第27話 骸骨武者 対 甲冑騎士


 ロラロちゃんが戦いから離れていた理由は大きく分けて二つ。


 彼女の武器が考え得る限り最もスケルトンに不向きな短槍であったこと。そして、彼女が扱っていた魔導甲冑に内蔵されたハンマーが最もスケルトンに有効な武器であったことだ。


 第三形態が終わってから、明確に狂闘狼の短槍では手に余る相手とわかった瞬間に彼女は言った。


『わ、私は魔導甲冑の修理に取り掛かります……その方が、確実に戦力になることができますから!』


 その意見を後押ししたのは、意外にも六華ちゃんだった。


『使い慣れた武器があるならそちらがよろしいかと。少なくとも、ガガンド族は武芸に長けたキャラクターではなかったと記憶していますし』


 きっとPKとしての感覚が、ロラロちゃんが槍を使い慣れてないことを見抜いたのだろ。


 そんなこともあって、一時戦線を離脱したロラロちゃん。そして私たちは、彼女に敵の意識が向かないように、積極的に攻撃を仕掛けていた。


 その甲斐あってか、ついに修理が終わった魔導甲冑だ。


「ハハァッ!!」


 しかも、戦闘モードに入ったロラロちゃんのパフォーマンスは最高潮に達している。どこからともなく取り出したハンマーが戦場を縦横無尽に駆け回り、たった一人で波濤のような猛攻をガシャドクロウへと仕掛けていた。


『おお、なんと素晴らしき攻勢かな!』


 やはりここはユニークボス。それらの猛攻を骨の刀一本で防ぎきったうえで涼しい顔をしていた。


 いやまあ、骸骨だから表情なんてわからないし、肉も身もない体はそれはもう涼しそうだけどさ。


「流石に参戦しないわけにはいかないよねぇー」


 レベルの低いポーションでちまちまと回復していた私は、攻め切れないロラロちゃんを見てそういった。いくら魔導甲冑が想像以上の力を見せているとはいえ、相手はユニークボス。一人で対応するには手が余る。


「んじゃ、そっちはよろしく六華ちゃん」

「仕方がありませんね……。言われたとおりの仕事はこなすとしましょう」


 減った体力がようやく3000まで回復したところで、私はようやく戦線に参加しようと動き出した。ただ、その前に六華ちゃんへと目配せをする。


 彼女には一つ大役を任せているのだ。ベンチに座ってるからって、仕事がないだなんて大間違いだ。


「〈キャットファイト〉」

「〈狂化〉!」


 それから、参戦を控えた私とハスパエールちゃんは同時に自己強化バフを起動した。


 私が使ったのはもちろん狂闘狼の短槍に標準搭載される追加スキル〈狂化〉である。その効果はHPを最大値の20%消費して、STRとAGIを上昇させるというモノ。


 私がロラロちゃんの戦いを見物していたのは、主にこのスキルを発動するためにHPを回復していたからだ。なにしろ、私のHPの上限は現在8000近くある。その20%もなれば実に1600。3000まで回復したHPの半分も消費しなければならない数値である。


 とはいえ、その強化は破格のSTRAGIの20%強化。何よりもAGIの底上げによって、チートなステータスを持つ私は更に速くなる――


『三対一か、それもまたよし!!』


 ガシャドクロウの真正面に立つロラロちゃんを軸に、私たちが補佐に回る。


 スケルトンの骨を砕く上で有効的な打撃武器を持つロラロちゃんをガシャドクロウは無視することはできない。


『剣技〈吻骨〉』


 とはいえ、ロラロちゃんの本職は生産職だ。いくら強くても不慣れな戦闘に彼女の動きは隙を生んでしまう。そこを狙いすましたガシャドクロウの攻撃スキルが空気を切り裂く。


「〈猫パンチ〉!!」

「ていやっ!!」


 その隙をカバーすのが私たちの役目。攻撃の瞬間にこそ芽吹くガシャドクロウの隙をハスパエールちゃんの拳が差し込まれ、ロラロちゃんへと向けられていた攻撃を私が槍を交差させることで狙いを逸らす。


『ぬぅ! 粗さは目立つが、見事な連携だ!!』

「そりゃどうも!」


 一朝一夕の連携だけれど、甘い箇所は高いAGIでどうにかこうにか誤魔化すことができる。


「〈衝槌起動〉――〈グレートハンマーインパクト〉ォ!!」

「ハスパエールちゃん!」

「わかってるにー!」


 魔導甲冑に似つかわしく巨大なハンマーを振り上げるロラロちゃん。容赦なきその一撃は、周囲を巻き込む恐れのある範囲攻撃。


 一歩でも離脱が遅れれば私たちも巻き込まれかねないけれど、反応が遅れたとてAGIが高ければどうにかなる。ただ――


「詰めが甘いにぃ……」

「甘いというか、手立てがないというか……やっぱ、強烈な攻撃がないと攻め切れないなー……」


 ロラロちゃんの必殺技こと〈衝槌起動〉からの〈グレートハンマーインパクト〉は、ハンマーに内蔵された機能を使い、一撃の威力を上げるモノ。質量+加速+魔導甲冑のパワーが加わったその一撃は、岩盤すらも破壊する威力を持つが――


