第7話 開花するチートスキル
『ジョブスキル〈開花〉が使用可能です』
何やら不穏な表記が、視界の端に浮かんでいた。おそらくは何らかのアナウンスなのだろうけど、〈天格〉の時と比べるとあまりにもささやかな主張だ。
使えるから使うといった愚を犯す前に、私はステータスからスキルの詳細を確認した。同じ過ちは繰り返さない私だ。
ジョブスキル〈開花〉
効果:対象の持つ潜在能力を最大まで開花させる
おっと曖昧な説明だな。
んーでも、奴隷とか服従とかそんな感じの物騒なことは書いてないし、使ってよさそう?
「よしっ、使ってみるか! 〈開花〉!」
気合を込めてスキルの名前を呼んでみると、今度は視界に『対象を選択してください』と表示された。対象、と聞いた私は、すぐにウォリアーウルフから取れた素材各種を確認する。
・ウォリアーウルフの毛皮
―素材アイテム 品質C- レア度F+
―茶色いごわごわとした毛に覆われるウォリアーウルフの皮。加工しやすい。
・ウォリアーウルフの骨
―素材アイテム 品質D レア度F+
―ごつごつとした骨。強度はある。
・ウォリアーウルフの牙 レア度F+
―素材アイテム 品質D-
―鋭いウォリアーウルフの牙。
・ウォリアーウルフの肉 レア度F+
―素材アイテム 品質C+
―ウォリアーウルフの肉。生臭く食用には向かない。
一応、頑張れば頭骨や内臓なども〈解体〉できると思うが、頭骨は須らくハスパエールちゃんが砕いてしまい、内臓は運ぶ包みに困ったので放置した。
なお、内臓は捨てたが肉は毛皮で包んで持ち運んでいる。
さて、そんな風に広げた素材の数々を見ると、〈開花〉使用可能という表示が浮かぶ。なので、私は容赦なく素材たちを〈開花〉した。
すると。
「にゃ、にゃにが起きてるに!?」
「おぉー……すごっ」
突然、素材たちが光り輝き始めたかと思えば、光が収まったころには姿かたちを変えていた。
それこそ、茶色っぽかったウォリアーウルフの毛皮はどこか青みがかった色に変化し、骨や牙はよりその威容をごつごつとしたものに変化していた。
肉についてはそこまで変わっていないけれど、なんだか雰囲気からしてただのお肉とは思えないオーラを放っている。
果たして何が起きたのか。とにかく、アイテムの表記を確かめると――
・バーサーカーウルフの毛皮
―素材アイテム 品質A+ レア度D+
―バーサーカーウルフの毛皮。青い体毛はマニアの間で高値で取引される。
・バーサーカーウルフの骨
―素材アイテム 品質S レア度D+
―バーサーカーウルフの骨。高い強度はあらゆる道具の基礎となる。
・バーサーカーウルフの巨牙
―素材アイテム 品質A+ レア度D+
―バーサーカーウルフの牙。獲物を確実に仕留めるために巨大に発達している。
・バーサーカーウルフの肉
―素材アイテム 品質A レア度D+
―バーサーカーウルフの肉。臭みが強いが、処理次第ではとても美味。
「なんかいろいろ変わってるぅ!?」
何かなら何まで変化していたアイテムたちを見た私は、思わず大声を上げて驚いてしまった。
「何をしたに、ご主人様」
「スキル使っただけだよ。ほら、【輪廻士】のスキル」
「にー……?」
何が起きたか理解が追い付かないのは私だけではなく、隣で一部始終を見ていたハスパエールちゃんも同様。彼女が浮かべる疑問符はもっともなものだけれど、私は何の説明もできない。
ただ、バーサーカーウルフとはリィンカーネーションシリーズに登場する狼型の魔物の一体だ。それこそ、中級ダンジョン辺りで登場するウォリアーウルフの上位種……まさか。
「転生、させた……?」
〈開花〉を取得したのは、ユニークスキル〈輪廻〉によって獲得できた【輪廻士】というジョブのおかげ。輪廻と言えば、輪廻転生。このゲームに連なる言葉だ。
もしや、この〈開花〉と言うスキルはまさか……素材のもつ才能を開花させるために、ウォリアーウルフの素材をバーサーカーウルフの素材として輪廻転生させた……の?
え、それって。
「チート過ぎない……?」
ヤバすぎる。
いやいやまてまて。たかだか私がやったのは素材を手に入れただけだ。この素材を生かしてアイテムを作らなければただの宝の持ち腐れ。そう、ただの宝の持ち腐れなのだ――
『狂闘狼の短槍を作成しました』
『技術スキル〈下級近接武器制作〉のレベルが3上昇しました』
『技術スキル〈下級獣素材制作〉のレベルが5上昇しました』
『技術スキル〈裁縫〉のレベルが2上昇しました』
『プレイヤーレベルが5上昇しました』
『ジョブレベルが3上昇しました』
「なにこれッ!!」
徐に懐から取り出した生産職の初期装備にあった裁縫キットを使って即席の槍を作ってみれば、アホみたいにレベルが上がった。
しかも、完成品がこれだ。
・狂闘狼の短槍
品質B レア度D+
―所有者を狂わせると言われる曰く付きの槍
STR+42
AGI+30
特殊効果:スキル〈狂乱〉を追加する
〈狂乱〉効果:発動時にHPを20%消費し、一定時間AGIとSTRを20%上昇させる。
めっちゃ強ぇ……!!
