第55話 私友達居ないんだけど?


 

「え、いや、ちょちょちょちょちょっと待って!」


 色々と情報が入ってき過ぎて混乱する! えーっと、えっと……?


「その様子、もしやクエスト開始のアナウンスが流れてきたね?」

「……もしかして、カインさんも?」

「まぁね」


 突如として聞こえてきたアナウンスに驚いていると、訳知り顔のカインさんが懐から端末を取り出して、ふわりと浮かび上がったウィンドウの一つをこちらへと見せてくれる。


「レイドクエスト【千古不易の没落貴族】。砂国テラーに近づくと発生するクエストだけど、どうやらあの砂嵐の中にテラーがあると知っても発生するみたいだね」


 そう言った彼女が見せてきたウィンドウは、現在受注中のクエストのリストだ。本来であれば、ギルドで受注したクエストを確認できる代物なのだが、ユニーククエストのような特殊なクエストもここには表記される。


 そして、カインさんの端末には……それと、私の端末のクエストリストにも、そのクエストは載っていた。


 レイドクエスト。


「リィンに確認してみたところ、クエストの前に着く枕詞にはいろんな意味があるらしいんだよね」


 カインさんは語る。


「例えばギルドクエストなんかは、ギルドからの評価に大きく関わるクエストらしい。クリアすると、ギルド内での特権を獲得できると掲示板には書かれていたね。あとは有名どころだとユニーククエストは、その名の通りたった一つしかない、そんなクエストだ。遭遇すること自体が幸運稀で、決まった法則があるかすら不明。故にユニーク。わかりやすいね」


 なるほど。魔物にも種類があるように、クエストにもいくつかの種類があるらしい。そして、今回出現したのは“レイドクエスト”。


 MMOのレイドと言えば、一つしかない。


 かつ、クエスト……。


「ま、見ての通り相手があの砂嵐ってんならわかりやすいか」

「確かに、あれを消すとなると結構な人数が必要ですね」


 カインさんの言う通り、もしもあの砂嵐をかき消してテラーへとたどり着くことが目的ならば、あの砂嵐に匹敵する魔法を放てるだけの人数が必要だ。


 一応、魔法には他人と協力することで威力を強化できる攻撃方法があるらしく、必要人数の問題から目を背ければ、それを使って砂嵐も消すことも容易だろう。


 問題は――


「問題は、あの砂嵐を消したところでクエストをクリアできるとは限らにゃい、ってところにね」

「お、いい勘してるね君。……えっと、名前は何だったかな?」

「ハスパエールに」

「ハスパエール。ハスパエール君ね。よろしく」


 さて、レイドクエストのアナウンスはNPCである二人のも伝わっている様子。今更ながら、やっぱり二人にもこう言ったクエストアナウンスは聞こえてるんだな。


「えと、ちょっと話についていけてないのですが、クエストをクリアできるとは限らないとはどういうことなんですか?」


 少しだけ話についてこれていないらしいロラロちゃんが疑問を口にしたので、ここはお姉さんがわかりやすく解説をしてあげようではないか!


「ロラロちゃん。クエストの名前にはある法則があるのだよ」

「法則……というと、もしかしてクエストの討伐対象が表記されていることをですか?」

「そうそう」


 例えば冒険者ギルドで受けるクエストなら、内容が『ゴブリンの討伐』ならそのまま【小鬼退治】になるし、これがスライムなら【不定形生物行進中!】と言った感じに変化する。


 また、討伐対象は同じでも、クエスト名が違うことも多々あるが(表記ブレの原因は依頼者が違うかららしい)……基本的に、クエスト名はそのままクエスト内容を示している。


 そしてこれはユニーククエストにも共通する特徴で、例えば私が初めて遭遇したユニークボス『シウコアトル』では【ウスハ山道の裏番長】が、次に会った『ガシャドクロウ』では【無念仏の空虚妄動】というクエストが発生した。


 どちらも、討伐対象であるユニークボスの特徴――シウコアトルであれば、表ボスのツリーアルマジロを退ける裏番長。ガシャドクロウであれば積み上げられた遺骨から這い出る虚ろな怪物――を冠したクエスト名が付けられている。


