第8話 トレンドに追いつくアマノジャク
転生システム、というものがこのリィンカーネーションシリーズには存在する。
これはシリーズごとに様々な形態で、個性的なゲーム性に繋がるのだが――今作では、武器防具にその転生システムは適用されているらしい。
曰く、耐久力を失った武器や防具を転生させることで、そこに至るまでの経験値を参照し、特殊な力を持った武器を作り出すことができるのだとか。
それらは『転生武器』と呼ばれ、生産職のやり込み要素に一つとして掲示板では周知されていた――
「……これ、転生武器かな」
町に戻らずに森の中にいた私は、二本目となる『狂闘狼の短槍』を見て、一本目の時よりも控えめながらこれでもかと聞こえてくるレベルアップの通知を聞き流しながら、そう呟いた。
というのも、これを見てほしい。
・狂闘狼の短槍
品質A- レア度D+
―所有者を狂わせると言われる曰く付きの槍
STR+56
AGI+39
特殊効果
スキル〈狂乱〉を追加する。
効果:発動時にHPを20%消費し、20秒間AGIとSTRを20%上昇する。
スキル〈風のように早く〉を追加する。
効果:使用時、SPを徐々に消費する代わりにAGIを10%上昇する。
品質は、おそらくDEXと技術スキルの上昇に伴うモノだと思われるが、特殊効果はちょっと違う。
特殊な素材や、特殊なレシピによって追加されるのが特殊効果だ。それなのに、ありあわせの素材で作っただけの武器に付いているとなると――転生によって特殊効果を手に入れた転生武器の可能性が高い。
転生武器。それは、武器を新たなる武器に転生させることで手に入る武器。普通なら、まずは素体となる武器を破壊し、一度殺さなければならないはず。
だけど、おそらく、この私の【輪廻士】と言うジョブは――
「魔物を武器に転生させてる?」
なるほど。つまりは、魔物の力をそのまま輪廻転生させて作り出す道具に宿すのが、この【輪廻士】が生産職たる所以なのか。
そして、使う素材がもつ進化の可能性すらも、このユニークジョブは引き出すことができる――
故に、ユニークジョブというわけね。
「はは……」
あまりゲームに対して抱く感情ではないと思うけれど、この素材の主であった魔物を、骨の髄どころか魂の髄まで頂き呑み干し使い切るこのジョブは、なんというかあまりにも――
「……凄惨過ぎない、これ……?」
そういえば、リィンカーネーションシリーズの設定資料集にあった気がする。確か3だったかな。
『かのマッドサイエンティスト教団は、絶対不可侵の魂すらも利用する凄惨極まりない術を見つけ出した。しかし、それゆえにあるモノに目を付けられ、滅ぼされてしまう』
リィンカーネーション3は、2で黒幕となったマッドサイエンティストの秘密結社【
3で【心世廻】を滅ぼした黒幕が、まさかマグナで描かれた『
けど。
私は今、子供心に軽蔑した連中と同じ技を使ってると。
「おぉ……すごいな……」
それなのに、ドキドキワクワクとしている私は、根っからの善人ではないのだろう。
昔、友達に言われたことがある。
『あんたは冷たいよ。死んだ人間の皮膚みたいに。朝を報せる時計みたいに。暴虐的なまでに、静謐なまでに』
当時は意味が解らなかったけど、なんとなく今ならわかる気がする。
好奇心こそが私の道標なんだ。だから、残酷な設定が設けられたこのジョブを使ってなお、ワクワクが止まらない。
このジョブを使ったら何ができるのかを、考えられずにはいられない。
「ハスパエールちゃん!」
「考え事は終わったにー? 生憎と頭脳労働はわちしの仕事じゃにゃいに。というか、今日は疲れたから家に帰ってお布団で寝たいにー」
「あ、そうなの? ……でも、その前に」
「にー……? い、嫌にゃ予感がするにー……」
「森の魔物を狩り尽くして、ジャンジャン素材を取っちゃおー!!」
「にー!?」
さっそく作ったばかりの狂闘狼の短槍を右手に掲げた私は、命令に逆らえないのをいいこととに、ハスパエールちゃんを連れて極悪非道にそう叫ぶのだった――
『戦闘スキル〈槍使い〉レベル1を獲得しました』
『技術スキル〈解体〉のレベルが1上がりました』
『補助スキル〈索敵〉レベル1を獲得しました』
『補助スキル〈悪路踏破〉レベル1を獲得しました』
『プレイヤーレベルが1上昇しました』
◆PL『ノット・シュガー』
―ジョブ:輪廻士(ユニークジョブ)
―プレイヤーレベル lv.8
―ジョブレベル lv.4
―ステータス
―スキル
〈輪廻〉〈狂化〉〈風のように早く〉
―ジョブスキル
〈天格〉〈開花〉〈転化〉
―技術スキル
〈解体〉lv.2〈下級近接武器制作〉lv.5〈下級獣素材制作〉lv.6〈裁縫〉lv.3
―戦闘スキル
〈槍使い〉lv.1
―補助スキル
〈索敵〉lv.1〈悪路踏破〉lv.1
―装備
『狂闘狼の短槍』
品質A- レア度D+
―所有者を狂わせると言われる曰く付きの槍
STR+56
AGI+39
特殊効果
スキル〈狂乱〉を追加する。
効果:発動時にHPを20%消費し、20秒間AGIとSTRを20%上昇する。
スキル〈風のように早く〉を追加する。