『我が骨鎧を打ち砕くにはぬるいわァ!!』


 ロラロちゃん渾身の必殺も、ガシャドクロウが纏う骨の鎧を砕くには至らない。


 せいぜいが、その表面を大きく窪ませる程度に過ぎず、大仰な一撃の対価にしては致命傷にも届かぬささやか過ぎる結果といえるだろう。


 ハスパエールちゃんの〈猫パンチ〉も同様だ。やはり、AGIに偏重したステータスを持つ彼女の一撃はどうにも軽く、ガシャドクロウをひるませることはできても、危機感を抱かせるには至らない。


 ただ強く、ただ堅い。


 絡め手は通じず、真正面から叩き伏せるしかない。


 八面無尽ガシャドクロウ。


 ボスとしてこれ以上厄介な存在はいないことだろう。


 少なくとも、私たちがこのボスを倒すためには、彼の鎧を超えてダメージを与えられる攻撃が必要だ。


 そう、例えば――


「六華ちゃん!」


 たった一つの攻撃に全てを賭ける、そんな一撃が。


「〈鬼人化〉――」


 はるか後方にて続けられるスキルの発動。それらは、一撃のもとに敵を切り伏せることにのみ心血を注いだPK職特有のピーキーな能力を、更に強化する狼煙である。


「〈ブレードスラッシュ〉」

『ぬぅ!?』


 風の如く世界を薙いだ斬撃は、狙いを絞るために下から上へと切り上げるように私たちの戦いに割って入り、ガシャドクロウの堅牢な鎧を切り裂いた!


『四人目とな!? しかし、先の一合にて剣は確かに砕いたはず――』


 戦線を離脱したはずの六華ちゃんから放たれた一撃に、驚きを隠せないガシャドクロウ。それもそのはず、彼女の野太刀は半ばからへし折られ、刀としての機能を保っていない。


 攻撃してくるはずがない。


 けれども。


「挑戦してみるものですね……まあ、射程距離は以前よりも断然に短くはありますけれど」


 その右手に構えられていたのは野太刀ではなかった。


 それは奇しくも、ガシャドクロウが持つ骨刀と同等の材質によって作られし武器。その名も『青小鬼の鬼人鉈』


 私が六華ちゃんへと譲渡した武器である。


「六華ちゃん、ナイスぅ!」


 青小鬼の鬼人鉈はSTR+124という強烈なステータス強化を持つ武器であり、SPを消費することで更なる攻撃力の増強が可能。


 そこに加わるのは、外れた間合いから敵を切ることに特化した六華ちゃんのPKジョブ(詳細どころか名前すら教えてくれない)の強化斬撃。


 この二つが加わることによって、六華ちゃんの斬撃はガシャドクロウの強固な骨鎧すら断ち切る凶器へと変貌していた。


 しかし。


「惜しい!!」


 その一撃は、辛うじてガシャドクロウの命に届かない。


 第一形態から第七形態まで共通してきた、増えた顔の破壊による討伐。それは第八形態となる八面無尽ガシャドクロウにも適用されるルールだとは思われるが、六華ちゃんの刃はガシャドクロウの足から肩口を切り裂くにとどまり、八つ目の面を割ることはできなかった。


 つまり。


「あと58秒!!」


 斬撃強化のスキルの再発動までの一分間を、凌がなければならない。


 しかも。


『渇ききった血が滾る!! そぎ落とされた肉が疼く!! 骸積み上げし共謀者どもよ! ここからが正念場と心得よ!!』


 古今東西、追い詰められたボスは更なる力を発揮するものだ。


『熟れし骨刀よ! 肉を喰らいしその身を今、解き放つのだ!!』


 ガシャドクロウが天高く骨刀を突きあげる。大技の予感がプンプンするアクションに身構えた私は、すぐにその場から逃げなかったことを後悔した。


『我が限界はないと知れ――〈無尽骨峰〉!!』


 私が、ハスパエールちゃんが、ロラロちゃんが、全員がその行動に警戒する中、ガシャドクロウが天へと突きあげた骨刀を、今度は地へと向け突き刺した。


 その瞬間、私たちの足元から骨が現れる。


 まるで、草原に花が咲き誇るように。


 骨の刃の峰々が、足元から私たちへと襲い掛かって来た。


 〈ブレードスラッシュ〉再使用可能まで、残り45秒――

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