なにこれ、ゲーム早々バランス崩壊するよ!?
いいの!? これ、いいの!?
……ごほん。
一応、この武器を作るうえで私がやったことと言えば些細なモノで、かつてのオンラインゲームの経験から、大腿骨と思しき太く長いバーサーカーウルフの骨を基礎に裁縫セットの紐を使ってバーサーカーウルフの毛皮をまきつけ、その頂点に20センチはあるバーサーカーウルフの巨大な牙を付けただけだ。
ただそれだけなのに、サーバー始動初日手に入れてはいけないようなステータスの武器が出来上がってしまった。しかもこれ、武器の性能に関わるスキルを軒並み持っていな状態で作ったものだ。
これがもし、技術系スキルを十全に身に着けた状態で作ったとなると……やばいな、これ。
参考程度に、掲示板には戦闘職の平均STRは80程度だと書いてあった。そこそこ魔物を倒してレベルを上げた彼らのステータスが80そこらなのだ。それを考えると、槍一本でSTR+42は破格。更にAGIまで付いてくるのだから、頭がおかしくなる。
まあ、でも……。
「できるから、いいよね?」
『はい。リリオンはあなたの行動すべてを肯定します』
ヘルプに確認を取ったうえで、リィン様の肯定が溶けかけた私の精神を繋ぎとめた。
「うーん……でも、これを流通させるのは流石にまずいよなぁ」
ゲーム崩壊的な意味でも、オンラインゲーム的な意味でも、私がこんなに強力な武器を作れるのが広まるのは流石にまずい。
当然の如くこのゲームには
「ハスパエールちゃん。これは二人の秘密だよ……」
「あ、う、うん……というか、奴隷のわちしに約束は破れないにー」
しっかりとハスパエールちゃんを口止めしつつ、改めて私は出来上がった狂闘狼の短槍を見た。
おそらく、これは貴重素材と素材品質による暴力によって出来上がった傑作だろうけれど、何よりもチートなのはこれを作るにあたって鬼のようにレベルが上がったことだ。
つまり、このゲームではアイテムを作る際、貴重で高品質の素材ほど大量の熟練度を獲得できるという証拠。それと、プレイヤーレベルとジョブレベルはアイテムクラフトで獲得することができ、こちらもまた貴重で高品質な素材を消費するクラフトをすると大量の経験値を獲得できる仕組みらしい。
それもそうか。
弱い魔物よりも強い魔物を倒したほうが大量の経験値が得られるのと仕組みは同じだ。
低品質の素材よりも、高品質の素材の方が大量の熟練度が得られる。これは……このゲームに革命を与える情報だ。
ただ、諸刃の剣でもある。なぜなら公開と同時に情報のソースを求められてしまえば、自ずとバーサーカーウルフの素材を話すことになり、どうやったってこのチート級武器にたどり着かれてしまうから。
PKに付け狙われること間違いなしだ。
「くっ……背に腹は代えられないか……」
PKに襲われ続けるなんてまともにゲームができる気がしない……こともないけど、流石に今回のオンラインゲームの私は戦闘が苦手な生産職。
リスポーンのできないハスパエールちゃんも居ることだし、この情報は秘匿するしかないだろう。
あるいは――
「まだ誰もたどり着いていない場所で、一人情報を発信し続ける、とか?」
強い装備があれば、先に進める。それを繰り返して、誰もいないところに行けば……PKに狙われることなんてない。
いや、でも――
「もうちょっと、色々試したいんだよなぁ」
このチートスキルはまだまだ発展の余地がある。それを試すためにも、今は情報を秘匿し、【輪廻士】にまつわるスキルの検証をすることを決める私だった。
◆PL『ノット・シュガー』
―ジョブ:輪廻士(ユニークジョブ)
―プレイヤーレベル lv.7
―ジョブレベル lv.4
―ステータス
―スキル
〈輪廻〉〈
―ジョブスキル
〈天格〉〈開花〉〈
―装備
『狂闘狼の短槍』
品質B レア度D+
―所有者を狂わせると言われる曰く付きの槍
STR+42
AGI+30
特殊効果:スキル〈狂乱〉を追加する
〈狂乱〉効果:発動時にHPを20%消費し、一定時間AGIとSTRを20%上昇させる。
『始まりの狩人・一式』
一式効果:END+10%
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