第6話 嫉妬ですか
「――おーい琉斗くんっ、おっはー!」
週末の朝。
自室でゲームをプレイしていたら、窓越しに挨拶が聞こえてきた。
里帆の部屋から聞こえた声だが、その声の主は里帆じゃなくて――
「……勝手に里帆の部屋に入って大丈夫か?」
「平気! 今おねえコンビニ行ってるからw」
黒髪ツインテールを揺らす可愛い美少女が、弾ける笑顔を僕に向けていた。
そう、彼女は里帆ではなく――
僕との仲はまぁ、極めて良好と言える。
「ねえねえっ、今すぐそっちに行ってもいい?」
「来るなって言ってもどうせ来るんだろ?」
「さっすが琉斗くん! あたしのこと分かってるぅー!」
持ち前の明るさを振りまきつつ、里奈ちゃんが軽々とした動きで窓横のベッドにしゅたっと降り立ってきた。キャミソールにハーフパンツを合わせたラフな格好だ。
「今日は友達と遊ぶ予定、ないのか?」
「ないよー。今日はのんびりしてるつもり♪」
そう言って里奈ちゃんは、床であぐらを掻く僕の上に腰を下ろしてきた。
昔からやけに懐かれているのだ。
もちろん、こうされるのは嫌いじゃない。
「琉斗くんこそ誰かと遊ぶ予定、ないの?」
「まぁ、僕はソロが好きだからな」
友達が居ないわけじゃない。
けど、学校での付き合いだけで充分だと思っている。
……別に強がりじゃないぞ。
「ふぅん、そっかっ。じゃあ琉斗くんのそんなソロライフにあたしが殴り込みを掛けちゃうもんね♡」
ちゅ、と頬にキスをされる。……表向き僕に手厳しい里帆や、ずっとツンツンしている妹の萌果と違って、里奈ちゃんはフレンドリーの権化だ。
だから僕としてもよく可愛がっているという間柄。
ゲームの合間に頭をわしゃわしゃーと撫でてやると、「くすぐったいよ~♡」と人懐っこく顔を綻ばせてくれるんだから、素直に可愛いとしか言えない。
でもこういう戯れを里帆に見られると……面倒。だってあいつ、僕と里奈ちゃんの戯れを見るとすぐに機嫌を悪くするのだ。
なんで怒ってるんだこいつ、ってこれまでは不思議に思っていたが、今にして思えば――僕のことが好きだから嫉妬していた、ってことなんだろうな。
「あ、そうだ――ねえねえ琉斗くん、あたし最近おっぱいおっきくなったんだよ?」
「え」
「BからCに進化したのっ」
そんな自慢をしつつ、里奈ちゃんがキャミソール越しの胸をむんと張っていた。
谷間はないが、シミひとつない綺麗な膨らみ。
そうか……BからCへ、里奈ちゃんもまたひとつ大人になったんだな。
「良かったな」
「うんっ! まだおねえのデカパイには勝てないけどっ、いつか追い抜いて琉斗くんを籠絡してあげるから待っててっ」
「……相手は僕でいいのか?」
「当たり前だよっ。小っちゃい頃から遊んでくれてるお兄ちゃんなんだしっ」
……とのことで。
美少女姉妹に言い寄られる僕は贅沢野郎、なのかもしれない。
「……ところで里奈ちゃん」
「うん、なに?」
「……背後の窓からすごい威圧感を感じるんだけど、なんか居ない?」
ゴゴゴゴ……、っていう禍々しい気配が背中にビンビンに来てるんですが。
「あー……えっとねぇ、コンビニ帰りのおねえが真顔で突っ立ってる……」
「……里奈ちゃん、どうする?」
「――萌果ちんの部屋に逃げるっ!」
言うや否や、ぴゅーん、という効果音が付きそうな素早さで、里奈ちゃんが廊下の方へと逃げていった。
そして――
「りゅ・う・と……相変わらず里奈と楽しそうなことをしているのねぇ?」
ゴゴゴゴ……。
おぞましい気配と共に里帆が窓枠を乗り越えて僕の部屋に侵入してきた。
「まったく……里奈も里奈だけれど、いたいけな女子中学生をたらし込むダメ男はもっとダメだわ。だから――おしおきが必要だと思うの」
多分その言葉は表向きの大義名分であって、真意は別にあるんだろう。
だから僕の正面に回り込んできた里帆の手には、スマホ。
そこに映し出されているのは、催眠アプリ……。
「――さあ琉斗、今すぐ放心状態になりなさい」
どうやらここからの時間は……おしおきという名のご褒美が待ち受けていそうだった。
――――――
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます