第14話 その言い訳は無理がある
「じゃあ今日はここまで。みんな、また次の配信で」
――おつ!
――おつした
――今日も凄腕でした~
――楽しみに待ってる
そんなチャットの数々を眺めつつ、僕は配信を切った。
「相変わらず、ネットでは人気者なのね」
午後11時。
背後の窓から肘を突いてこちらを眺めていた里帆が、そんな風に呟いていた。
「リアルでは普通でも、そうやって2次元の皮を被れば特別視してもらえるんだから面白い時代よね」
「斜に構えた時勢分析はイタいぞ」
僕は後片付けをしながら応じる。
そう、実は僕――個人Vとして活動していたりする。
高校受験が済んだあとに始めた活動だ。
昔からオタ気質だった僕はプログラムのコードとかそういうのが書けるし、ゲームエンジンなんかも触れるので、Vの素体は自分で作った。
イラストだけは描けないから、中学在学時の
配信ではFPSをよくやっている。
里帆は僕のことを人気者と言ったが、ライブに集まる人数はせいぜい200人程度。
勢いとしてはさほどでもない。
登録者数も7000人ちょいだし、まだまだ弱小である。
とりあえず銀の盾を目指しているが、いつになるのやら、って感じだ。
「少しそっちに行ってもいいかしら?」
「今から風呂のつもりなんだが」
「あぁまだだったのね……なら、お風呂上がりでもいいわ」
とのことで、里帆は何やら用事があるらしい……。
……まぁおおかた、里奈ちゃんへの対抗心で何かをやるつもりなんだろう。
夕方、勘付いていたからな。里奈ちゃんの催眠アプリ所持を。
だから僕の洗脳を強めなきゃ、って言っていたのが怖いところだ……。
ひとまず風呂に向かい、1日の疲れを癒やす。
それから部屋に戻ると――
「上がったようね?」
里帆が僕のベッドに座って待機していた。
寝間着のキャミソール&ホットパンツ姿で。
……窓とカーテンが閉まっているのは、里奈ちゃんからの妨害が入らないように、って感じだろうか。厳重だな。
「ベッドシーツ、きちんと替えてる? ちょっと臭うわよ」
意訳すると、良い匂いだから替えないでちょうだい、だろうか。
催眠アプリ未使用時のこいつは、僕に対しては基本反対のことを言っていると思えばいいはずだからな。
「さて琉斗……じゃあ早速だけど自我を失ってもらうわ」
スッ、と里帆がスマホを取り出してきた。
画面にはもちろん催眠アプリ……。
しょうがないな……なるようになるしかない。
僕は虚ろな演技を開始した。
途端、里帆の表情が妖しいモノへと変じていく。
「ふふ、今日も良い子ね。だけど――随分と里奈の手垢が付いてしまったみたいじゃない?」
そう言ってベッドから立ち上がると、里帆は僕の頬を撫でてきた。
「あの子をさっきお尻ぺんぺんして問い詰めたら、やっぱりあの子も催眠アプリを使っていたって話だものねぇ?」
里奈ちゃん……すでに処されたあとだったか……。
グッバイ里奈ちゃんフォーエバー里奈ちゃん……。
「しかもキスやハグだけにとどまらず――おっぱいを触らせたみたいじゃない?」
そう、そうなんすよ奥さん……。
ちっぱい、良かったです……。
「里奈のおっぱいを触ったなら、私のも触れるわよね?」
え。
そう言って里帆は、カップ付きキャミソールを脱いで、ぷるるん。
うお、これは……。
「さあ、触りなさいね?」
とのことで……め、命令だからね、仕方ないね。
こうして僕は演技だとバレないために、ナマ里帆ぱいをむちっと揉んで堪能したのである。
「さてと……今日はもう大丈夫よ。お疲れ様。元に戻っていいわ」
やがておっぱいを揉まれて満足したっぽい里帆は、カップ付きキャミソールを着てからそう告げてきた。
ので、僕は毎度の如く正気に戻った演技を始めざるを得ない。
「……あれ、僕また立ったまま少し寝てたか……?」
「そ、そうね……」
「……なんかお前、顔が赤すぎないか?」
僕との戯れで火照った表情を指摘し、ちょっと意地悪なとぼけ方をしてみた。
どう対応してくるだろうか。
「こ、これはあなたが寝ているあいだに自分をビンタしただけ……」
どういうことだよ……言い訳がメチャクチャ過ぎんだろ……。
「と、とにかく今日はもう帰るわ! またね!」
あ、逃げた。
里帆が窓を跨いでシュバッと立ち去っていく。
やれやれ……まぁでも、わりかし平和に収まってくれて良かったかもしれない。
一方で、ふと里奈ちゃんの部屋に目を向けてみると、
『お尻痛い😭』
そんなカンペと共に目のハイライトを消した里奈ちゃんが佇んでいた……。
おいたわしや……。
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