第22話 継続
「ねえりゅー兄ぃ知ってる? 昨日の夜、配信切り忘れてえっちな音声垂れ流しにしたアホVチューバーが居るんだって」
「……へえ」
週明けの朝。
リビングで朝食のトーストを囓っていると、正面で同じモノを食べている妹の萌果がそう言ってきた。……僕はちょっと冷や汗を掻いてしまう。
「しかも
……萌果は僕が邪馬蛇であることを知らない。
バレたらバカにされそうだから素知らぬフリで行こう。
「名前が似てるのはヤダな。……にしても、バカなヤツも居たもんだよ」
「ね、めっちゃバカだよね。彼女かセフレか知らんけど、相手の女子と赤ちゃんプレイしてたんだって。もうアーカイブないらしいけど、めっちゃ見たかったなー」
……そう、BAN対策でアーカイブは削除済みだ。
消したのは里帆の名誉のためでもある。
あいつの声が結構乗っていたからな。
そういえば……この騒ぎはあいつの耳にももう入っているはずだ。
どう思ったんだろう。
里帆は今朝、日課の起床時催眠を掛けに来なかった。
そこから推察出来ることとしては――
1,恥ずかしい音声がバズったことで精神にダメージを負ったから大人しい。
2,催眠アプリで変態行為に勤しんでいることが今回のアーカイブをチェックした僕にバレたと思っているから大人しい。
そのどちらかだろうな……確かめておくか。
「――おい里帆、起きてるか?」
朝食を胃に収めたあと、僕は自室に戻って窓から隣家に呼びかけてみた。
すると――
「……何よ」
制服姿の里帆が、カーテンをチラッとめくって顔を覗かせてくれた。
健康上の問題はなさそうだが、表情がアレだな……恐る恐る、って感じだ。
この雰囲気はやっぱり、催眠バレの可能性におびえていそうだな。
ならしょうがない。一芝居打ってやろうと思う。
里帆のそういう淀んだ表情は見たくないし、里帆に催眠アプリを使われるのもだんだんクセになってきている。
だから、ここで大人しくなってもらったら困るんだ。
「――何ってお前、僕がバズったのを知らないのか? 昨日、配信切り忘れてえっちな同人音声でシコってたらそれが全世界に発信されてて一躍時の人になったんだよ」
そう告げてやった。僕の記憶が催眠アプリによってそういう風に改ざんされている、という演技である。
「気付いたら登録者数5万突破でさ、今朝見たら7万まで増えてたし、銀の盾まっしぐらだろコレ。同人音声でシコった甲斐があったってもんだよ」
「え? あ、あぁ~、同人音声ねぇ……」
すると里帆は、『あれ? ひょっとして琉斗ったらあの放送事故が私由来のモノだとは思っていないの……?』みたいな表情を浮かべ始めていた。
不安げだった表情が、次第に安堵のニヤけヅラへと転じていく。
分かりやすいなこいつ……。
「え、ええ、そうみたいね? えっちな同人音声を垂れ流すだなんて、琉斗ったら本当にどうしようもないおバカなんじゃないかしら?」
そしていつもの調子で僕にツンな態度を取り始めてきた。
やれやれ……昨晩僕の口元におっぱいを押し付けてちゅうちゅうさせてきたヤツが言っていいセリフじゃないんだよなぁそれは。
まぁでも、いつもの調子に戻ってくれてひと安心だ。
やっぱり里帆はこうでないとな。
「……ちなみに本当に気付いてないのよね?」
「ん? 気付くって何にだ?」
僕は素知らぬフリで里帆の問いかけに応じた。
「す、すごいわ……催眠アプリは記憶の帳尻合わせまで行ってくれるのね……」
※帳尻を合わせているのは僕です。
「さてと、そういうことなら……これからも安心して使っていいみたいね♡」
スッ……、と里帆がホッとした表情で催眠アプリをかざしてきた。
懲りないなぁこいつ……、と呆れつつも、窓を跨いでこちらにやってくる里帆の姿に胸が躍らないと言ったらウソになる。
そうさ……僕も結局、毒され始めているんだ。
「ふふ、昨晩はちゅうちゅうさせながら手でシてあげたから、今朝は挟んでシてあげようかしら♡」
……オナシャス。
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