第39話 やっぱりチートなアマノジャク
ロラロちゃんからロンログペシミアなる猿の素材が欲しいと言われた翌日。つまり、私がこのゲームの世界に迷い込んでからぴったり一週間目。
話に聞いた通り、まったく紅葉としていない刃紅葉の谷を遠くに見ながら、現在ホラーソーンから続く下り道を移動しているところだ。
メンバーは四人。
まず私。元気いっぱいパワフルガールことノット・シュガー! ……ちょっと痛いなこれ。
こほん。
続いて、既に相方として馴染みつつあるハスパエールちゃん。そしてつい先日、かっこつけて別れたばかりの六華ちゃん。
「……では、一つ。このあたりで何ですけれども。そろそろ私たちを召集した理由を教えていただきたいのですが?」
と、ここで六華ちゃんの当然の疑問が差し込まれる!
どうして呼び出したのかって? そりゃ怖いからだよ!
「怖いんだよ、お化けがッ!!!」
「……子供ですか?」
「じゃあ六華ちゃんはお化け大丈夫なんだね!?」
「塩撒けば退散するんでしょう? ナメクジよりも対処が簡単じゃないですか」
「独特の感性ッ!!!」
とまあ、どうしてここに六華ちゃんがいるのかと言えば、援軍として私が呼んだからだ。何を隠そう私は大のお化け嫌い。呪われた土地ともなれば、近づくことすらできないのが道理。
へへっ、臆病者と謗るがいいさ……。すべては中高時代のトラウマが原因だ。私はあの霊感少女を一生許すことはないだろう――なんて、友達でもあるから責めることもないだろうけれども。
とまあ、私のトラウマ云々については横に措いておくとして。いや、本当は措いておきたくなんてないんだけども、それよりも重要な美少女が一人いるので。
というのも、今回のメンバーには私のあずかり知らぬ三人目の同行者がいるのだ。
「面白い人だね~、お姉ちゃん。知り合いさんなんでしょ?」
「……お姉ちゃん?」
「あ、どもども。こっちの目立ちたがり屋の妹の灰汁田川でーす。灰汁ちゃんって呼んでね」
「おぉ……すごい陽の気を感じるぅ……よろしく灰汁ちゃ~ん!! シュガっちって呼んでね~!」
「シュガっち、いぇ~い!!」
六華ちゃんをお姉ちゃんと呼ぶ彼女こそが、その三人目。
和風趣味な服を着た、大正ロマン風のポニテ美少女の灰汁田川ちゃんである。少々気になる名前をしているけれども、見ての通り完全なる日の下に生を受けた陽キャである。
え、この子が六華ちゃんの妹なの?
「……何か言いたげですねソルトシュガー」
「いや、その……ね?」
「斬り捨ててあげましょうか?」
なんだか変な電波を受信したらしい六華ちゃんは、背負っている野太刀を少し引き抜いて、威圧的にその刃を見せつけてくる。
あれ?
「そう言えば六華ちゃん。前の報酬ってどうしたの?」
前の報酬、というのはもちろんガシャドクロウ戦で手に入れた骨刀のことだ。ユニークボスの討伐報酬ということもあって、間違いなく高性能な刀なはずだが、彼女が背負っているのは前にも見たモノと似た野太刀。あの刀は一体どこいったのか。
ちなみに私がもらったアクセサリーこと『九面煉獄ガシャドクロウ』はばっちり装備済みだ! ……おかげで、私の姿が暗黒騎士にしか見えなくなっている気がするけれども。そこはまあ、夏祭りのお面よろしく斜めに被っているので、そうは見えないはず……そう、私のプリティーな顔が見えている以上、そうは見えていないはずなのだ!!
「ああ、あちらですか。どうしてそれを、あなたに教える必要があるんですか?」
相も変わらず切れ味の鋭い六華ちゃんである。鋭すぎて刀いらないんじゃないかな?
