第70話 アフター 9

 翌年4月。

 リリースから大体1年が過ぎた現時点での忠犬アプリのDL数は、ありがたいことに200万を突破している。

 収益は現時点で昨年超えの状態。

 本当にもう上手く行き過ぎていて怖いくらいだ。

 億万長者が本気で狙えそうになってきた。


 そんな中で僕らは新学期を迎えているわけで、僕はいよいよ高3に差し掛かり(萌果と氷海も)、一方で里帆は国内最高学府に現役合格。里奈ちゃんは僕らの高校の新1年生となった。


 そんな4月の半ば――迎えたその週末は、里帆が僕の独占権を有していた。デートに誘われて遊園地を訪れている。

 大学生になった里帆はすっかり大人びていて、美人っぷりに磨きが掛かっている。


「なあ、僕にかまけてていいのかよ」


 現在はアトラクションの列に並んでいるところである。

 そんな中、僕はそう問いかけていた。


「大学生になりたてなんだし、新しい人脈の形成に勤しむのが理想だと思うんだよ。僕と遊ぶんじゃなくてさ」

「いいのよ。別に友人関係なんてどうでもいいから」


 だそうで、里帆としては極論、僕さえ居ればいいのかもしれない。


「――それより」

「なんだよ……」

「今日はしこたま遊んだあと、子作りしてもらうわよ?」

「……子作り?」

「ええ、大学生になったことだし、子供扱いされる時期はいよいよ過ぎ去ったわけでね。だからそろそろ琉斗の赤ちゃんが欲しくなったわ」

「ま、待て待て……大学生活があるのに子供が欲しいのか?」

「いいじゃない。多少留年してもT大ブランドに傷は付かないわ。それに私のオナサポ音声はバカみたいに売れているし、琉斗の忠犬アプリの収益と合わせたらお金はたんまりあるでしょう? 進学こそしたけれど、それは自分への箔付けみたいなモノであって、ここから先は他人と違う流れで人生を謳歌してもいいと思っているのよ。琉斗だってそれはアリだと思わない?」

「まあ……」


 確かにアリではある。

 事実として僕らは同世代よりもお金を持っている。

 僕も来年進学するにはするけど、その4年後にどこかに就職する腹積もりは少し弱まっていて、アプリ事業に本腰を入れつつ悠々自適な生活を送ろうかと考えている。

 だから、他人とは違う流れで生きるのには賛成っちゃ賛成だ。

 それこそ僕らは日本にあるまじき一夫多妻を目指しているわけで、常人と同じ人生の歩き方をする必要はないんだよな。


「一応確認だが……僕の子供を孕みたいって思いにウソはないんだよな?」

「愚問過ぎるわ」


 呆れたような目付きを向けられた。


「今更つまらないウソをつくような女に見える?」

「……見えない」

「なら、今日から私を孕ませるために尽力すること。いいわね?」

「分かったよ」

「なら、予定を変えましょう」

「え」


 里帆は列に並ぶのをやめて、僕の手を引いて遊園地のゲートを目指し始めてしまった。


「そうと決まれば、こんなところで遊んでいる場合じゃないわ。今すぐ帰って子作りをするわよ」

「……い、いきなり過ぎるだろ」

「いいじゃない別に。琉斗だってアトラクションで遊ぶよりも家でまったり私にぴゅっぴゅする方が満たされるでしょう?」

「……まあな」


 それは否定出来ない。


「ふふ、今日に合わせて排卵誘発剤も使っているし、確実に孕ませてもらうんだから♡」


 ……万全過ぎる。

 そんなに孕みたいのかよ、って話だが、もちろんありがたい。

 かつては催眠アプリなんてモノを使わないと好意を見せてくれなかったのに、今じゃこうしてダイレクトな好意を示してくれるんだから嬉しいにもほどがある。


「よし……だったらお前の子供部屋を真っ白に染め上げてやる」

「言ったわね? なら最低でも10回は出してもらおうじゃない♡」


 ……持ってくれよ、僕の身体(白目)。



   ◇side:ドア越しの里奈&里音&琉音◇



「(――里帆っ、出すぞ……!!)」

「(出してぇ……っ♡)」


 びゅるるるるっっ!! という謎の効果音が聞こえてきそうなほどに、玉地家の里帆ルームでは1時間ほど前から白熱した声が木霊し始めていた。

 そんな部屋の前には里奈と、琉音を抱いている里音が佇んでおり、ドア越しに聞き耳を立てている。

 

「琉斗くんとおねえがガチ子作りしてるっぽいよママ」

「いいじゃない。むしろやっとか、って感じだしね」


 本来なら里帆が最初に孕むべきだったが、里音に女性としてのタイムリミットが近付いているがゆえに先に孕ませてもらったわけだ。

 琉斗と里帆がこうして子作りに励むのは、あるべき形そのものと言える。


「(さあ琉斗♡ 休んでる場合じゃないわ♡ もっと出しなさい♡)」

「(あ、ああぁっ……)」


 苦悶するような琉斗の声を聞くに、問答無用で搾り取られているようだ。里帆が上に乗って杭を打つような動きをしているのが目に浮かんでくる。

 

「だー、うー?」

「ふふ。パパは今里帆お姉ちゃんと大事なことをしているの。邪魔せずにいようね」


 何も分かっていない琉音にそう伝えながら、里音は小さく微笑むのだった。



   ◇side:琉斗◇



 翌月、里帆はものの見事に妊娠へと至ってくれた。


「おねえが羨ましいなぁ。あたしも早く琉斗くんの赤ちゃん孕みたい♡」


 そんなある日の昼休み、僕は高校の後輩となった里奈ちゃんと一緒に学食でランチを食べていた。

 あの里帆の妹ということで、里奈ちゃんは学校の偶像として注目を浴びている部分がある。だからそんな里奈ちゃんに慕われている僕は男子から良くも悪くも妬まれていたりする。


「里奈ちゃん……あんまりベタベタしないようにな?」

「いいじゃん別に♡ それよりあたしのことはいつ孕ませてくれるの?」

「……それは少なくとも里奈ちゃんの高校卒業後だよ。理想は社会人になってから」

「えー、遠いよー」

「ならせめて大学生までは我慢するように」

「じゃあ高校卒業したらすぐに孕ませてもらうから♡」


 上機嫌にそう語る里奈ちゃん。

 里奈ちゃんだけじゃなくて氷海や萌果も似た思いを抱いているのかもしれない。

 もしそうなら、平等に叶えてやるしかあるまいな。

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