第64話 アフター 3

「はあ、はあ」


 夏休み半ばの朝6時半。

 僕は現状、近所の運動公園を走っているところだ。

 理由としては体力作り。

 言わずもがな、来る日も来る日も幼なじみたちとえっちをしている僕である――インドアな身体では体力が持たない。だから最近は己を鍛えているわけだ。


「ほらしっかり走れ~。ゆるゆるペースで走っても成長はないぞ~」


 そして僕は今1人で走っているわけじゃない。

 氷海が一緒だ。

 高校デビューにあたってぽちゃ陰キャだった身体を改造した氷海は、春休みに走りまくったらしい。

 そして数ヶ月後の今もそれを日課にしているとのこと。

 そんなわけで「え、朝走ることにしたん? なら一緒に走ろうよ」と誘われ、僕は承諾したのだけれど……、


「お前速過ぎ……」


 容赦ないペースで先導する氷海が悪魔過ぎてヤバい。


「琉斗が遅過ぎるし体力なさ過ぎるんだって。まだ数百メートル走っただけじゃん」


 まったく、と言いたげに足を止める氷海。

 金髪を風に揺らしながら、呆れたようにムスッとしておられる。


「絶倫なのに根本的な体力ないのなんなん?」

「なんなん、って言われても……」

「毎日えっちしてるのに体力付いてないわけ?」

「まぁ……僕は貪られる側だからな」


 言うなればマグロ。

 動くのはほとんど肉食幼なじみたち。

 だから僕自身が鍛えられる部分はないという……。

 動いたとしてもヘコヘコ腰を振るくらいだし。

 いずれ1分間に100ピストン出来る男になれたらとりあえず僕の体力作りは成功かもしれない。


「まぁとにかく……僕はゆったりならしていくから、お前は先に行っとけばいいよ」

「ううん、熱中症とか心配だから合わせるって。確かに速すぎたよね」

「……いいのかよ」

「うん。一緒に走ろうって誘ったのはあたしだし、きちんと面倒見るから」


 オタクに優しいギャルって良いよね……でもこいつ自身は元陰キャなわけだから、「オタクに優しいギャル」って言うよりは「ギャルになった優しいオタク」でしかないんだよな。優しいギャルの正体見たり枯れ尾花。


 そんなどうでもいいことを考えながら、僕は氷海とのジョギングを続けることになった。

 やがて小一時間ほど走ったところで、本日の体力作りは終わりを迎える。


「お前さ……これを春からほぼ毎日やってるのってすごいな……」

「でしょ?w」


 運動公園の芝生広場に寝転がってダウンする僕。

 氷海はまだまだ余裕がありそうだった。


「優れた身体は一朝一夕じゃ手には入らんからね、継続して自分を磨くのが大事ってこと」


 そう言って笑う氷海は、かつて僕の隣でぽちゃ陰キャをやってた頃とは大違いだ。今じゃ男子にコクられることもあるらしいのだから、人って変わるもんだよな。

 そしてそんな氷海を独占出来ているのが、僕は誇らしかったりする。


「そういえば……今のお前が昔の格好に戻ったらどんな感じになるんだろうな」

「え?」

「黒染めのおさげ眼鏡女子。今ならその格好でも通用しそうじゃないか?」

「そうかなぁ……」

「ああ。試しに僕にだけ戻った姿を見せてくれよ」

「……見たいの?」

「見たい」


 完全に興味本位だ。


「んー……じゃあこのあとウチ来る? 一応黒染めのスプレーあるし、即席で見せるのは可能だけど」

「いいのか?」

「まぁ琉斗にだけなら、ね」


 やったぜ。



   ◇



「とりまシャワー浴びてもいい?」

「ああ、それは全然」


 氷海の和風な自宅に到着したところで、一旦シャワーの時間が組み込まれた。

 両親は普通にもう仕事に出ているそうで、僕も一緒に浴びることになった。


「ちょ……なんで背後から勝手におっぱい揉んでるわけ?」

「そこにおっぱいがあるから」


 登山家がそこに山があるから登山をするように、男はそこにおっぱいがあれば揉むのだ。異論は認める。

 むにっ、もにっ。

 背後から鷲掴みにすると氷海ぱいは非常にボリューミー。

 氷海は尻も良いんだよなぁ。

 どことは言わないが僕の一部をそこにスリスリするともう気が狂うほど気持ちええんじゃ。


「こ、こら……っ」


 氷海は嫌がったように反応しつつもそれ以上は何もしてこない。

 全面的に受け入れられているようなこの感覚、最高だ。

 でも風呂ではひとまずこれ以上は我慢。

 お楽しみはあとに残しておくタイプだ。


 そんなわけでやがてお風呂を上がると、いよいよここに来た目的が果たされることになる――。


「じゃあ準備するからちょい待ってて」

 

 地味子に戻るべく、氷海が自室に閉じこもり始めた。

 僕は廊下での待機を命じられる。

 楽しみだ。

 ちょいぽちゃ地味子だった昔の氷海。

 その頃はその頃で可愛かった。

 現在の氷海が同じ格好をしたら多分もっと可愛いに違いない。


「……入っていいよ」


 そんなこんなで10分後、ふすまの向こうからOKの声が届いた。

 多少ドキドキしながら開けてみれば――


「……よっす」


 そこに佇んでいたのは湯上がりのバスタオルを巻いただけの黒髪おさげの眼鏡地味子……!

 うおおおおお懐かしい……。


「ど、どうかな……?」

「いや、やっぱお前と言えばコレだよ」


 氷海=コレ。

 僕の人生において長らく一緒に遊んできた陰キャの権化。

 けど自分磨きをしている今の氷海がこの格好をしているからか、やっぱり多少は垢抜けて見える。バスタオル一丁なのがえっちだしな。

 あ……なんだかムクムクしてきた。

 実は僕も風呂上がりに服を着てないままだったりするので(なんならタオルすら巻いてないので)、氷海は僕の変化に気付いたようだった。


「あのさぁ……」

「しょ、しょうがないだろ……ちなみにその姿で処理をお願いしても……?」

「ま、別にいーよ……昔から琉斗のことが好きだったあたしとしちゃ、垢抜ける前の姿で一度もイチャつけなかったのは未練だったからね」


 なるほどな……だったら僕も同じことが言える。

 僕も昔の氷海とシてみたかった。

 それが今こうして叶おうとしているんだから、人生ってホントに分からないもんだ。


「じゃあ……いいんだよな?」

「うん、もう何度もシてるんだから遠慮せんでいいじゃん……好きなだけぴゅっぴゅってシて?」


 よし……じゃあヤるか♠



   ◇


 

 ……体力作りがてら駅弁ファ○クしたら腰いわしました(絶命)。

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