VRMMOの中に閉じ込められちゃいましたけどチートスキルのおかげで今日も元気に生きてます
熊
【Re:ReinCarnation-ONLINE】―『START‼』
『港町ファストリクス編』
第1話 スタートを切ったアマノジャク
「あー……ゲームしたい」
そんなことを呟いたところからこの話は始まる。
まずは自己紹介から。
私の名前は
しかも、倒産することが伝えられたのは当日のことで、何の準備もできずに私は職を失った……というのが、今さっき呟いた言葉のあらすじ。
実を言えば学生時代は重度のゲーマーだった私なのだが、就職するにあたって親からゲームハードをすべて叩き割られるという凄惨なる事件を経て、ゲーム離れに成功している。
まさかPC付属のVR機器をロードローラーで潰されると思っていなかった私だ。怒りを通り越してそこまでするならと、感心してしまった。そんなわけで就職後は、仕事に忙殺されて碌にゲームに復帰することができずにいたのだが――会社が倒産したことで、持て余すほどの時間ができたわけだ。
これまでゲーム以外の趣味があったわけでもなくて、今までのお給料もほとんど手を付けていない。
そんな社会人の財力でダイブ型VR機器一式を買ったのが昨日のことだ。
それから一日放心して、今になってようやくゲームをやろうと言い出した。それが、昼の12時過ぎのことである。
中高時代なら起きると同時にVR機器を起動し、バーチャル世界に飛び込んでいたというのに……歳を重ねると動き出しが重くなるのは本当のことだったのかと、実感するばかりだ。
ただ、思い立ったが吉日。さあゲームをやろうと意気込んだ私は、平日の真昼間のゲームショップに行ってさっそくプレイタイトルを吟味してきた。
10年近いブランクを埋めるにあたって、やはり名作は押さえておきたいのがゲーマー心。とはいえ、他人の手垢が付いた作品をやりたくないと思ってしまうのは、生粋の攻略者魂の性か。
どちらも持ち合わせてしまっている私の心は、まるで爆弾を前にして赤い線か青い線の二択を迫られる爆弾解除のプロフェッショナルが如く荒れ狂った。
結果、手に取ったのは新作コーナーにあったオンラインゲームのパッケージ。なんと、今日サービス開始の最新タイトルである。
その名を『
通称『リリオン』と呼ばれている本作は、30年前に発売した『ReinCarnation』シリーズの正統続編であり、初のオンラインタイトルとのこと。
もちろん、購入の決め手は私がゲームを買おうと意気込んで来たこの日にサービスが開始したからだけれど、もう一つ理由がある。
というのも、前作の『ReinCarnation.-
それこそ千時間以上はやり込んだ最初のゲームにして、VRゲームという泥沼に溺れた思い出の作品――その続編ともなれば、これはもう買うしかない!
というか、前作がシリーズ最終章と謳われていたこともあって、もう続編は発売しないものだとばかり思っていたんだけど……まあ、いいや。
あの広大なファンタジーに飛び込めるなら、どんなに無茶苦茶でも一人のファンとして楽しんで見せよう!
――そうして帰宅。
いぇーい、待ってましたよこの時を! うへへへへへ、存分に遊びつくしてやるぜぇ……。
なんて妄想をしながらVR機器の準備をする私。なんか一人で騒いでると虚しくなってくるな。
……確か、VR機器を壊されたのは短大に入る前だから、ゲームに触れなくなってまだ10年は経ってないとは思うけど……あの頃が千年は昔に現存したとされる、悠久の時を生きた化石のように思えてしまうほど懐かしい。
そんな世迷言はさておいて、さっそくゲームディスクをVR機器に挿入! しかも、用意したハードは金に物を言わせたデラックスエディションフルアーマースタイルだ!
