『鉱山街ホラーソーン編』
第14話 苦労して手に入れたものは重い 物理的に
「し、死ぬかと思ったにー……」
「よかったー! 生きてる! ハスパエールちゃん生きてる!」
「わぁ!!」
シウコアトルを倒してすぐに、ハスパエールちゃんの治療に当たった私は、しかし手持ちの解毒ポーションじゃあ効果がないことに動揺した。
けれど、冴えわたった私の頭脳が火事場の潜在能力を遺憾なく発揮したことで、〈開花〉の力で解毒ポーションを強化し、見事ハスパエールちゃんを苦しめる【熱毒】の状態異常を治療することに成功したのだった。
というか、消費アイテムにも使えるのか〈開花〉。何気に重要なことに気づいてしまったのかもしれない……。
とりあえず。
「あー、やっぱりハスパエールちゃんのお腹は落ち着くな~」
傷の治療も終わらせた後に、たっぷりと私はハスパエールちゃんのお腹を堪能する。
そんな行動に、何時ものようにハスパエールちゃんの強烈な拒絶が返ってくると思いきや。
「……ま、まあ……今回ぐらいは許してやるにー……」
「……ふぇ?」
ゆ る し て や る に ?
「デレェ頂きましたぁ!!!!」
「にゃ、にゃにするにっ……にゃ、にゃあ……やっぱり駄目、だめに……にゃふ……やめっ……にゃぁあん♡!!!」
――そうしてこうして可愛らしいお腹を隅々まで堪能した私は、いそいそとポーチから解体ナイフを取り出して、倒したばかりのシウコアトルの死体へと近づいた。
「うわぁ、結構派手にやったなぁ、私……」
シウコアトルの死体は、それはもう酷い状況だ。
おそらくは、私たちを呑み込もうと飛び込んできたのが原因だろうけど、頭から尾の先まで私がシウコアトルに口腔に放った〈狂乱咆哮〉の一撃によってずたずたのぼろ雑巾みたいになってしまっている。
むしろ、頭の方が綺麗なぐらいで、とてもじゃないが内も外もまともな素材が取れそうな感じはしなかった。
とりあえず、蛇皮をひと剥ぎしてみるが。
〇シウコアトルの熱毒皮
品質F- レア度C-
説明:皮下に毒腺を持つ特殊な皮。やすりのような鱗によって、触れるだけで毒がしみこむ。
最低品質の素材しか取れないし、部位によっては素材として使えそうな大きさの皮すら取れない始末。
とりあえず、はぎ取れるところをはぎ取る。
〇シウコアトルの百手足
品質F- レア度C-
説明:強靭な尾を最大限に利用するために独自進化した手足。無数に連なるそれは、かつての大災害の影響によるもの。
〇シウコアトルの毒肉
品質F- レア度C-
説明:毒袋から漏れた熱毒に侵された肉。食べると致死性の熱毒を患ってしまう。
辛うじて取れたのはここら辺で、内臓系は全滅。肝心の毒袋も獲得できなかった。
ただ、頭の方からはそれなりに素材が取れまして。
〇シウコアトルの熱瞳
品質C レア度C-
説明:シウコアトルの瞳。それは死後も熱を持っており、宝石と同じ価値で取引される。
〇シウコアトルの熱牙
品質C- レア度C-
説明:シウコアトルの牙。体表に毒戦を持つシウコアトルの牙には毒が無いが、強烈な熱を発する魔力がこもっている。
〇シウコアトルの受容器官
品質C- レア度C-
説明:シウコアトルのピット器官。僅かな温度の変化も認識する。
〇シウコアトルの頭骨
品質C レア度C
説明:シウコアトルの巨大な頭蓋骨。慎重に解体する必要があり、欠損のない頭蓋骨はコレクターの間で高値で取引されている。
一つ一つが巨大なそれを綺麗に解体するのは骨が折れた。特に、ピット器官とかよくもまあ切り出せたものだと自分で感心してしまう。
とりあえずそれらをポーチに入れるが……どう足掻いても、頭骨だけはベルトポーチのちっちゃなお口に入らない。いくら青小鬼の幽世小袋が見た目を遥かに超える容量を持とうとも、入れられなければ意味がない。
とはいえ、レア度Cの代物を捨て置くのももったいないし、背負って歩くことを私は決意した。
「これ、ご主人のバッグをわちしがもつことににゃるんじゃ……」
「そっちは任せたハスパエールちゃん!」
「やっぱり……ま、いいにー……」
頭骨を持つためバッグを背負えない私の代わりに、ハスパエールちゃんにバッグを持ってもらい、私たちはウスハ山道の先へと進んだ。
ただし、先に進むと言っても、すぐに私たちは目的地にたどり着いてしまう。
ウスハ山道の出口に。
「おおー! でたー! 太陽の光が懐かしー!!」
「太陽の光、半分沈みかけてるけどにー」
薄暗い森を抜けた先で私たちが見たのは岩肌むき出しの大地。そして、遠くに見える燃えるような夕日だった。
ファストリクスから北西を進み、山をぐるりと迂回するような形で移動した私たちは、ファストリクス周辺の草原や森林と言った緑にあふれた景色とは全く違う環境に圧倒される。
何よりも、遠くに見えるその都市に私は魅了された。
切り立った山肌を穿つように生きるその町は、まるで岩肌をくり抜いて町を作ったようなフィット感で、地形という凹型にピタリとはまっていてワクワクする。
あの町はどうしてそんな風になっているのか――
「とりあえず、夜ににゃる前に町に付くように急ぐにー」
「う、うんわかったよ!」
「夜は魔物が凶暴化するにー。そもそも、野宿はごめんだにー」
今すぐにでも走り出したい衝動が、ハスパエールちゃんの後押しによって走り出す。問題は、背負っているシウコアトルの頭骨が想像以上に重いことか――
「――とうちゃぁああああく!!」
「い、意外と距離あったにー……。こ、こんなはにゃれてたっけ……?」
「そういえばハスパエールちゃんって、前にこの道使ったのいつぐらいなのさ」
「四年ぐらい前に……大災害のせいでファストリクスから身動きが取れなかったにー……ふぅ、つ、疲れたにー……」
STRに物言わせた運搬術によって爆走した私は、何とかギリギリ日が沈む前に鉱山街ホラーソーンにたどり着くことに成功する。
それから、ハスパエールちゃんが息を整えるのを待つついでに、きょろきょろと辺りを見回した。
「もしやあれは……」
ゲーム開始ということもあってプレイヤーが押し寄せたファストリクスとは違い、NPCだらけなホラーソーン。異邦人の証であるブローチを付けた人間は今のところ私以外に見当たらない。
とはいえ、町としての活気はファストリクスに劣ることなく存在しており、軒を連ねる店たちは繁盛御礼の活力に満ち溢れていた。
そんな折、目に付いた種族が一つ。
普通の人よりもひと際小さな背丈のあの種族は、まさか地下に住むと言われるガガンド族!?
