第24話 JCはおぞましい
「てか、あんなに出るモンなんだね……びっくりしちゃったんだけど……」
「お、おう……」
氷海と一緒にネカフェから出ると、日が沈みかけていた。
だから西日はもう差していないのに、それでも氷海の顔は赤々としている。
「言っとくけど……今ネカフェでシてあげたこと、あたしにとっては初めてのことだったんだからね? 遊んでるとか勘違いしないでよ?」
「分かってるよ……貞子だったお前にそんな経験あるわけないしな」
「ちなみに……里帆さんと比べてどっちが良かった?」
「そ、それは比べられないってことで……」
どっちも良かったとしか言えない。
「そっか……負けてないならいいや」
氷海はどこか満足そうだった。
「じゃ、あたしはもう帰るから」
「ああ、気を付けてな。……それと」
「分かってるって。琉斗が演技してること、2人には言わんし。けど定期的にえっちなことしてくんないとダメだからね?」
「え」
「でゅへへ、そんじゃね!」
さらりととんでもない爆弾を言い残して、氷海が立ち去っていった。
……今後も定期的にえっちなことしないとバラすぞ、ってこと?
悪魔かお前は……。
まぁ悪魔は悪魔でもサキュバスって感じだろうか。
まあいいか。
僕への好意ゆえの悪意なき脅しなのだし、向き合っていくしかあるまい。
でも氷海とのそういう関係は、里帆や里奈ちゃんへの隠し事、になるよな。
ううむ……ヒミツが増えていくな。
僕はきちんと抱えきれるんだろうか。
とりあえず帰ろう。
僕は住宅街の方向へと歩き出した。
「――琉斗くん♡」
「……っ」
そんな帰り道の途中、背後からいきなり名前を呼ばれてゾクッとした。
「……り、里奈ちゃん」
「えへへ、今帰りなんだね?」
そう――黒髪ツインテのスレンダーJCこと里奈ちゃんが、目のハイライトを消した表情でにこやかに迫ってきたところだった。
どういうことだ……まさか尾行されていたのか?
里奈ちゃんの手にはスマホが握られている。
当然のように催眠アプリが起動されていた。
……尾行されていたんだとすれば、いつからだ?
もしかしてファミレスでの会話を聞かれていた……?
いや……僕が演技していると看破したなら催眠アプリは使ってこないはず。
使ってくるってことは、演技バレはしていないんだろう。
でも、
「――ネカフェで氷海さんと楽しそうなこと、してたね?」
氷海とのえっちな戯れは見聞きされていたっぽいな……。
僕はひとまず虚ろな演技を開始する。
さて……何が目的だろうか。
イヤな予感しかしない……。
「あたしね、やっぱりなんだかんだ琉斗くんと直接触れ合う方がいいな~、って思い始めちゃったんだ」
里奈ちゃんはそんなことを言ってくる。
「誰かと琉斗くんが密接に触れ合う様子を窺って悶々とするのもいいけど、一番良いのはやっぱりあたし自身が琉斗くんと戯れることなんだよなぁ、って先日から今日までに再確認出来た感じ♡」
……まぁそれが健全だよな。
寝取らせっぽい趣味はさすがにJCにしては業が深すぎるし。
「だから琉斗くん――今からあたしもおねえや氷海さんみたいに挟んで戯れてあげるね♡」
……なんだと。
言っちゃなんだが、里奈ちゃんは挟めるほどボリューミーじゃない。
どうするつもりだ……。
「とりあえず場所変えよっか。ついてきて?」
と言われて案内された先は、里奈ちゃんの部屋だった。
「まだおねえ帰ってないし、おねえが帰ってきたとしてもここにわざわざ顔を出してくることってないし、意外と灯台下暗しなんだよね」
なるほど……。
「へへ、まずはチューしよっか♡」
そう言って僕をベッドに押し倒すと、里奈ちゃんは僕に跨がりながらちゅっとキスをしてきた。
姉同様、激しいキスの嵐が見舞われる。
口元は一瞬にして互いの唾液まみれになった。
「ぷは……へへ、琉斗くんを独り占め出来るこの時間、ほんと好き♡」」
……そうかいそうかい。
「氷海さんみたいに素の琉斗くんといちゃいちゃ出来たら一番いいんだけど、そんな勇気ないのがあたしのダメなとこだから、いつか改善しないとね」
一応そういう前向きな意識はあったんだな。
「でもこの状態なら思いっきり裏の気持ちを表に出せるから、中毒性ヤバいんよね……昔勝手に琉斗くんのパンツ盗んだことも懺悔として言えるし」
おい! パンツ返せ!
「そのときのお詫びも兼ねて、この時間はいっぱい気持ち良くしてあげるね♡」
……そうしてもらおうじゃないか。
「さてさて、じゃあ挟んであげようと思うんだけど、あたしには挟めるほどのお肉がありません」
……だな。
「そこであたしは考えました。挟み芸が出来る部位は何もぺぇだけではないと」
……ほう。
「あたしね、身体の中で一番自信があるのは脚なの」
……ふむ。
確かに里奈ちゃんの脚は綺麗だ。
160センチ近いスレンダーボディー。
短く折られたスカートから覗く脚はムダ毛の1本もなくしなやか。
細すぎるわけでもなく、健康的である。
「だからあたしはこの自慢の脚で挟んであげちゃうもんね」
ぴらっ、と里奈ちゃんがスカートをたくし上げ、白い清純なおぱんつを見せてくれた。
ここ、というのは……まさか脚の付け根?
クロッチの摩擦感を味わわせてやるぜ、ってこと?
それは僕の理性が危うくなりそうな予感が……。
「あ、ちなみにスるときは下着脱いじゃうから……♡」
あ……拝啓父さん母さん、僕は今日このときこの場所で、演技どころではなくなりお猿さんと化すかもしれません(遺言)。
◇side:萌果◇
「りゅー兄ぃ……どったの?」
午後7時30分頃。
ちょっと遅めに帰ってきた琉斗の様子を見て、萌果は小首を傾げていた。
「勝ったぞ……僕は勝ったんだ……」
さながら戦地から帰投したかのような迫真の表情で、琉斗は萌果の肩をがしっと掴むように手を置いてきたのである。
「か、勝ったってなんのこと?」
「……出しはしたけど、欲望には勝ったんだよ」
「へ?」
「お前のガキくさい容姿を見てると落ち着くな……すべてがしぼんでいくよ」
「な、なんかすごい失礼なことを言われてる気がする……」
よく分からないが琉斗にそこはかとない苛立ちを覚えた萌果は、琉斗の嫌いなしいたけを夕飯の味噌汁に大量投下することを心に決めたのであった。
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