「まあまあ、そう言わずにお姉ちゃん。ほらほらよく見てシュガっち、腰の方にも帯刀してるでしょ」
「あ、ほんとだ」
六華ちゃんを窘めつつ、助言をくれる灰汁ちゃん。彼女に言われて六華ちゃんの腰元をよく見てみれば、ローブに隠れて見えづらいけれど確かに帯刀している。
というか、やっぱりその厚手のローブは内側に付けた武器とかを隠すためか。そしてふんわりとしたロングスカートは、足さばきを隠すため、と。とことん対人戦ばかりを考慮した装備だことで。
「てかてか聞いてよシュガっち」
「なにかな灰汁ちゃん?」
「あの野太刀も私が作ったやつなんだけどさ、せっかくのユニーク武器があるってのにお姉ちゃん律儀に装備しちゃって、ああやってつっけんどんなくせに家族思いなんだよねお姉ちゃん」
「えぇ、マジそれめっちゃ意外~!! 可愛い所あるじゃん六華ちゃん!」
「ああもううるさいですねこいつらは!! そんな風に喋っている暇があるのなら、さっさとその刃紅葉の谷とやらに行きますよ!! もしくは、そのお花の咲いた頭を真っ二つにしてあげましょうか!?」
ふむ、どうやら揶揄い過ぎてしまったようだ。ずっしずっしと髪を逆立てて怒りを露にして前を歩く六華ちゃんを見て、私はそう思った。
「というか、灰汁ちゃんって生産職なんだね」
「あ、そうそう」
姉に反して灰汁田川ちゃんは生産職だったらしい。ってか、やっぱ野太刀とかも作れるんだ。やっぱりあれかな。玉鋼とか一文字鍛えとかでカンカンやるのかな?
そんな風に考えていると、今度は灰汁ちゃんの方から質問が飛んできた。
「ところでなんだけどさ」
「どしたん灰汁ちゃん」
「そっちの方は大陸の人?」
そう言いながら彼女が見たのは、私たちのやり取りを我関せずといった態度で観察していたハスパエールちゃんだ。
ちなみに、大陸の人というのはNPCの総称とのこと。ある程度システム的な用語を介してくれる彼らであるが、流石にNPCだなんてメッタメタな言葉を理解してくれないわけで。なので、NPCを指す時は大陸の人、或いは大陸人と言う言葉が
「んに? そのブローチ……あんたも異邦人かにー」
「そうそう! 私、灰汁田川って言うんだ。貴方名前は?」
「……ハスパエール。ま、ほどほどによろしくするに」
うーん、なんだろうかあの借りてきた猫感。いやまあ、ハスパエールちゃんは猫のベスティア族なんだけどさ。しかしまあ、普段から自由気ままだなとは思っていたけれど、ここまでまんま猫みたいな態度だとは思わなかったぜぇい。もうちょっと仲良くしてくれた方がこっちとしてもやりやすいぜぇい!
ちなみに、二人を警戒してかトレンドマークの猫耳を帽子にしまって隠密モードなハスパエールちゃんである。
警戒してるなら仕方ないか。でもでも、そういうのはもうちょっとうまく隠してくれた方がフォローする側も楽で嬉しいんだけどなー。……人付き合いの下手な私がフォローしきれてるかは謎だけれど。
「一応、もう一つ訊いておきますけど」
それからしばらく歩いていると、今度は六華ちゃんが話しかけてくる。
「これから行くフィールドについて、まだ情報共有がされていないのですが?」
「ああ、そうだったね」
そういえば情報共有がまだだったっけ。言われて思い出した私は、謝りつつロラロちゃんから聞いた話をした。
刃紅葉の谷。
呪われし土地だとかなんだとか言われるそこで最も気を付けるべきは、魔物ではなく森を包み込む木々そのものなのだという。
ロラロちゃんは言った。
『あの森は葉の一本に至るまでが凶器で出来ています。落ち葉もまた同様です。なので、風が強い日なんかは地元の人でも立ち入らない危険地帯なのです』
とのこと。聞く限りの雰囲気を言葉に表せば、剃刀で出来た木で埋め尽くされた森と言ったところだろうか。一応、過去にロラロちゃんは例の魔導甲冑でごり押しして、素材を集めたのだそうだけれど、裏を返せばそのぐらいの重装備でなければ防げないということである。
「そこでこれ」
ということで、その対策にロラロちゃんはとあるアクセサリーアイテムを貸してくれた。それがこれ。
〇鉄糸の衣