起動と同時にあらゆる機能が発揮され、長時間ゲームでも肉体に負荷を与えない最高の設計――あまりにも高すぎて貯金が半分消し飛んだけれど後悔はない。
わぁお、最高の寝心地……。
リクライニングのベッドのようなVR機器に座り、手元のコントローラーを操作すれば、自動でヘルメットのようなVRゴーグルが頭に装着される。同時に、さながら棺が如く半透明のプラスチックの窓が私をベッドの中に閉じ込めた。
気分はまるでMRI検査の真っ最中。閉鎖空間に慌ててしまいそうになるけれど、そこは安心と信頼の高級製品。じんわりと私の体を覆っていく暖房機能の暖かさが安心感を与えてくれる。
そしてそのまま、私の意識が暗転する。
「ゲームの世界へいざ行かん!」
そう意気込んで、電子の海へと私は飛び込んでいくのだった。
この先で待ち受けていることなど、何も知らずに――
『リリィプログラム起動』
『Frontier the ReinCarnation』
『Re-----------------』
『リィンカーネーションプログラム始動』
『接続―確認』
『読取―完了』
『再構築―終了』
『再編―成功』
『根源―接続』
『ようこそ』
『新たなる世界へ』
―――――――――--・-・
真っ暗な世界。
はて、なんだろうここは。
買いたてのVR機器の設定は終わらせてあるから、普通はゲーム選択画面が来ると思うのだが……。
まさか、起動中に停電でも起こしたのか。ダイブ型VRは起動中に停電を起こすと、予備電源が作動して一時的に真っ暗な空間に転移させられると聞く。
ゲーム開始早々に停電だなんて幸先最悪のことが起きてしまった。そんな風に思っていると、遠くに光が見える。
「あ、あー! そう言う展開ね」
ここでようやくゲームの演出だと気づいた私だ。やはり長いブランクが色々と忘れさせてしまっているのだろう。
実際、体を見下ろしてみれば半透明に透けている。おそらくはまだキャラクターの外見を設定していない都合上のものだろう。
しっかし、すっごい暗いなーここ。
まあ、いいや。
とりあえず、演出に従って光の下へ――
「なんて王道から背くのが私! 暗闇の中に行ってやるぜうへへーい!!」
メインストーリーよりもサブミッションを優先させる。クエストが始まった途端に後ろを向く。判定が怪しい場所があったら裏世界を疑う。
他人の引いたレールに従わないこと。それこそが、ゲーマー無灯日葵の美学なり!! 私こそがアマノジャクなのだぁぁ!!!
「――……なんにもないや」
何てハイテンションが続いたのも最初の10分だけ。
一向に何かが起きる気配がない。
それもそうか。もしもこれがゲーム起動時のイベントだとして、まともにゲームを始めない輩に開発者が配慮するはずもない。
わかりやすいチュートリアルに目を背けるプレイヤーの行動を予測して、こんな暗闇に何かを置いておく方がどうかしている。はっきり言って変態だろう。
だから、これは徒労かもしれない。
なので、あと30分ぐらいしたら光の方に行くことにしよう。
うん、30分。ふふふ……オンラインゲームで幻の激レアユニークモンスターを狩るために十日間ダンジョンに潜伏した私を嘗めるなよ!!
「……ん? なにこれ」
そして30分後。遠くに見える光以外に目印がない暗闇の中を歩き続けていると、変なものを見つけた。
普通、こんなところにゲーム的な何かを置いておくわけないので、多分バグ。もしや見つけてはいけないものを見つけてしまったのではないかと、ウキウキで私はソレに近づく。
変なモノ、と言うのは何かの像だ。真っ暗な空間の中、ちょこんと地面に落ちていた像。多分、ゲーム内のオブジェクトが、バグかなんかでこの空間に取り残されてしまったものだろう。
しかし何の像だろうか。とりあえず拾って確認してみる。
「シリーズにこんなアイテムあったっけ……」
心臓のような形をした球体を中心にして、絡まり合う紐が人の形にまとまっていて、それらが台座の上に立っているという見た目の像。一応、リィンカーネーションシリーズに付いては一通り知っている私だが、こんなアイテムは記憶にない。
もしやこれは、今作のシナリオに関わる重要アイテムだったりするのだろうか。
公式からネタバレを喰らった! なんてことよりも、まだ誰にも見つけられてないアイテムを見つけてしまった! なんて好奇心に駆られる私である。バグであろうと何だろうと、未知を探求するワクワク感は何物にも代えられない楽しさがある。
これをどう使うのかなんて一切わからないけれども。
とりあえずなめてみようかな。ほら、こういうのってペロッてするのがお決まりじゃん。ペロッ……これは――!!
「うーん……あ、なんか書いてある」
舐め回すように像を見ていると、台座の裏側に文字が書いてあるのを発見。
――Zagreus
おぉう、あいむじゃなぱにーず。
「ざが……ざぐ? ザグレウス……かな?」
その名を読み上げた次の瞬間、脳裏に不思議な音が流れた。
「え、なになに!?」
びくりと肩を震わせて驚く私。それでも容赦なくファンファーレのようなSEは鳴り響き、同時にアナウンスが流れてきた。
綺麗な女性の声でそれは言う。
『ユニークスキル〈輪廻〉を獲得しました』
「……はい?」
ユニークスキル? 習得? え、色々すっ飛ばしてない?
私まだキャラクリとかもしてないんだけど?
「メニューの開き方もわからんのに……」
まさか、本当に重要アイテムだったりしたのだろうか。そうなるとなんだか悪いことをしてしまった気がしなくもない。
それこそ、このスキルを手に入れることで、リリオンのラスボスが倒せるようになったりとか……。
いや、こうなっては仕方がない! 一応、チュートリアルが終わった後に運営に連絡してから、第一発見者の特典として楽しませてもらおう。
そんなわけで、収穫もあったことだしそろそろゲームを始めようか。
「よしっ、いざ行かん!」
起動から約30分。チュートリアルすら始まっていないゲーム開幕のイベントで躓くには長すぎる時間を経て、私のリリオンは始まったのだった――
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