんだろう。どんどんと後戻りができなくなっていくこの感覚は――……あれ、猫獣人を奴隷にして、見た目幼女な女の子に土下座をさせてるの、私?
なにそれとんだ極悪に――
うん、忘れよう。
「とりあえずダァッシュ!」
とにかく私は、買うモノを買ったこともあって急いでこの場を後にした。
それからそうして。
「ダンジョンとうちゃーく!!」
私たちはダンジョン『鉱晶窟シャレコンベ』へと訪れた。厳密には、その手前の巨大洞窟に、だけれど。
話によれば、この巨大洞窟を進んでるうちに遭遇する分かれ道で、下に続いている方の道に行けばたどり着けるとのこと。しかも、ご丁寧なことにダンジョンに向かうための看板が至る所に設置されていて、ホラーソーンの住人にとってこのダンジョンがいかに身近な存在かを伺い知れる。
ガチャガチャガチャガチャ――
「……ねぇ、ロラロちゃん」
「はい、なんですか師匠」
「その荷物なに?」
「あ、これですか」
弟子になったこともあってか、すっかりと私のことを師匠呼びするロラロちゃんに目を向けてみれば、彼女はその小さな体躯に見合わないほど大きなバッグを背負っていた。
ガガンド族は体こそ小さいが、その体に秘められたパワーはすさまじい。やはり、地下で暮らす種族故か、力仕事に長けた身体能力を持っているのだ。
しかし、だからといって自分の身の丈を超えるようなバッグを背負って平然としているのは、流石にどうかと思う。いや、ビジュアル的には滅茶苦茶ありだけどさ。こう、隣を歩いているとやはり違和感がすごいというか……。
「戦闘用の装備です!」
「……そういえば、ロラロちゃんって戦えるの?」
「どちらかといえば戦う方が得意だったりー……あはは」
苦笑い気味というか、なんだか恥ずかし気に頭をかきながらそう言う彼女であるが、果たしてどんな戦い方をするのか。
「そう言えば、師匠の方も大丈夫なんですか?」
「なんか気にした方がいいことあるかな」
「えと、ジョブチェンジしなくていいのかなーって思いまして」
「ああ、それね」
逆に、私の方にロラロちゃんが投げかけてきた質問は、ジョブチェンジに関することだった。というのも、リィン様が言っていた通り生産職は戦闘に向かない。
ただ、生産職から戦闘職になるのはすごい簡単で、教会でジョブチェンジをするだけ。なので、ダンジョンに行くときは戦闘職、町で行動するときは生産職と使い分けることもできる。
かくいうロラロちゃんも、先ほど教会でジョブチェンジしてきたばかりだ。
もちろん、戦闘職と生産職を使い分けるうえで色々と制約はある。例えば、戦闘職と生産職の最低でも二つレベル上げをしないといけない都合上、育成にかかるコストが二倍になるとか。あとは生産職と戦闘職ごとにプレイヤーレベルが違うとか。
ただ、私は――
「戦闘職のレベル全然上がってないんだよねー……」
このゲームは昨日始まったばかり。なので、かけらも戦闘職のレベルを上げていない私にとって、ただただ化物染みたステータスを誇る【輪廻士】の方が強かったりするのだ。特に、先ほど作ったばかりの鉈に攻撃スキルが付いていたこともあって尚更。
「っと、分かれ道だ」
そうやって話していれば、巨大洞窟の分かれ道に差し掛かった。見事に二つに分かれた分かれ道。確か、下り道になっている方を進めばいいんだっけか。
そうしてこうして、私たちは鉱晶窟シャレコンベに足を踏み入れるのだった。
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