品質B- レア度D+
END+30
AGI-20
―鉄糸で編まれたマント。フードで顔まで覆うことができ、それなりの防御力を誇る。
追加効果
・切断攻撃に対して耐性を持つ
AGIのマイナス効果が手痛いけれど、その代わりに齎される強力な防御能力が特徴的なこのマントによって、舞い散る木の葉から身を守ろうという算段だ。
また、こちらはアクセサリーアイテムなので、防具とは別にENDを盛ることができる。そう言う点で見ればかなり強力な装備だ。
けれども。
「AGIが下がるのですが?」
「ほら、鉄って重いしね!」
「……まあ、業腹ものではありますけれど、ないよりはマシですね」
生憎と、今回のパーティーメンバーは4人中2人がAGI特化ジョブ。六華ちゃんはもちろんのことハスパエールちゃんまで渋々と言った感じで羽織っているではないか。
ぐぬぬ……何とかならないモノか。
「……えーい〈開花〉!」
ここでやけくその〈開花〉しよう。レア度がD+なら有効だろのどうにかなれ精神で使ってみれば、私のマントが輝きだす――
〇鉄鼠の衣
品質A+ レア度C+
END+50
AGI+10
―鉄鼠の体毛によって編まれた鉄衣。独特の形状の体毛は空気抵抗を軽減する効果がある
追加効果
・斬撃攻撃に対して耐性を持つ
うわなにこれ!?
「……今、何をしたんですかソルトシュガー」
「え、ああこれ?」
〈開花〉した装備に私が驚いていると、怪訝そうな目をした六華ちゃんが話しかけてくる。そういえば、六華ちゃんには私の〈開花〉のことは教えていなかったっけ。
「これ私のジョブのスキル。薄々感づいてると思うけど、ユニークジョブだよ」
「……今からでもいいですので、私のクランに来ません?」
「毎日挨拶してくれるなら考えてあげる♡」
「くっ……!!」
いやなんでそんなことも許容してくれないんだこのPKガールは。
まあ、それはともかく。
「これでAGIの問題大解決~! ほら、ちゃちゃっと〈開花〉してくから並んで並んで」
「一つ訊きますけれど、ここまで効果が変化するとなると相当な代償があるのでは?」
「んー……? 一応、MPとSPは100ずつ消費してるけど大した消費じゃないしね~」
SPはスタミナに関係するポイントだけれど、しばらく休めばすぐに戻る。MPも同様、SPほどではないにしろそこまで気にしなければいけないような数値じゃない。そもそも、MPの主戦場たる魔法を私は使わないしね。
ただ、どうにもその程度の説明じゃあ納得できないらしい六華ちゃんは、〈開花〉した鉄鼠の衣を凝視しながら眉をひそめてばかりだ。
そんな顔してちゃ、せっかくのクールフェイスが台無しだぞっ!
「やはり、往々にしてユニークジョブというモノは外れているものなのですね。色々と」
そう呟いた六華ちゃんは、先ほどよりもさらに不満気にしながらも渋々と鉄鼠の衣を羽織った。
しかし含みのあるつぶやきだな。なんだか私以外にユニークジョブがいるような、そんな風。まさかぁ。ゲーム開始前にレールを外れるようなアマノジャク、世界に一人で十分でしょ。
「ま、ご主人はどこか頭のねじも外れてるにぃ。今更気にした方がバカを見るに」
「あら、意外にも意見が会いますね貴方。ハスパエールさん、でしたっけ」
「そう言うあんたは六華だったかに。仲良くする義理はにゃいけど、実益はありそうにぃー」
んん? 君たち二人はどういう集まりなんだっけ? なんだか不穏な意気投合を果たす二人が、いそいそと端末の連絡先を交換しているけれども、一体何のつもりだろうか。というか、NPCとも交換できたのかこれ。
……端末。これ、世界観的にはプレイヤーの補助道具ってだけじゃなさそうなんだよなー。
そんな風に、三人揃って端末とにらめっこをしているおかげで、私は一つ。この空気の中に消えてしまったつぶやきを聞き逃すこととなる。
「……シュガっちも、ユニークジョブなんだ」
そうしているうちにも、私たちは刃紅葉の谷へとたどり着いた。
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