第69話 みんなみんな嘘つきだ
「むー、やっぱり遺跡に入るとかなり世界観変わるね!」
「……」
「やっぱりこの壁も超古代文明の素材だったりするのかな。ってことはさ、これ作れたら建材革命だよね……試しに砕いてアイテム化してみようかな」
「……」
「というか、なんで私たち無傷なんだろうねソラカちゃん! やっぱりこれって王様の魔法だったりするのかな!」
「ああもううるっさいわよさっきから!!」
こちらシュガーとソラカの二人。遺跡の街並みを、特に敵と遇うこともなく探索しているところである。
ただし、その様子は二人仲良くと言った感じではない。
「ペラペラペラペラよくもまあ口が回るわねあんたは!」
「へへっ、普段喋らないくせにいざとなったらペラペラと口が回る……情けない陰キャの悲しき生態ってやつよ」
「わけわかんないこと言わないでよ!」
仲良くできない原因は、やはりソラカからの一方的な悪感情にある。ただ、その悪感情についてシュガーも思わないところがないこともない。
というのも。
(うーん……確かに、出会い頭に不意打ちで魔法に襲われたから嫌ってるってのはわかるけど……これだけ嫌われてるってのを、それだけの理由で終わらせていいのかな?)
彼女たちの出会いは、それはもう最悪のものであったと言っても過言ではない。大穴の高さを観測するためにカインが撃った魔法が、偶然にも下にいたフーディールとソラカの二人の近くに落下したのだ。
その後、空から現れたシュガーたちとソラカ二人は戦闘。それからなんとか和解こそしたものの、ソラカの敵意は解けない、と。
しかし、シュガーにはどうにもその敵意に違和感を覚えた。あの時のいざこざ。それだけが理由ではないような――なんて、思うけれども。
(いやまあ私が普通に嫌われてるだけかも……)
陰キャ代表シュガーこと無灯日葵。六華然り、然したる理由にも気づけずに避けられること数知れず――伊達に友人が少ない彼女ではない。嫌われることには慣れている。
別に、悲しくないわけではないけれど。
ぐすん。
「というかさ、一つ気になってることがあるんだけど訊いて言い?」
「なによ! くだらないことだったらその首刎ね飛ばすわよ!」
「わぁお、バイオレンス~!」
いったん話題をリセットして、質問の許可を取るシュガー。普段であれば何の気なしに訊く彼女だけれども、流石にここまで嫌われているともなると、助走距離を確保して話すようだ。
いや、六華の時の対応を思えば気まぐれなのかもしれない。というか、つんつんと敵対的な相手ほど、シュガーのアプローチが激しくなっているのは気のせいだろうか。まあ、気にするようなことでもないかもしれないけど。
ともあれ、質問だ。
気になっていたこと。事前に予告をしておいた質問を、シュガーはソラカへと投げかける。
「王様って人間?」
「……」
答えはない。
「それ、は、どういう……意味、よ……」
しかし、答えにならない言葉はあった。質問に質問で返すことはコミュニケーション上、褒められたものではないけれども。ただ、目を俊敏に瞬かせながら声を震わせるソラカを見て、シュガーは可愛いなと思った。
それともう一つ。純粋な子なんだなとも。
「正直これは訊くか迷ってたことなんだけど、遺跡まで来ちゃったしね。ここから出るためにも必要な情報だと思うから、話してほしいんだけど……あ、こっちも訊いておきたかったんだけど、ソラカちゃんの方にも私たちとおんなじアナウンスが流れてるよね。【千古不易の没落貴族】ってやつ」
ごくり、とソラカは息を呑んだ。その様子を観察しながら、シュガーはなんてことないように語り続ける。
「千古不易。これは古代遺跡のことかな。違っても、多分そっち関係。となると没落貴族ってのも遺跡関係の単語だとして……ぴぴーんと来ちゃったわけだ」
シュガーが語っているのは、以前にも彼女のパーティー内で何度か話したクエスト名から察することができるクエストの全容についてだ。
彼女が現在クリアを目標に掲げているレイドクエスト【千古不易の没落貴族】は、そのすべてが闇に包まれた謎のクエスト。だからこそ、数少ない情報から、確実にクリアに繋がる糸筋を探し続けていた。
仕入れた情報を咀嚼し、頭の中でひたすらに思考を重ね、なんとなくすらも考慮に入れる。そうしてやっと見えてくるクエストの全容。けれども、それは未だ暗闇のように不確かで、霞のように掴めない。
だからこそ、より明確にクエストの目的を捉えるために、シュガーは訊ねたのだ。
