第52話 丼の準備
◇side:里帆◇
「あら里奈……何をしているのよ?」
「……あ、おねえ」
日曜の昼下がり。
部活を終えて帰宅中の里帆は、その途中にあるコンビニに立ち寄ったところで、里奈がイートインで宿題をこなしている姿を見かけた。
「なんでわざわざイートインで宿題を?」
「えっとね……実は……」
里奈が直後に告げてきた言葉は、里帆の平静を奪うには充分過ぎるモノだった。
「――えっ、催眠アプリの存在を知ったママが今琉斗を襲ってる!?」
「うん……だからちょっと外に行ってなさい、って言われちゃって……」
「な、なんでそんなことに……」
「昨日……ママに琉斗くんとえっちしてるのがバレちゃって……最初は誤魔化そうとしたんだけど、きちんと教えないならお小遣い減らすって言われて……催眠アプリの存在も一緒に教えちゃった……」
「……なんてことなの……」
琉斗との関係が母にバレたこと自体はしょうがないとして、催眠アプリの存在を知られてしまったのはあまり良いとは言えない。
母が琉斗に対して良からぬ感情を持っているのはなんとなく分かっていた。
催眠アプリの存在を知ったことで、その母は現在お楽しみ中……。
里帆としては、その状況を看過することは出来ない。
「……里奈、とりあえず帰るわよ」
「ママの邪魔……するの?」
「……邪魔はしないでおくわ。仕事と子育てに明け暮れてきたママにもご褒美があって良いと思うからね……けど、ママの熟練のテクニックが琉斗の無意識を悦ばせてしまったら、琉斗が素の状態でもママの虜になってしまうかもしれないでしょう? それは避けなきゃダメ。だから今後私たちが取るべき作戦を練るわよ。このままママの好きにはさせない」
そんなこんなで、里帆たちはひとまず帰宅した。
玄関には琉斗のサンダルがあった。
2階の自室に向かう途中、母の部屋を通りかかったのでそっとドアに耳を押し当ててみると――
「(お゛っ♡ りゅ、琉くんの凄いわ……っ♡ あの人のじゃ届かなかったところまでトントンされちゃってて……お゛お゛っ♡ あの人に申し訳ないのに、んんぅっ、感じちゃう……っ♡)」
母の乱れに乱れた声が聞こえてくる。
恐らく午前中からヤりまくっているのだろう。
十数年溜まった欲求を晴らさんとばかりに。
「……琉斗くん大丈夫かな?」
とりあえず自室に入り込んだ一方で、一緒にやってきた里奈が心配そうに呟いている。
「……まぁ恐らく限界まで搾り取られるでしょうけど、別に死にはしないはずよ。問題があるとすれば、さっきも言ったけど琉斗がママのテクニックの虜になることよ。せっかく催眠アプリの効果が素の状態でも出始めているのに、ママに上書きされたらたまったもんじゃないわ。上書きを防がないといけない」
「……でも防ぐってどうやって?」
「もちろんあとで琉斗にえっちなことをするのよ。上書きを防ぐには、私たちの良さを刷り込ませるしかないわ」
「けど……今刷り込まれてるママのテクニックにあたしたちで勝てるのかな?」
「ママのテクニックは脅威的だけど、私たちには若さがあるし、数もあるでしょ?」
「――もしかして」
「ええ……――姉妹で責めるわよ」
本当はその作戦、あまり気乗りはしない。
琉斗とは単独で向き合いたいのが里帆の本音である。
しかし熟達した母を上回るには、里奈と2人、若い力で琉斗の無意識を蕩けさせるしかないと思っての決断だ。
「……いいわね? 里奈」
「うん……ママに負けたくないもんね」
普段はいがみ合う姉妹の共演がこうして決定した。
「でも、いつ決行するの?」
「そうね……今夜、だと琉斗が疲れ切っていそうだから、その辺りを考慮して明日の放課後にしましょう。私は部活を休んで早く帰ってくるわ」
「わかった。……にしても、ママも琉斗くんのこと好きだったんだね。おねえは気付いてた?」
「なんとなくね。でもママのそんな気持ちはしょうがないことよ。仕事と子育てばかりの生活の中で、ママにとって身近な異性は琉斗だけだったんだもの。琉斗はたびたびママの手伝いをしていたし、ママにしてみれば好ましく映っていたんでしょうね」
もちろん琉斗は母をオトそうだなんて思ってはいなかっただろう。
しかし母はそんな琉斗に惚れてしまっていたのかもしれない。
「とにかく、今日はママの好きにさせるわ……常日頃の恩返しとしてね」
そんなこんなで、隣室からたびたび激しい嬌声が聞こえてくる時間が夕方まで続いた。
情事を終わらせた母がお風呂を済ませ、やがて夕飯の時間がやってくる。
里帆と里奈がリビングに向かうと、食卓にはいつにも増して豪勢な食事が並んでいた。
「ふふ、今日は気分が良いからご馳走にしちゃった♡」
そう呟く母はツルツルのテカテカで、美人っぷりに磨きが掛かっていた。琉斗との情事でよほど英気が養われたらしい。
「里奈だけじゃなくて里帆も、催眠アプリで以前から琉くんとイイコトをしていたのよね?」
食事を食べ始めた中でそう問われる。
里帆が「……まあね」と頷くと、母は、
「別に責めたりはしないけど、きちんと避妊はしなきゃダメよ?」
「ママはしたの?」
「私は……ナイショ♡」
「…………」
この分だと素敵なノースキンプレイを楽しんだらしい。
少し呆れてしまうが、元気な母が見られて嬉しくもある。
里帆はそう思いながら美味しい夕飯をモリモリ食べて、明日の姉妹丼に向けて英気を養うことにしたのである。
――――
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます