第5話 妹

 里帆が僕を好いている理由はなんだろう?


 この日の夜、僕は夕飯後のリビングで課題を進めながらそう考えていた。


 言っちゃなんだが、僕は凡人である。

 勉強が秀でているわけじゃないし、スポーツ万能でもない。

 どこにでも居るような、普通の男子高校生だ。

 里帆がそんな僕に対して好意を抱いているのはなぜだろう。


 そういえば……幼い頃に里帆が海で溺れているのを助けたことがある。僕が人工呼吸をしたんだ。目覚めた里帆に対して妹の萌果がその事実を勝手に教えて、里帆が照れ臭そうにしていたのを覚えている。


 ひょっとしたらそのときのことがきっかけで……?

 あるいは他にも、何かあったっけ?


「――りゅー兄ぃ、お風呂空いたよ」


 そんな折、噂をすればなんとやら、と言うほど考えていたわけじゃないけど、萌果が風呂から上がってきて僕の前に現れた。


 風呂上がりのこいつは、基本的に下着姿だ。

 栗毛のショートヘアをゴシゴシしながら、恥じらいすらない。

 親が居れば服を着るんだろうけど、どっちも単身赴任中なわけで。

 そういう目を気にする必要がないのだ。

 なんか知らんけど僕には見られていいらしい。

 兄妹だからだろうか。


「お前、もっと食った方がいいんじゃないか?」


 萌果の全身を眺めながら僕はお節介なひと言を告げる。でもしょうがないじゃないか。JKにしては小柄でほっそりしているんだ。胸は真っ平らで、まさにまな板と呼ぶにふさわしいちっぱいだ。毎日見ているが、成長は見られない。


「ふん、女の価値はおっぱいじゃ決まらないもん」

「でもないよりはある方が絶対にいいぞ」

「なら、今日も刺激ちょうだいよっ」


 ぼふんっ、と萌果がソファーでふんぞり返った。

 最近、萌果の胸を成長させてやるのが日課になりつつある。

 なんで僕が、と思いつつも、萌果の機嫌を損ねるのもアレなので、いつものように揉んでやることにした。


「んっ……♡」


 早速萌果の正面に移動して、そのちっぱいを下着の上から揉む。

 肋骨の感触が悲しい。わずかな肉の部分だけを上手いこと揉みほぐしていく。

 ちっぱいな妹を持つ兄としての、これはきっと義務だ。

 めんどくさいけど、世のお兄ちゃんは多分みんなこうしてるはずだ。

 僕と萌果の関係だけがおかしいってことではないと思う。


「んっ……りゅー兄ぃは非モテで今後一生誰のおっぱいも揉めないんだから、あたしに感謝しとくべきだね」


 残念ながら、お前のちっぱいなんかよりも極上の里帆ぱいを堪能済みなんだよなぁ。


「お前こそ、彼氏が居なくてこんなことを僕に頼むくらいの非モテなんだから偉そうにすんなよ」

「非モテじゃないもん! 男子に囲まれてるもん!」

「マスコットとしてイジられてるだけだろ?」

「ぐぬ……」

「女として見られてないんだよ」


 チビでちっぱい。

 高校生の中に貧素な中坊が混じってるようなもんである。


「ほら、もういいだろ」


 ちっぱいから手を離す。

 すると萌果は、


「も、もうちょっとやってっ」


 とダダをこねてきた。

 やれやれだ。

 仕方が無いので、僕は再びちっぱいに指を這わせる。

 意外と触り心地がいいから嫌いじゃない。

 まぁどこまで行っても、あくまで妹のちっぱいでしかないけどな。

 つまり欲情の対象じゃないのだ。

 琉斗jr.はぴくりとも反応しない。

 

 だから思った。

 僕をスタンディングオベーションさせる里帆は、特別なんだなって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る