効果:使用時、SPを徐々に消費する代わりにAGIを10%上昇する。
『始まりの狩人・一式』
一式効果:END+10%
そういえば、なんかスキルが増えている気がするけれども。そんなことを気にする暇もなく、私は持てる分だけの素材を取って、町に帰るのだった――
「つ、疲れたにー……」
「ふぅー帰って来たー! とりあえず、納品して、お金貰って、そしたらご飯でも食べよっか!」
「おいしい料理を所望するにー!」
さて、始まりの町ファストリクスの近辺まで戻って来た私だ。
依頼の採取品もしっかりと詰め込んだ鞄を増強されたSTRに任せて運ぶ帰り道。それこそ部活帰りの中学生みたいなショルダーバッグパンパンに持ち帰った素材を、これからどうやって使おうかと頭を悩ませつつ、にやにやと歩いていると――
「あれ、なんか騒がしい?」
ファストリクスの方が騒がしいことに気づいた。
もちろん、復興中の都市と言うこともあってか、ファストリクスは騒がしい。それは町で入門するための工房を探している最中にも、散々駆け抜けた人ごみの活気と言うモノだ。
しかし、これは違う。
怒号と罵声。それと慟哭。ゲームをしているとはおよそ思えない負の感情の三重苦が、重苦しく町全体に轟いていた。
何があったのか。もしやPKプレイヤーが想像を絶する犯罪でも犯したのか。それこそ、町のNPCを全員殺したとか……そう思いつつ、急いで町の方へと駆けていく。
まだ戦災の傷跡が残る郊外を抜け、崩れた城門を通り、復興の真っ最中の大通りへと足を運んでみれば、そこには中央通りを埋め尽くすほどのプレイヤーたちで溢れていた。
なにごとか、そう思った時のことだった――
「どういうことだよ、あぁ!?」
あまりにもドスの利いた声が大通り全体にこだました。
「え、ええ、な、何があったんですか……」
ここに来て、著しく対人能力が低下する私は、聞こえてきた怒声に恐れおののき、おどおどとした言葉を漏らす。そんな私の横では、ハスパエールちゃんが、大通りの出来事を冷めた目で見ていた。
「喧嘩に?」
「いんや違うよ、お嬢さん方」
「……誰に?」
ハスパエールちゃん同様、白昼の往来で繰り広げられる喧嘩かと私も思ったのだけれど……近くにいた吟遊詩人風のお兄さんがシニカルな笑みを浮かべながらそう言った。
「初めまして。僕は『-
「立て込んだ事情? というと?」
「あれ、君たちは掲示板を見てないのかな」
「あ、えっと見てますけどー……んぅ?」
ハイフンさんに言われるがまま、端末を起動して掲示板を確認する。すると、恐るべき量のスレッドが乱立し、それらすべてがほぼ同一の内容で埋め尽くされていた。
『この世界から出る方法』
そういえば、森に行く前に似たような書き込みを見た気がする。
……え?
ちらりと、訳知り顔のハイフンさんを見る。
「そこに書かれている通り、今、この世界にログインした人間は、誰もログアウトできない。このゲームの世界から、出ることができないんだ」
「えぇ!?」
そ、そんなのあり?
「ゲームの世界ってにゃんだにー」
「おっと、そっちのお嬢さんはNPCだったか」
「むむ……まさかあんたもあの変態たちのにゃかまかにー……?」
ぎろりと、ハスパエールちゃんのハイフンさんを見る目が鋭利になる。彼女の中ではプレイヤー=変態、そして変態=警戒対象なんて構図が出来上がっているのかもしれない。
「まあまあ、とりあえずハスパエールちゃんには関係ないから」
「こっちこそごめんだにー。ご主人たちと同類にされちゃかにゃわないにー」
「……ご主人?」
「そこらへんは企業秘密で……あはは……」
ハスパエールちゃんのことをごまかしつつ、詳しい話をハイフンさんから聞いてみる。掲示板はあまりにも情報が錯綜しすぎてて、ちょっとわけわからないことになってるから。
「現状、と言っても一時間前から混乱が続いているところだね。サーバー開放と同時になだれ込んできたリンカネファン+国内MMOだから多分、10万人は行ってないと思うけど……まあ、数万人の人間が、ゲーム内に入って出られなくなってる、のが今の状況かな」
おぉ……相当ひどいことになってるみたいだ。というか、思い立ったが吉日じゃなかったのか私。吉日どころか凶日なんじゃないのか。
「ゲーム開始から3時間。まだ気づいていない人たちは郊外でクエストをこなしてる人か、クエストに忙殺されてる生産職だけかな。まあ、次第にプレイヤー全員が知ることになると思うけど……その結果が、あっちの喧嘩だよ」
ハイフンさんに示されて、あちらを見る。
あちらと示されたファストリクスの大通り、そしてそこに繋がる劇場広場までの横幅の広い通りでは、幾数人の人間が対立するようににらみ合っていた。
「人ってのは三人居れば派閥ができると言われてる。そんなもんだから、気づいてないプレイヤーを除いて、今このゲームには三つの派閥が出来上がったんだ」
ハイフンさんは、言う。
「さて、君はどんなスタイルであの対立を見るかな?」
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