第68話 アフター 7
3月半ば。
里帆たちからのフィードバックを受けて色々な修正を重ねた結果、アプリ審査も通って、いよいよ忠犬アプリがリリースされた。
AIリュータのチャンネルで宣伝したりして、とりあえずやれることはやった。
あとは本当にもう、天命に任せるしかない。
そんな気分で忠犬アプリのDL数や評価を観察しながら最初の1週間が過ぎた。
結論から言えば、忠犬アプリはかなり幸先の良いスタートを切ってくれた。
たった1週間で「初週1000DL」の目標を遥かに超える約1万DL。
評価は4点台半ばをキープ。
それが2週目も続いた。
スマホを自動化させるアプリは他にも色々あるけど、簡素でいいとはいえ自分でマクロを設定したりと小難しいモノが多い中、忠犬アプリは音声指示に従ってAIが自動でマクロを組んで制御してくれるのがウリであって、その煩雑性の無さが評価を高めてくれていた。
口コミが口コミを呼ぶ形で3週目からは勢いが落ち着くどころか更に伸びて、累計5万DLを達成。
4週目に入っても勢いは増すばかりで、コレはなんだかとんでもないことになりそうな予感がしてきた。
「――琉くん、忠犬アプリが結構順調なんだってね?」
4月に入って新学期となり、里帆が3年生、僕、氷海、萌果が2年生、里奈ちゃんが中3に進級したそんなある日の夜、僕は里音さんの部屋に呼ばれていた。
妊娠7ヶ月目に突入した里音さんは、もうすっかりお腹が目立っていて衣服を着用していても妊婦さんと分かる状態だ。
お腹の子は時折胎動する。
ベッドに腰掛けている里音さんのお腹に耳を当てるような状態で膝立ちし、僕は子供の様子を確認している。
「順調というか、想定外の伸び方といいますか。今週中に多分10万DLに届くはずなんで、我ながらちょっと怖いくらいで」
「ふふ、もしかして億万長者になれたりする?」
「それはさすがにキツい気がしますけど、勢いが続けば千万長者くらいなら」
「じゃあそうなれるように祈っておかないとね。この子もパパの成功を願ってるでしょうし♡」
そう言って自分のお腹を撫で回す里音さん。
するとそれに反応するかのように、お腹の子が胎動した。
この子のためにも、出来れば忠犬アプリがドデカい一発になって欲しいもんだ。
「さてと、じゃあ今夜は体調が良いからえっちしよっか♡」
「はい」
里音さんとも当然えっちをしている。
もちろん体調次第であって、他の4人よりは低頻度。
だからこそ溜まっているモノもあるようで、ヤれる日は結構情熱的だ。
清潔に保つためにゴムは絶対着ける。
情熱的ではあれど、お互いに優しめの動きを意識する。
そんなこんなで今宵も僕らは営みを堪能したのである。
◇
やがて5月に入った頃、忠犬アプリのDL数は20万を突破していた。
恐らく個人制作のアプリがこの伸びは驚異的。
日本での伸びが良いけど海外にも認知され始めている。
マーケットとしては当然海外の方がデカい。
英語対応しているから向こうでもこのまま伸びてくれれば嬉しい限りだ。
そんな感じで順調に月日が流れて迎えた7月下旬。
いよいよそのときがやってきた――。
「――ほぎゃあ、ほぎゃあ!」
病院の分娩室前で里帆、里奈ちゃん、氷海、萌果と共に僕は赤ちゃんの泣き声を耳にした。
ハッとして顔を上げた僕らのもとに、分娩室の扉を開けた助産師さんが近付いてくる。
「――産まれましたよっ、元気で大きな女の子です!」
そんな言葉と共にまず僕だけ中に誘導されると、疲弊しつつも笑顔の里音さんの手中にわちゃわちゃと動きながら元気に泣く赤ちゃんが抱かれていた。
あぁ……この子が僕の……。
「ふふ。ほら琉くん、あなたの子だよ?」
そう言って里音さんが微笑む一方で、赤ちゃんがちょっとずつ穏やかな様子になりながら僕の方に手を伸ばしてきた。
だからその手に向かって僕も手を差し出してみたら、僕の指をそっとにぎにぎしてくれて、僕はなんだか泣きそうになった。
「その人があなたのパパよ~?」
赤ちゃんに向かって優しく語りかける里音さんだった。
あぁ、すごいな……僕の血を引いた子がきちんとこの世に生まれてきてくれた。
なんというか、感慨深い。
そんなひと言で言い表せる感情でもないけれど、とにかく嬉しかった。
そんな我が子との対面を果たした1週間後、彼女にいよいよ名前を授けた。
授けた名前は――
そう、母の里音さんと同じ響きだ。
僕と里音さんの名前を合わせたらそうなったんだけど、別に問題はないと思ってその名前で申請した。
とにもかくにも、そんな琉音に恥じない父として、僕はより一層頑張っていかないといけないなと思った。
――――――
お知らせです。
今作の完全終了まで残り数話となります。
2話か3話、もう少し伸びる可能性もありますが、そんなモノだと思ってください。
終わりが見えてきた影響で更新ペースは少し早まります。
あとちょっとだけ、よろしくお願いします。
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