「え、なんでガガンド族が!?」
平均身長120センチの彼らは、現実世界でいうホビットとドワーフの間のような種族だ。いや、昨今のドワーフはなかなかにロリショタニズムに満ち溢れたものになってるんだったっけ?
まあとにかく、見た目は人間の子供にしか見えないガガンド族。その正体は土属性魔法に長け、冶金技術に優れた地下在住のベテラン技術者集団なのだ。
しかし、彼らは滅多に地上に出てこない激レア種族。3のその後を描いた外伝作品『ミレニアム・リィンカーネーション』で初登場するまで設定上でしか確認されていない存在だったという。
そんな彼らがなぜ地上に?
「大災害の影響だにー」
「あー……」
こんなところにも大災害の爪痕が。マグナでガガンド族の集落が悉く破壊されてましたねそう言えば。
まあそれはガガンド族に限らず、その他種族も須らく受けた行為なので置いておいて。
「とりあえずこれ売りに行きたいんだけど、なんかいいあてある?」
「まあ、こういうのは大体冒険者ギルドか生産者ギルドの領分にー」
「ま、そうだよねぇ。場所分かる?」
「4年前と変わってにゃければ」
そんなわけで、冒険者ギルドに移動する私たち。クエストの中には夜行性の魔物を相手にするものもあり、夜間であろうと冒険者ギルドの窓口は開いている。
ただ。
「ちょ、ちょっと待ってそこの人!!」
「ん?」
冒険者ギルドにたどり着く前、私たちに声をかけてくる人物が一人。どうやら走って私たちに追い付いてきたようで、息も絶え絶えと言った様子の声に、足を止める私たち。
振り向いてみれば、背後にはガガンド族の少女(大人であろうと少女にしか見えないけれど)が居た。
天然パーマ気味の腰まで伸びたくるくるヘアに、真ん丸な瓶底眼鏡が特徴的な彼女は、肩で息をしながら言う。
「わ、私の……け、ごほごほっ……! うぇ、うぇ……カハッ!?」
「ちょ、ちょちょ落ち着いて! ほら、深呼吸深呼吸」
全然喋れてなかった。
とりあえず、ぜぇぜぇとしながらも何かを言おうとする彼女を落ち着かせるために、背中を撫でて深呼吸を促す。
スーハースーハー。
「ふ、ふぅ……あ、ありがとごじゃます……」
「うん、全然大丈夫! むしろありがとう!」
「……え?」
眼鏡美少女も私はいける口だ。それこそ、そよ風に揺れただけで折れてしまいそうな小鹿のような体を撫でさせてもらえた分、私の方こそお礼がしたいくらい――と、いけないいけない。内なるキモオタが出てくるところだった。
「ご主人……」
「あれ~? もしかして、私が他の子に気を取られてて嫉妬しちゃってるのハスパエールちゃぁん!?」
「全然そんなことにゃいからくっついてくるにゃ暑苦しい……」
おそらくは随分と下世話な顔になっていたであろう私を見て、ハスパエールちゃんが冷めた目をしている。まさかまさか、嫉妬しちゃったのではないのだろうか。
そう思って詰め寄ってみるが、特にそんなことはなく拒絶されてしまった。
おろろ……ご主事様悲しいわ……。
「それで、にゃんのようだにー」
「あ、そうだったそうだった。えっと、何か用ですか?」
私が悲しみに耽る間も、ガガンド族の少女を見ていたハスパエールちゃん。彼女の言葉に、そういえば声をかけられたのだったと私は思い出す。
それは少女の方も同じだったようで、ハッとなって肩を揺らした。なんだこの可愛い生き物。
「あ、は、はい。えと、ですね」
それから、ちらちらとこちらを見ながら、しかし目線を合わせられないのか周囲をキョロキョロと見まわす彼女は、それから決心したような目つきとなって私たちへと言う。
「付き合ってくれませんか!?」
「……わーお」
遂に私は視線だけで女の子を惚れさせてしまえるようになってしまったらしい……なんて、冗談は措いといて。
『クエスト【古工房の跡取り娘】が始まりました』
どうやら何かに巻き込まれてしまったらしい。
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