第39話 青天の霹靂

 数日が経過し、週末を迎えている。

 週後半に続いたテストラッシュが無事に終了し、暦が7月に切り替わったこの日からひとまず学校のアレコレは通常運転に戻っている。僕には無関係だが、部活動が再開したりするわけだ。


「――琉斗、英気をありがとう♡」


 そんな朝に僕は美味しくいただかれていた……女子テニス部の練習に向かう前の里帆から、初めての傷がようやく癒えたということで。


 タマゴ肌と化した里帆が、練習着のポロシャツとハーフパンツを着直している。無意識に動くことを許されている僕も、虚ろな演技をしながら部屋着を着直す。朝から2回は多少疲れた……。


「琉斗は動きが優しいけど、私としてはもっと子供部屋を強くノックしてもらってもいいのよ。無意識下で覚えておくようにね?」


 ……子供部屋を強くノック。

 日本語ってえっちですね(しみじみ)。


「さて……じゃあ目覚めていいわよ」


 と、催眠の解除を命じられたので、僕は正気に戻った演技を開始する。


「あれ……お前なんで僕の部屋に?」

「な、なんだっていいじゃない……それじゃあね」


 そんな雑な態度で里帆は窓から自分の部屋に戻り、部活へと出かけてしまった。

 一方で、里奈ちゃんが斜向かいの部屋からハイライトオフの眼差しで僕を見つめている。こりゃあ里奈ちゃんにも搾られるなと思っていたら、案の定すぐにやってきてフロンティアを開拓する時間が午前中いっぱい続いた。

 ちなみに里奈ちゃんのの初めてもここ数日のあいだに奪取済みだったりする。でも里奈ちゃんは後ろの方が良いらしく、なんとも業が深いJCだなと思わざるを得ない。


 午後は午後で氷海に呼び出されたので、夜を迎えた頃の僕はもはやげっそりしていた……。


「りゅー兄ぃ……大丈夫? なんか頬こけてるけど」

「だ、大丈夫……」


 一緒に夕飯中の萌果に心配されてしまうが、体調自体は何も問題ない。単に疲れているだけだ。さっさと演技をやめれば楽になれるけど、演技をやめた場合どうなるのか分からないから今更やめられない。

 僕はサンタ役の父親みたいなもんだ。サンタなんてホントは居ないけど、里帆や里奈ちゃんという子供に夢を与えるためにサンタ役を続けている感じ。みすみす正体を明かして夢を壊すわけにはいかないわけだ。

 ……願わくばこれ以上夢見る子供が増えないことを祈りたい。

 

「あ、そういえばりゅー兄ぃ聞いてる?」

「……聞いてるって何をだ」

「なんかね、あたしたちってホントの兄妹じゃないんだって」

「は?」


 急にとんでもないことを言い出されて僕は目が点になった。


「何言ってるんだお前……」

「さっきパパからそういう連絡があったの。ぼちぼち受け入れてくれそうな年頃だから一応言っとくって」

「……冗談だろ?」

「そう思う?」


 栗毛ショートヘアのミニポニテを揺らしながら、萌果の幼く見える瞳がジッと僕を捉えてくる。


「あたしはそう言われた瞬間、割と納得しちゃったけどね」


 もはやそういう前提で話を進めてくる萌果……。

 ということは、マジなのか……。


「だってあたしとりゅー兄ぃ、全然似てないもんね。二卵性の双子ってことで一緒に育ってきたけど、そういう誤魔化し方をされてた、ってことなら別に話としておかしくないしさ」


 確かに……僕と萌果はまったく似ていない。二卵性の双子がウソだというなら、それはそれで納得出来てしまうのは事実だ。


「曰く、あたしがさ、事故で亡くなった知人夫婦の娘なんだって。だから引き取ってりゅー兄ぃと一緒に育て始めたみたい」

「待てよ……そういうことなら僕に連絡がないのはなんでだ?」

「そりゃあたしが孤児側だからね。琉斗にはお前が伝えていいと思うなら伝えとけ、って言われたから、じゃあ隠しておくのも気持ち悪いから伝えてるわけ」


 ……そういうことか。

 いや、そうか……マジか……ショックってほどじゃないけど、なんだろう……萌果が実は他人だっていうなら、僕は育乳のときにムクムクしかねないぞ。妹だから、という固定観念のおかげで邪念なくおっぱいを揉めていたのに……。


「言っとくけど、変な感情持たないでね? あくまで今までと変わらず家族なんだし」

「……わ、分かってる」

「けど……」


 スッ、と萌果が急にスマホをかざしてきた。

 その画面には――


「あたしは自分でそう言っといてなんだけど、難しいかも」


 ――催眠アプリ!?


「里帆ちゃんや里奈ちゃんがコレでなんかしてるのに気付いてないとでも思ってる? コソコソしてたら色々気付くもんだよ?」


 ……マジか。


「で、りゅー兄ぃはこうすれば催眠状態になっちゃうんだよね? って言っても、コレを使われた記憶を持たないりゅー兄ぃはピンと来ないんだろうけど」


 そんなことを言って……萌果が食卓を回り込んで僕に迫ってきた。

 虚ろな演技を始めつつ、僕は精神的に身構える。

 どうする気だ……禁断の関係になろうっていうのか?


「里帆ちゃんたちとはなんかもうすごいえっちなことまでしてるっぽいけど……あたしは戸籍上の家族だから、そこまではさすがに、って思ってる……」


 ……そうだな、それがいいよ。


「でも、あたしは手の掛かるりゅー兄ぃが好きなのは事実……あたしが居ないとろくに生活出来なさそうだからもっともっと依存させてあげたい……」


 ……なんで僕の周りの女子は揃いも揃って歪んでるんだよ……。


「だから、これからも家事炊事は頑張るし、家族としてえっちなことはしないようにするけど……」


 ……けど?


「キスくらいは良いよね……?」


 そう言ってちゅっと唇を重ね合わせてきた萌果……。

 ホントはキスも良くないだろうけど、まぁ……妹のささやかな願いくらいは見逃してやろうと思った。

 だってそれがお兄ちゃんってヤツだろうし、誰にでも平等で在りたい僕の信条ともマッチするからな。




――――――――

お知らせです。

更新速度についてなのですが、勝手ながら次話から2日に1回ペースに切り替えさせていただこうと考えています。小休止を挟むこと、お許しください🙏

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