「王様。……ソラカちゃんたちが言う、王様ってさ。この遺跡で見つけた、ゴーストとかなんじゃないのかなって確認」
ゴースト、とシュガーは口にするときにちょっとだけ身震いをした。やっぱり心霊に関しては、口にするのも憚られるほどには苦手らしい。これはもう、根源的な恐怖に近い。何をやったらこの女にそんな恐怖を刻むことができるのか。彼女はこの恐怖を刻んだ友人のことを一生忘れないだろう。
閑話休題。
ともあれ、一つの確信をもってシュガーは、王様の正体についての事実を指摘した。
「というかそもそも、王様っているの? 私にはどうも、何か別の概念を王様ってキーワードで隠してるようにしか見えないんだけど」
人の気持ちはわからないくせに、そう言ったことばかりには目聡いシュガーだ。いや、逆かもしれない。事実を繋げることにばかり躍起になっているからこそ、事実や合理から外れた人の気持ちがわからないのかもしれない。
しかし生憎と、シュガーのパーソナルに詳しいとある征服者はこの場には居ない。古い知り合いである愛人も、狂人も、霊感少女もいない。最近の知り合いである子猫も、アンビルガールも、野心家も、誰もいない。
ここに居るのは、まるですべてを見透かしているように語るシュガーに恐怖するだけの少女だけ、だ。
だからこそ――
「そ、それが、何だって言うのよ!!」
シュガーは“また”選択肢を間違えた。
「アレは私たちのものだ! 絶対にあんたらみたいな人間に渡すわけにはいかないのよ! そうしたら……そうしたら、また……あんなふうに……あんな、惨めな……あんな惨めな日を、繰り返すわけにはいかないのよ!!」
激昂するソラカは、腰に差した剣を引き抜き切っ先をシュガーへと向けた。そこでようやく、シュガーは自分が間違えたことを認識した。
「え、ちょちょちょちょ! フリーズ! フリーズ、ソラカッチャァン!!」
「うわぁあああ!!」
制止を促すシュガーであるが、それも叶わず剣は振るわれる。それをシュガーは、とっさに鬼刃鉈を取り出し対処した。
面と向かって切り結び、つばぜり合うことでその動きを制止させる。けれども、ソラカの怒りは止まらない。
「クールダウン! クールダウンだよソラカちゃん!!」
「何がクールダウンよ! あんたらだって、私たちの物を奪いに来たんでしょ! 死んで当然じゃないの!」
奪いに来た。その言葉に、シュガーの疑問は加速した。
「恵まれてるくせに! 報われてるくせに! 救われてるくせに! なんで……なんで、私たちから奪おうとするのよ!!」
そこで初めて、シュガーはソラカの顔を見た。
涙を湛え、限界が近づいている少女の顔を。
「私たちから何かを奪うんなら、お前も死ねよ!!!」
何かがあった少女の顔を、シュガーは見た。
ただし、その顔はすぐにシュガーの目の前から消えることになる。
ピーガガガ、と。機械的な音が二人の間に割って入ったのだから。横合いから現れたソレが、突如としてシュガーの体を吹き飛ばしたのだから。
「な、にが……!!」
高威力の殴打を受けたシュガーの体が吹き飛ぶ。けれども、戦闘巧者さながらの受け身で受けたダメージを最小限に留めたシュガーは、自分を吹き飛ばした敵手の姿を確認した。
玉のような巨大なフォルムに、巨大な手足が生えた怪物。とてもじゃないが命ある生き物には見えないそれが、敵対的に体の中心にある瞳のような宝石を輝かせて、シュガーの前に現れた。
すぐにそれが古代遺跡を守るゴーレムであることをシュガーは理解する。同時に――
「ま、そりゃそうだよね。野良のゴーレムが都合よく襲い掛かってきたなんてわけないよねー……」
ゴーレムの隣に佇むソラカの腕には、どこか機械的な籠手が装着されていた。先ほどまで、彼女はそんなものを身に着けてなかったはずだが――そんなことはどうでもいい。
今重要なのは、ソラカが身に着けるソレが、確実に隣にいるゴーレムを操っているという事実だ。
つまり、ソレは――
ソレは、超古代文明の技術の結晶。
ソレは、様々な国家が欲してやまないロストテクノロジー。
ソレは、世界の趨勢さえ変えてしまいかねない古代兵器。
ソレの名は。
「
想定外の事態に驚きつつも、リリオンで初めて遭遇する超古代文明の技術にシュガーは興奮を隠しきれない。そんな彼女を侮蔑するように、ソラカは右手に装着した古代遺物を操作する。
「死ねよ盗人!!」
ゴーレムが、シュガーを排除するために動き出した。
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