「ではここで問題だよ」

「はい、なんでしょうか師匠!」

「今回発生したレイドクエスト【千古不易の没落貴族】とあの砂嵐、どこに関係性があるでしょうか?」

「……あー、なるほど。確かにめぼしい共通点が見当たりませんね」

「そゆこと。ま、結局の答えは『わからない』ってことになるんだけど、ここで言えるのはあの砂嵐をどうにかすることがクリア条件じゃなさそうだってだけかな」


 千古不易は永遠に変化しないことを示す四字熟語で、没落貴族はそのままの意味だ。これが何を指すのかははっきりとわからないけれど、少なくともあの砂嵐のことではないだろう。


「一応聞くけど、あの砂嵐っていつから起こってるの?」

「んー……あたしが来たのは二週間前ぐらいだけど、その時からずっとあそこにあるね。一応、迂回して奥の方にも行ってみたけど、奥の方には何もなかった。間違いなくあの中に砂国テラーはある」


 カインさん曰く、最低でも二週間以上は、あの砂嵐は砂国テラーを覆いつくしているとのこと。


「あの砂嵐が千古不易って場合はないのかに?」

「んや、それはないなハスパエール君」

「だねー」


 今思いついたように呟かれたハスパエールちゃんの考えだけれど、その可能性は低い。


 なにせ、周辺国との国交がなかったとはいえ、ホラーソーンにはテラーが大災害の被害を受けたという記録はしっかりと残っていたのだ。それはつまり、大災害が起きた二年前までは、テラーの状態を知ることができたということ。


 同時にそれは、あの砂嵐が大災害の影響ではないことも示している。なにせ、私が見た記録では、テラーが受けた大災害の影響に砂嵐なんてものはなかったのだから。


 余談だけど、大災害は多くの場合、隕石のような案内人の攻撃を指している。平たく言ってしまえば、ティファー大陸全域に流星群が降り注いだみたいなものだ。


 そんなことが起きても、未だ生きているのだからこの世界の人間の根性はすごいと思う。そして、テラーもまたその隕石の被害を受けたと記録されていた。


 閑話休題。


 ともあれ、あの砂嵐は二年未満二週間以上の時間を、ああしてテラーを中心にして渦巻いているわけだ。


「中の人大丈夫なのかな、これ。もう全滅してる気がするけど……」


 渦巻くと言えば、あんな状態になってる砂国テラーはどうなってしまっているのだろうか。あんな巨大な砂嵐に巻き込まれたら、流石にひとたまりも無いような気がする。


「シュガー君。そこはあれだよあれ。えぇっと……竜巻の……じゃなくて、台風の口……でもなくて……」

「台風の目、ですか?」

「そうそうそれそれ」

「ロラロです!」

「いいね、冴えてるよロラロ君」


 なるほど、と思った。今私たちが見ている砂嵐は津波のように押し寄せてくるものではなく、竜巻のように渦巻くもの。その中心なら、外縁部よりは安全かもしれない。かもしれないってだけだけどさ。


「とりあえず、君たちはどうする?」

「ん? なにがですか」


 さて、ここで問いかけるような言葉を使って、カインさんが私に話しかけてきた。


「あたしはさっき、砂嵐テラーまで同行するって言ったね」

「言いましたね」

「そう。まあつまり、あたしはあの砂国テラーに挑戦しようと思うのだけれど、というか現在挑戦中なのだけれど、だからといってあんな異常事態に人を付き合わせるほど身勝手じゃない」


 ふむふむなるほど。つまり、こう言いたいのかな?


「引き返すなら今のうちってこと?」

「まあ、引き返さずとも迂回することもできるがね」


 まあ確かに、あんな砂嵐に挑むとなっては命がいくつあっても足りないけれど。


「なめて貰っちゃぁ困るな、カインさん」

「そう見えるかな?」

「ええ、まったく」


 ふふん。ここに居るのは誰と思っているのかね。


「あんなにも楽しそうな異常事態を見せられて突撃しに行かないようなら、そもそも王道から外れてここまで来てないって。というわけで、二人とも! レイドクエストを攻略するよ!」

「アハハ! 愉快だねあんた」

「わ、わかりました! 私、頑張ります!」

「ま、そんにゃことににゃるだろうと思ってたによー……」


 得意気にそういう私の顔を見たカインさんの笑い声が、ケラケラとあたりへ響く。

 続き、ロラロちゃんは緊張した面持ちで私を見上げて気合を入れ、諦めきったハスパエールちゃんはやれやれと装備の点検を始めた。


 そして改めて、カインさんは名乗りを上げるのだった。


「それじゃあ、改めて。現職は【火術士】のカインだよ。得意技は攻撃魔法〈裂空火〉と防御魔法〈炎護付与〉。それと下級火魔法を少しだけかな」



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