第69話 アフター 8

 ひと夏超えて、9月半ば。

 忠犬アプリのリリースから半年が経ったこの時点で、忠犬アプリのDL数はなんと100万を突破している。

 海外でも広まってくれたのが正直デカかった。

 でもDLの割合は日本6割、海外4割なので、忠犬アプリのユーザー比率で言えばまだまだ日本市場の方がデカめ。でも長い目で見れば恐らく逆転すると思う。

 ちなみにDL数の勢いはまったく減らずに日々一定数をキープしているので100万が天井ってことはまったくなさそう。なんなら長期的に見て1000万、は言い過ぎにしても、500万は視野だ。


 肝心のアクティブユーザー数も結構優秀で、1日あたりのアクティブユーザー数は現状90万を超えている。

 つまり全ユーザーのうちおよそ90%が毎日稼働してくれているというとんでもない状況だ。その比率は初期から変わっていない。

 

 課金率は一桁%なんだけど、100万超えの一桁%だからバカにならない。広告収入と合わせて今年の収益は現時点ですでに日本の平均年収を大幅に超えている。

 現状の予測だと、今年は平均年収の3倍くらいの数字でフィニッシュしそうだった。

 維持費や税金もあるから丸々利益にはならないけど、それでもまあまあのお金が僕の懐に入ってくることになる。


 恐らく僕は一発当てたんだろう。

 そしてその一発は更に炸裂する余地を大きく残している。

 ヘマさえしなければ結構安泰。

 でも僕は普通に進学してどこかに勤めるはずだ。

 いや、分からない。

 もし忠犬アプリが好調に伸び続ければそっちに注力して会社勤めにはならないかも。

 でも進学は一応するために今日も普通に勉強を頑張っている。

 ――もちろん子育ても、である。


「だーだー、うー」

「はいはい、ママは今買い物に行ってるから僕と遊ぼうね」


 玉地家のリビングに設置されているベビーパーテーションの内側で、僕は今琉音りねと一緒に積み木で遊んでいる。

 ママが恋しいのかたびたび里音さんを探す仕草をするけど、僕が興味を惹くとすぐに僕と遊び直してくれるのが可愛い。


 ちなみに琉音の育児は、育児休暇中の里音さんが率先して行ってくれている。

 でも今みたいに里音さんが放課後の時間帯に買い物に出掛けたりするときは僕が面倒を見る感じ。

 リビングには大学受験に備えて勉強中の里帆と高校受験に備えて勉強中の里奈ちゃんというWお姉ちゃんズも居るから、琉音は結構安全な環境下で過ごせているわけだ。


「琉斗はもう少しパパとしてしっかりしないと琉音から親認定されないんじゃない? この場に居ないママを探されるとか」

「しっかりしてるつもりだけどなぁ。ママを恋しく思うのは生物学上仕方ないことだと思うし」


 夕飯やお風呂もなるべく一緒に過ごすようにしている。

 学校での時間以外は結構パパとして頑張っているつもりだ。


「あるいは、琉斗くんがハーレム王なことに気付いて女子としてもう嫌悪し始めてるとか?」

「……悲しいけど、もしそれならそれで優秀な嗅覚な持ち主だから良いことだよ」


 琉音には僕みたいな絶倫猿とくっついて欲しくないし。


「そういえば琉斗、今日は氷海ちゃんが部屋に来てるんじゃなかった?」

「あ、うん。今日は氷海が独占権の日だからな」

「じゃああたしたちが面倒見てるから琉斗くんは行ってあげなよ」

「悪いな、頼んだ」


 パパであるのと同時に、僕は5人の恋人を持つ男でもある。

 恋人1人ひとりとのスキンシップも大事にしないといけない。

 琉音の面倒は一旦お姉ちゃんズに任せて氷海のもとに向かう。

 こういうところがパパらしくないのかもしれないね(白目)。


「――パパ頑張ってる?」


 そんなこんなで僕の部屋に向かうと、氷海がからかうようにそう言ってきた。

 すでに全裸でもある白ギャルを見て、僕は嘆かわしい気分になった。


「お前な……脱がす楽しみを奪うなよ」

「うわ、変態パパだ」

「変態パパで結構だよ。お前のこともいずれママにしようとしてる変態なのは否定出来ないし」

「ふーん、あたしのこともママにしたいの?」

「したいさ」

「じゃあっ、今日は予行演習としていっぱい出してよ♡」

「ああ、出してやるさ」


 それから白ギャルの中を真っ白に染め上げて、事後のお風呂タイムを楽しむ。


「そういえば氷海ってどういう進学先にするかは決めてるのか?」


 狭いバスタブに2人で浸かりながら尋ねる。

 氷海はうーんと唸りながら、


「高校生活はもう1年あるし、まだ考え中かな」

「そっか」

「けど、夢はもう見つけてる」

「へえ、どんな?」

「イラストレーター」


 元陰キャの今なおオタク。

 そんな氷海らしい夢だなと思った。

 そういえばこいつ、昔から絵が無駄に巧かったんだ。


「実はSNSにイラスト上げるのを中学時代からずっとやってんだよね。そしたら『ラノベのイラスト担当しません?』みたいな話が実は今来てて」

「おぉ、すごいじゃん」

「へへ、だからこれを機にガチでそっち方向目指すのもアリだなって思ったんだ。もちろん進学はするけどね。美大とかがいいのかも?」

「いいんじゃないか? 応援するよ」

 

 なんだかんだ将来への道筋が見えていて頼もしい限りだ。

 そしてそれは別に氷海だけじゃなかったりする。


 里帆はいつの間にかドM男子をターゲットにした罵倒オナサポ音声作品を自作して結構な収益を上げており、進学はすれどそっち方面を極めようとしていたり。


 里奈ちゃんは僕の栄養をサポートしたいという動機で栄養士を夢見ていたり。


 萌果は母性ゆえか保育士になりたいそうで。


 みんながみんな、きちんと将来を見据え始めている。

 だから僕は良い刺激を貰えていて、もっと頑張らなきゃって気分になれる。


 催眠アプリでふざけていたのに、気付けば大人になろうとしている僕ら。

 当然だけど、人生って大人として過ごす時間の方が圧倒的に長い。

 

 だからその大人の時間を有意義に過ごすために、今は頑張るべきときなんだ。

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