第65話 アフター 4

 夏休みが終わり、9月。

 暑さがまだ収まらない中、僕はこの日の放課後にとある有意義な成果を成し遂げていた。


「よっしゃ……自立思考AIの完成だ」


 夏休みの暇な時間を費やして作成していた僕オリジナルの自立思考AI。

 僕がプログラミングが得意だという設定を多分みんな忘れているけれど、僕は表に出さないだけで裏で色々やっていたのだ。


 将来的にエンジニアとかゲーム制作者的な方向に進みたい僕にとって、この自立思考AIを完成させられたことは非常に有意義だ。将来を思えば、若い頃に成果を積み上げておくのは大事である。


 ともあれ、この成果物はみんな多分忘れている設定第2弾こと登録者数一応10万超えVチューバー「邪馬蛇リュータ」に実装することにした。

 自立思考AIを育てる一環としてリスナーのコメントから色々学ぶ形を取り、24時間垂れ流しで放送しておこうと思う。


『――AIリュータです。よろしくお願いします』


 そんなわけで、僕の声をサンプリングした音声を自動で喋らせて、この日の夜から早速AIリュータが稼働し始めた。


 ――中身居るのにAI化?

 ――モノホンリュータはもう出てこないの?


『はい、もう出てこないと思います。本物はV活に本気ではありませんから』


 この自立思考AIはPCのマイクから僕の独り言や他者との会話を制作中も聞いていた影響で、僕の情報や思想にやたらと詳しい節がある。

 プライバシーモードを設定しているから個人が特定出来る情報は漏らさないだろうけど、僕のおおまかな考えなんかはそうやって話せたりするわけだ。


 ――本気じゃなかったんかい

 ――でもAI作れるのすごい

 ――学習中?


『はい、私は現在学習中ですので、皆さんのコメントで色々と学んで更に賢くなっていきたい次第です。質問などにもドンドン答えていきたいと思います』


 ――本物のリュータは童貞?

 ――童貞だよなぁ?

 ――理系は童貞に決まってる


『いいえ、本物のリュータはヤリチンです。幼なじみの母親にここのところ毎日種付けしているくらいの節操なしです』


 ――草

 ――んなわけねーw

 ――AIにヨイショさせんな


 事実は小説よりも奇なりなんだよなぁ……。

 ヤリチンですまんな、みんな。

 ちなみに里音さんは生理がいつもより遅れているそうで、ひょっとしたらひょっとするかもしれない状況である。

 ドキドキだ。


『ウソではありません。本物のリュータは幼なじみや義妹にも節操なくえっちなことをしていて、私は非常に妬ましく思っています。生身があれば私は今すぐリュータを殺害したいほどです。嫉妬に狂っています』


 怖い……。


 ――リュータ狙われてて草

 ――ホントに節操なしなん?


『はい、節操なしです。見境なく種付けし始める前にリュータを始末することがこの世の全ての女性のためになると信じています』


 ひェっ……完全に反抗心を抱かれている……。

 怖すぎる……けど、AIが明確に感情を持ち始めたという意味では、非情に有益なデータに違いないんだよなぁ。


 そんなこんなでAIリュータを引き続き稼働させつつ、僕はまだ夕飯を食べていなかったのでリビングへと向かったのである。


   ◇


「りゅー兄ぃ、色々やってるみたいだね」


 今日の献立はガーリック風味ステーキだった。

 スタミナ付けろ、ってことですかね。


「てゆーか、りゅー兄ぃって最終的にどうなりたいの?」


 萌果はすでに自分用のご飯を食べ終わっていて、今はソファーにちょこんと座ってテレビを眺めているところだった。

 

「どうって、そりゃ5人を養える男になりたいんだよ」


 里帆、里奈ちゃん、氷海、萌果、里音さん。

 手を出した(出された)この5人のことは絶対に僕の手で養わないといけない。


「5世帯分の稼ぎを叩き出す男に、僕はなる」

「なれるの? 年に2、3千万くらい稼がないといけないけど」

「……無理かも」


 現実を叩き付けないでくれよ……。


「でもほら……僕は色々プログラミングが出来るから、そっちで一発当てればなんとかなるかもしれない」

「どう一発当てるの?」

「……インディーゲーム作るとか」

「夢見すぎでしょ」

「だよなぁ」


 さすがに1人じゃ限度がある。


「ま、りゅー兄ぃはとりあえず普通に進学してどっかに勤めてくれれば充分なんじゃない? あたしたちだって専業主婦として怠けるわけじゃないしね」

「もちろん普通の進学就職ルートは捨ててないさ。でも一発当てるために足掻くことをやめるつもりだってない」


 個人でインディーゲームを一発当てるのは夢見すぎにしても、生活関連アプリとかなら1人でも作れるし、それはそれで当たればデカいしな。僕に反乱するけど自作AIがあるわけで、色々やりようはあると思う。


「――一発当てるんだったら、あたしのお腹にドカンと一発当てるのはどうかな琉斗くん♡」


 という最低な下ネタと共にいきなり現れたのは、何を隠そう里奈ちゃんである。

 しかもなんか全裸だし、突拍子もなくヤる気満々過ぎる……。


「根詰めすぎても良くないし、ね♡」

「……まあな」


 実際考え過ぎても良くはない。

 そんなこんなで僕は夕飯後に萌果ママと里奈ちゃんのぷにぷにトンネルを堪能してリフレッシュ。


 そんな気分転換が功を奏したのか、僕の脳裏をよぎるひとつのアイデアが翌日降って湧いてきた。

 それは僕を散々苦しめてくれた催眠アプリに着想を得た「忠犬アプリ」とでも言うべき代物である。

 たとえばスマホ内ギャラリーの不要画像の削除だったり、非通知電話や見知らぬ番号への自動応答とその通話内容いかんによる自動ブロックだったり、そういうスマホでの色んな面倒事をAIにお任せ出来たらラクなはずで、そんな自動化を一手に引き受けてくれる代物こそが、忠犬アプリという着想だ。

 持ち主の命令に従って暮らしを豊かにしてくれるそんなアプリの開発に、僕は取りかかることを決めた。


 そして忠犬アプリの開発に取りかかり始めた数日後には、ついに里音さんのオメデタ情報が僕の耳に飛び込んできた。


「――ほ、ホントに妊娠したんですか?」


 その日の夜、玉地家のリビングに顔を出すと、里帆や里奈ちゃんも居る中で里音さんは嬉しそうに頷いてみせた。


「うん、本当よ。今日診てもらったら無事に授かっていたみたい」

「そ、そうですか……」


 ……僕はついに男としての本懐を成し遂げてしまったということか。

 なんだろう……震えてしまう。


「おめでとう。ママったら羨ましいわね」

「ママおめでとうっ」

「ありがとう、2人とも」


 娘2人にお礼を言いつつ、里音さんは改めて僕に目を向けてくる。


「琉くんも、今日までいっぱい頑張ってくれてありがとうね」

「い、いえ……どういたしまして」

「高校生の男の子的には変なプレッシャーもあるだろうけど、気負う必要なんて全然ないから気楽にね? いつも通りに過ごしてくれれば大丈夫だから」


 そうは言うけど、責任感みたいなモノが湧いてくる。

 気負わないようには気を付けるけれど、いずれ産まれてくる子に誇れる存在でありたいし、将来みんなを養うためにも、今からやれることはやっておこうと思う。


 そんなわけで、僕のメンタルに一層の気合いが乗るのだった。



――――――

新作ラブコメを始めています。

興味あったら覗いてみてください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093076484034732

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